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最新10件

AGOAの今後

2025/05/25/Sun

 今年9月に更新時期を迎えるAGOA(アフリカ成長機会法)については、トランプ政権の下で、そのまま延長されることはないだろうという見方が一般的である。21日付ルモンド紙は、米国国務省の担当官フィトレル(Troy Fitrell)の発言を紹介している。そこからトランプ政権の考え方がうかがえる。  フィトレルは次のように述べている。  「もしAGOAが更新されるなら、それは近代世界の取引を反映したものになる」「もっと相互性が明確に反映されたものになる」「私がAGOAの更新のために何をするか尋ねる人がいたら、私はこう尋ねる。あなたは何をしたか?」  フィトレルはまた、「多くのアフリカ諸国が米国との自由貿易協定の可能性を打診している。これはワシントンにとっても好ましいことだ」と述べている。  以上から見えてくるのは、米国が一方的に関税を免除することはせず、米国が関税を免除するなら、アフリカ側も関税を免除すべきだという考え方だ。USAIDの解体が示すように、トランプ政権は、米国が他国に奉仕するような関係性を拒否し、必ず目に見える見返りを要求する。 この行動には、そうする余裕がないという経済的理由だけでなく、相手が誰であれ一方的な優遇措置は与えないという思想的な理由も大きいと思われる。AGOAだけでなく、開発援助そのものを否定する論理である。私たちの前に、どのような世界が広がっているのだろうか?(武内進一) アフリカからの留学生支援のため、現代アフリカ教育研究支援基金へのご協力を呼びかけています。  

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コンゴ東部からルワンダへの帰還作戦

2025/05/24/Sat

 コンゴ民主共和国東部から、大量のルワンダ人が本国に移送されている。21日付ルモンド紙によれば、5月10日以来、ルワンダ政府は大規模な帰還作戦を行い、その数は2000人を超えた。このオペレーションは、UNHCRと反政府武装勢力のAFC/M23とが協力して行い、ルワンダ政府が支援している。  M23は、コンゴ東部に「不法に滞在しているルワンダ人」を本国に帰還させていると主張している。帰還の対象になっているのは、コンゴ東部で活動するルワンダの反政府武装勢力FLDR関係者と目された人々で、フトゥ人である。FDLRの源流は、1994年にルワンダ内戦で敗れた旧ハビャリマナ政権支持者で、ジェノサイドに加担した人々も含まれる。  AFC/M23は、人々が自発的にルワンダに戻っていると主張する。帰還に際して、同意書に署名しているようだ。しかし、UNHCRの地域スポークスマンは、「帰還は完全に自発的というわけではない」と認めている。  この帰還作戦は、ルワンダ政府の明確な意図に基づくとみられる。同政府は、機会あるごとに、コンゴ東部における「FDLRの脅威」を強調してきた。M23がゴマ、ブカヴをはじめとする東部を支配したタイミングで、FDLRの弱体化を狙って、関係があると見られる人々を送還しているのであろう。UNHCR職員は、「帰還のスピード、ルワンダのトランジットセンターに運ばれるやり方」に懸念を示したと報じられているが(21日付ルモンド)、帰還した人々はイデオロギー教育の対象となる。  この帰還作戦もまた、東部コンゴの勢力図が塗りかわり、M23、AFC、そしてルワンダ政府の影響力が支配的になったことを示している。(武内進一) アフリカからの留学生支援のため、現代アフリカ教育研究支援基金へのご協力を呼びかけています。 

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コンゴ東部紛争のブルンジへの影響

2025/05/23/Fri

 コンゴ東部紛争において、ブルンジはコンゴ政府側に立ってM23などの反政府武装勢力と戦った。今年1月以降、M23がゴマ、ブカヴなど東部の主要都市を制圧し、支配的な立場を維持している。M23とAFC(コンゴ川同盟)そしてそれを支持するルワンダが東部コンゴで勢力圏を確立し、コンゴ政府とブルンジを含む同盟勢力は戦闘に敗れた状態にある。  3月以降、和平をめぐる動きがあった。3月18日に、コンゴのチセケディ大統領とルワンダのカガメ大統領がカタールで直接対話し、4月25日には米国のワシントンで両国外相が会談した。5月5日には、米国のブロス大湖地域特使が、両国から和平協定原案を受け取ったと発表した。ルワンダの外相は、6月にカガメ、チセケディの間で和平協定が署名されるとの見通しを示している(5月6日付ルモンド)。  和平プロセスが進展したように見えるが、M23とルワンダ側が、東部コンゴに勢力圏を確立した状況は変わっていない。  こうしたなかで、5月19日付ルモンド紙は、この紛争がブルンジに与えた影響について報じている。この記事によれば、コンゴ紛争が、ブルンジの政治体制をいっそう独裁的、抑圧的に変えているという。  ブルンジはもともと、2021年初めにコンゴに派兵した。この時は、コンゴ東部で活動するブルンジの反政府武装勢力Red-Tabaraの掃討作戦実施を理由としていた。二国間軍事協定が結ばれたが、2023年8月になって両国は、この協定をM23との戦闘に対応するよう拡大した。しかし、この情報は一般に公開されなかった。  昨年来の戦闘で、コンゴ東部では多数のブルンジ兵が戦死している。コンゴに送られたブルンジ兵の大部分は新兵で、3ヶ月程度の訓練後に装備も不十分なまま前線に送られた。ゴマがM23の手に落ちる前、2024年12月のングング(Ngungu)の戦いでは、数百人のブルンジ兵が戦死したという。  ブルンジ政府は、こうした状況について一切公表していない。同国内では埋葬が続いているが、家族にも知らされず、こっそりと行われているという。  コンゴ紛争の激化は、ブルンジの人権状況に影響を与えている。ブルンジ市民社会の報告書は、コンゴ紛争が反体制派や市民社会の監視、抑圧、逮捕の口実として使われている、と述べている。多くのブルンジ兵が戦死したとWhatsAppに投稿した者や、M23に好意的な書き込みをした者が国内で逮捕されているという。  ここ数年、ブルンジとルワンダの関係は非常に悪化しており、国境も封鎖されたままである。両国は互いに、相手国が反政府武装勢力を支援しているとの非難を繰り返し、ブルンジによるコンゴ紛争への介入の背景になっている。  カタールや米国でコンゴとルワンダの首脳や外相が会談し、和平が進展したかのような印象を与えているが、このまますんなり和平プロセスが進展するとは到底思えない。(武内進一) アフリカからの留学生支援のため、現代アフリカ教育研究支援基金へのご協力を呼びかけています。 

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マリで反軍事政権デモ

2025/05/10/Sat

 5月2日、3日、マリの首都バマコで大規模な反政府デモが起こった。数百人のデモ隊は、軍事政権を非難し、憲政への復帰を要求した。2000年8月18日のクーデタ以降、今回のように公然と反軍事政権のスローガンが叫ばれたのは初めてである。数百人のマリ人が拳を突き上げ、国旗を掲げて軍事政権に挑戦した(8日付ルモンド)。  反政府デモのきっかけは、軍事政権が政権に居座る姿勢を明確にしたことである。4月29日、開催されていた国民協議(concertation nationale)が結果を発表し、アシミ?ゴイタ(現軍事政権トップ)が選挙を経ずに2025年から5年間の任期で共和国大統領となること、また全ての政党を解散することを勧告した。マリの政党は、ほぼこの協議をボイコットしていた。  大規模な反政府デモは、これを受けて起こった。軍事政権側は方針を変えず、5月7日、軍事政権が政党及び政治的団体の活動を無期限停止する政令を発表した。  これまでマリでは、軍事政権の下で制約はありつつも、政党活動の余地が残されていた。今回、それを完全に禁止し、軍部主導の政治体制を確立しようとしたところで、民衆の反発を招いたのである。  背景には、軍事政権の成果に対する国民の不満がある。物価高騰、失業、電力不足といった経済問題を軍は解決できず、ジハディストの活動も抑制できていない。2023年11月にキダルを制圧するなどの勝利はあったものの、マリではアルカーイダ系のGSIM、イスラム国系のISIS-GSが活動領域を広げ、特にGSIMは2024年9月に首都バマコの軍施設を攻撃し、多数のマリ国軍兵士を殺害した。  今回のデモがどの程度軍事政権を揺さぶるかはまだわからないが、国民に不満が蓄積されていることは間違いない。(武内進一) アフリカからの留学生支援のため、現代アフリカ教育研究支援基金へのご協力を呼びかけています。 

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ナミビアの大学授業料廃止発表と「#FeesMustFall」

2025/04/30/Wed

 先月3月末にナミビア初の女性大統領に就任したネトゥンボ?ナンディ=ンダイトゥア氏は、今月24日に行われた初めての一般教書演説で、2026年から大学の授業料を廃止すると発表した。同国では、すでに初等中等教育は国内のすべての公立学校で無償となっている。  演説では、同国のすべての国公立大学と職業訓練センターにおいて、登録料および授業料を廃止するが、追加資金は「大幅に」増額しないと述べている。そのため、議員や学生団体などから、計画の実現可能性に疑問が投げかけられている。  同大統領は、大学教育の無償化は段階的に実施され、「当面は学生と家族が負担する費用は、住居費やその他の関連費用のみ」だと述べた。この資金は、すでに一部の公立大学に支給されている補助金と、学生経済支援基金に割り当てられた資金からまかなわれる。  学生団体の一部は大統領の発表を歓迎したが、実現不可能で計画が曖昧だと批判する団体もあった。その一つ、Affirmative Repositioning Student Command(ARSC)は、BBCの取材の中で「(大統領の発表には)計画はなく、混乱した発表に過ぎず、ナンディ=ンダイトゥア氏にとって高等教育とは何を意味するのか疑問が生じる」と述べている。  地元紙ウィントフック?オブザーバーの取材に応じた経済学者タナン?フロネヴァルト氏も同様に、追加資金を投入せずに授業料を廃止すれば、学生数に上限が設けられる可能性があり、最終的には低所得世帯の生徒にのみ適用される可能性があると指摘する。  隣国の南アフリカでは、同様の問題が実際に起こっている。同国では、ここ数年、学生らが公正な教育を求め、高等教育の費用を下げるよう、抗議活動をしている。この運動を受け、政府は2017年に授業料廃止を求める声に応じた。しかし、その恩恵を受けたのはごく少数の学生にとどまり、その後、いわゆる「ミッシング?ミドル」と呼ばれる層、つまり経済的支援を受けるには裕福すぎるとされながらも授業料の支払いに苦労する層が除外されたため、制度が限定的すぎると批判されてきた。  なぜ南アフリカの学生らは抗議活動をするのか。背景となるのは、アパルトヘイト(人種隔離)政策が実施された同国の歴史と強くかかわる。アパルトヘイト政権は、黒人の若者の成長と将来を制限するために、1953年にバンツー教育法を制定した。この法律にもとづく教育制度は、黒人を低賃金の仕事に留め、高等教育へのアクセスを制限することを目的としていた。1994年にアパルトヘイト政策が撤廃されたものの、今日すべての国民が受けられる教育、特に高等教育は、低所得世帯が負担できる金額をはるかに超える。  2015年には、ウィットウォーターズランド大学の学生らが、授業料値上げが提案されたことをきっかけに、「#FeesMustFall」運動を開始し、同国の各大学の学生らが次々と抗議活動を展開した。ハッシュタグを付けた「#FeesMustFall」がソーシャルネットワークサービスを通じて拡散され、運動が拡大していった。この抗議は、同国の大学における制度的人種差別の解体を目指してケープタウン大学で始まった「#RhodesMustFall」運動と連動しながら勢いを増し、国際的な注目を集めた。運動の名称にもなったケープタウン大学に設置されていた19世紀の帝国主義者で政治家のセシル?ジョン?ローズの像は撤去され、南アフリカ全土における教育の脱植民地化を求める、より広範な運動へと発展した。  南アフリカ同様にアパルトヘイト政策が適用されたナミビアでも、この抗議活動が広がっている。2016年1月には抗議に押されるかたちで、ナミビア大学とナミビア科学技術大学が同年の入学登録料を廃止した。その後も学生運動は継続し、授業料以外の費用の財源確保や、大学院生への支援、公平な財政援助の配分といった問題についての請願や集会がひらかれていた。  今回のナミビアの新大統領による発表は、こうした一連の流れの中に位置付けられるものである。高等教育の機会を広げるという理念はよいが、ARSCが危惧するように具体的な計画をともなわない無謀な政策は、単なる注目を集めるための策略と受け取られても仕方ないだろう。南アフリカにおける2017年の高等教育無償化の発表は、任期満了に際したズマ前大統領によるものだった。その後、このタイミングでの発表の背後にはアフリカ民族会議(ANC)の後継者争いあるのではないかとささやかれていた。  ケープタウン大学の社会人類学者フランシス?ニャムンジョが指摘するように、学生らによる抗議活動は、歴史的な植民地主義やアパルトヘイトに対する反発にとどまらず、本質的には人間としての闘い、すなわち人びとを「価値あるもの」と「価値のないもの」、「私たち」と「彼ら」と分類するあらゆる制度に対する反発である。けっして政治家のパフォーマンスのために利用されるべきではないだろう。(宮本佳和)  クラウドファンディングへのご協力ありがとうございました。引き続き、現代アフリカ教育研究支援基金へのご協力を呼びかけています。

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コートジボワール最大野党党首を選挙人名簿から排除

2025/04/27/Sun

 4月22日、経済首都アビジャンの裁判所は、最大野党PDCIのティアン(Tidjane Thiam)党首について、選挙登録時にフランス市民だったとの理由で選挙人名簿から排除する決定を下した。この決定は上告できない。これにより、10月25日の大統領選挙にPDCI公認で出馬予定だったティアンは、立候補資格を失うことになる。  ティアンはアビジャン生まれだが、フランスとコートジボワールの二重国籍保持者だった。しかし、大統領選挙への立候補資格を確実にするため、この3月にフランス国籍を返上していた。  事件の発端は、ティアンの国籍をめぐって、選挙人名簿からの排除を求める申し立てが独立選挙委員会(CEI)に起こされたことである。1961年に制定されたコートジボワールの国籍法第48条は、「他の国籍を取得するとコートジボワール国籍を喪失する」と規定している。これを引き合いに出して、ティアンはフランス国籍を取得した1987年にコートジボワール国籍を失ったという申し立てであった。  CEIがこれを却下したため裁判所に提訴され、その判決が22日に下された。当然ながらティアンはこれに猛反発し、与党関係者がライバルを排除するために司法を利用したと非難している(23日付ルモンド)。  コートジボワールの歴史を知る者にとって、これは不吉なニュースである。1990年代、独立以降大統領の座にあったウフエ=ボワニの死後、その後継者争いの中で、当時PDCI党首で大統領を務めたベディエは、「コートジボワール人性」(イボワリテ)という概念を打ち出し、北部出身のワタラ(現大統領)の大統領立候補資格を剥奪した。2000~2010年代にこの国が経験した混乱と内戦は、それが重要なきっかけになった。  この決定に反発するPDCIはデモを組織したが、参加者は多くなかった(24日付ルモンド)。ティアンは現在フランスに居住しており、大衆の支持は厚くないのかもしれない。  しかし、こうした形で有力野党の候補者を排除するやり方は、コートジボワール政治を蝕むであろう。既に83歳と高齢のワタラがすんなり4回目の大統領選挙に勝利するのか、全く定かではない。(武内進一) アフリカからの留学生支援のため、現代アフリカ教育研究支援基金へのご協力を呼びかけています。 

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勃発から2年のスーダン内戦とチャドへの影響

2025/04/19/Sat

 4月15日で、スーダン内戦勃発から2年が経過した。この日からロンドンで、内戦の早期和平を目指して、19ヵ国を招いて国際会議が開催された。会議には、ブルハーンの軍事政権側も、ヘメティのRSF側も招待されなかった。軍事政権側は、UAE、ケニア、チャドといったRSFへの支援が疑われる国々が招待されたことを批判した。  同じ15日、RSFは独自の政府樹立を宣言した。おおよそ首都ハルツーム以東を押さえた軍事政権側と、ダールフールを中心に西部から南部を押さえたRSF側が、それぞれ政府を樹立して対峙する状況になっている。  スーダン内戦は周辺国を巻き込んだ地域紛争の様相を呈しているが、チャドは特にその影響を受けている。内戦開始以来130万人の難民がスーダンから流入し(16日付ルモンド)、東部国境付近には数十万の難民を受け入れた町もある。  チャド内政には不穏な動きが見られる。13~14日にかけて、マハマト?デビィ大統領は、治安、国防関係の高官約10名を罷免した。また10日には、大統領のイトコで、大統領警護隊トップや軍参謀長を務めたマハマト?イトノ(Abdelrahim Bahar Mahamat Itno)将軍が罷免されている。  デビィ大統領をはじめチャドの権力中枢はザガワ(Zaghawa)人が占めているが、彼らの多くはスーダン内戦でRSFを支援するデビィ大統領に批判的である。RSFはダールフールのアラブ系住民が中心を占め、彼らは内戦のなかでザガワ人をはじめとする非アラブ系住民に激しい暴力を行使し続けている。イトノ将軍も最近、ザガワコミュニティの会合で、デビィ大統領を厳しく批判していた(15日付ルモンド)。  今回の軍高官解任劇は、チャドの権力中枢における緊張の高まりを示している。これまでもチャドは、ザガワ人内部の対立による政治不安を繰り返してきた。若い権力者のマハマト?デビィ大統領は、この危機にどう対応するだろうか。(武内進一) アフリカからの留学生支援のため、現代アフリカ教育研究支援基金へのご協力を呼びかけています。 

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南アフリカに対するトランプ政権の「いじめ」

2025/04/13/Sun

 南アフリカに対して、トランプ政権が度を超した介入を行っている。3月30日付ニューヨーク?タイムズの報道によれば、"Mission South Africa"と命名されたプロジェクトで、プレトリアの空きオフィスをアフリカーナー「難民」の一時居住のために整備している。8200人以上の難民申請を受け、アサイラムを与える100人のアフリカーナーを選定したという。  その翌日に発表された「相互関税」でも、南アに対して31%の高関税が課された。  トランプ政権は、南アについて、白人農民に対するジェノサイドがあり、白人農民から土地を取り上げ、同盟国のイスラエルをジェノサイドでICJに訴えたと非難している。このうち3番目は事実だが、それ以外は嘘である。  「白人農民に対するジェノサイド」は、南ア国内で白人至上主義団体が述べていたもので、その主張をイーロン?マスクやトランプが広げた経緯がある。この議論は、今年2月南アの司法によって「全く事実ではない」と否定されている。  南アフリカ農村部に犯罪が多く、特に2000年代前半に農場襲撃が頻発したことは事実だが、これは白人も黒人も被害を受けている。それ以降、農場襲撃件数は減少しているし、特定のグループが標的にされているわけではない(4月12日付ファイナンシャルタイムズ)。  アパルトヘイト廃絶後も、南アの土地の過半を白人が所有している状況は変わらない。トランプ政権は南アフリカの土地収用法を批判するが、この法律は公共事業などに際しての土地収用の手続きを定めたもので、どの国にもある内容だ。白人農民の土地が黒人に奪われているという状況は、現在の南アフリカには全く存在しない。  一方、アフリカーナーのなかに、トランプの発言を歓迎するグループがいることは間違いない。アパルトヘイト廃絶後の立場の変化を受け入れず、米国にロビー活動を続けてきたグループが南アには存在する。「8200人以上の難民申請」の真偽はともかく、この機に米国に移住したいと考えるアフリカーナーがいても不思議ではない。  トランプ政権は、南ア国内の人種対立を煽り、分断を深めている。こうした行動を取る最大の要因は、南アがイスラエルをICJに訴えたことにあるだろう。南アが生意気で、目障りだという「いじめ」の論理である。  アメリカは、世界の「いじめっ子」になった。世界最大の軍事、経済大国が「いじめっ子」になり、国際政治経済を攪乱している。不幸なことだが、その前提を受け入れて対応策を考えるしかない。(武内進一) アフリカからの留学生支援のため、現代アフリカ教育研究支援基金へのご協力を呼びかけています。

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コンゴ民主共和国東部紛争和平プロセスの複線化

2025/04/12/Sat

 コンゴ民主共和国東部紛争の和平プロセスが、複線化、複雑化の様相を呈している。アフリカ連合(AU)から指名されたアンゴラのロウレンソ大統領が仲介の任に当たってきたが、3月24日にその役目を返上した。  仲介役としてロウレンソは、2024年12月15日にチセケディとカガメの会談、2025年3月18日にコンゴ政府とM23の会談を設定したが、最後になって、前者はカガメが、後者はM23が来訪をキャンセルした。  一方同じ3月18日には、カタールのドーハでチセケディとカガメが会談した。カタールは両国との経済関係を梃子に2人を対話させ、一定の外交的成功を収めた。  しかし、アンゴラはカタールの動きに不満を抱いている。アフリカ外交の原則は、「アフリカの問題は、アフリカ域内で解決する」ことだ。カタールの動きは、アフリカの域内外交をないがしろにしているとの不満が燻っている。  ロウレンソの下で、東アフリカ共同体(EAC)と南部アフリカ開発共同体(SADC)とが並行して和平プロセスに関与する格好となっていた。しかし、2月8日のAUサミットで、この二つを一本化することが合意され、それを主導する5人の元国家元首が選出された。エチオピアのゼウデ(Sahle-Work Zewde)、中央アフリカのサンバ=パンザ(Catherine Samba-Panza)、ケニヤのケニヤッタ(Uhuru Kenyatta)、ナイジェリアのオバサンジョ(Olusegun Obasanjo)、南アフリカのモトランテ(Kgalema Motlanthe)の5人である。  また、ロウレンソの後任として、トーゴのフォール?ニャシンベ大統領の名前が挙がっている。  とはいえ、5人がどのような役割分担とロードマップで和平プロセスに関与するのか、フォール?ニャシンベの役割は何か、カタールの和平プロセスとの関係はどうなるのか、など不明点は依然として多い。カガメとチセケディが一度会っただけで紛争が終結するほど、簡単な話ではないだろう。(武内進一) アフリカからの留学生支援のため、現代アフリカ教育研究支援基金へのご協力を呼びかけています。

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トランプ政権がレソトに50%の関税

2025/04/09/Wed

 米国のトランプ政権は4月2日に「相互関税」を発表したが、そのなかで南部アフリカの小国レソトに50%もの関税を賦課した。レソトについて、トランプは3月、USAIDの事業を批判する文脈で「誰も名前を聞いたことのない国だ」と揶揄していた。  レソトは周囲を南アフリカに囲まれた国だが、米国向けのアパレル輸出を行うアジア系企業の工場が立地している。この産業部門には約36,000人が就業しているが、うち12,000~15,000人が中国、台湾、バングラデシュ企業の工場で働き、Levi's、Calvin Kleinなどのブランド名で米国向けの商品を生産している。これらの商品は、AGOA(アフリカ成長機会法)の優先枠を利用して輸出されてきた。  レソトが対米貿易黒字国であったため、50%もの「相互関税」を引き起こしたとみられる。レソトのアパレル産業を支える企業の親会社はアジアにあるので、高関税を受けて撤退する恐れがある。  「レソトは米国からの輸入品に99%の関税をかけている」との米国の主張に対して、レソト外相は、「はっきりさせておきたいが、それは正しくない。我々はSACU(南部アフリカ関税同盟)のメンバーで、共通の関税率7.5%を適用している」と述べた(4月8日付ルモンド)。  トランプ政権による「相互関税率」算出のいい加減さは既に指摘されているが、レソトの事例はこの新政策の不条理と不正義を示すよい例だ。米国はアフリカの産業育成の観点からAGOAを制定したのであり、レソトはその成功例のひとつであった。成功したが故に50%もの関税を要求されたわけである。自国が推進した政策を否定するトランプ政権が、世界に混乱をまき散らしている。(武内進一) アフリカからの留学生支援のため、現代アフリカ教育研究支援基金へのご協力を呼びかけています。

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