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コンゴ東部情勢と2つの地域機構

2025/02/02/Sun

 29~30日にかけて、コンゴ東部の主要都市ゴマは反政府武装勢力M23に制圧された。事態の外交的打開に向けてアフリカの地域機構も関与を模索しているが、2つの地域機構が異なる動きを見せている。  29日、東アフリカ共同体(EAC)は臨時サミットを開催した。このオンライン会合には、加盟国8ヵ国のうち、コンゴ民主共和国を除く7ヵ国が参加した。会合では、コンゴにM23との直接対話を促す声明が発表された。ルワンダのカガメ大統領はこの会合で、M23との直接対話を拒否するチセケディ?コンゴ大統領の姿勢を批判した。  31日、南部アフリカ開発共同体(SADC)の臨時サミットが開催された。ジンバブウェのハラレで開催され、島嶼国の加盟国3ヵ国を除く13ヵ国の首脳が集まった。声明では、「M23とルワンダ国軍」によるSADC平和維持軍(SAMIDRC)への攻撃を強く非難したうえで、コンゴ支援へのコミットメントを約束した。コンゴはSADCに加盟しているが、ルワンダは加盟国ではない。  コンゴ東部紛争に対して、アフリカ諸国は2つの和平プロセスを走らせている。ひとつは、AUが指名したアンゴラのロウレンソ大統領によるルアンダ?プロセス、もうひとつは、ケニアのケニヤッタ元大統領が主導するナイロビ?プロセスである。  いずれの和平プロセスもうまく進んでいない。ルアンダ?プロセスが破綻した理由について、31日のSADCサミット声明では、M23とルワンダ軍による停戦合意違反がその理由だと述べている。一方、ルワンダ側は、チセケディがM23と直接対話しないことがその理由だと繰り返し、29日のEACサミット声明ではその主張が盛り込まれた形である。  二つの地域機構の声明に違いが出る背景には、チセケディとカガメが、それぞれ他のアフリカ諸国首脳とどのような関係を結んでいるかが影響している。チセケディは、ケニアのルト大統領を信頼していない。2023年12月に、M23と共闘する「コンゴ川同盟」(AFC)がナイロビで旗揚げして以来、両者の関係は悪化している(30日付ルモンド)。  EACはナイロビ?プロセスに基づいて2022年9月以降平和維持部隊(EACRF)をコンゴ東部に派遣したが、チセケディはM23との戦闘に無力だとして不満を表明し、2023年5月にはSADCの平和維持部隊(SAMIDRC)の受入れを表明した。その後、EACRFは2023年12月に撤収し、M23により強いアプローチを取るSAMIDRCが国連平和維持部隊MONUSCOとともにコンゴ東部に展開している。SAMIDRCもMONUSCOもM23と激しい戦闘を行っており、ゴマ制圧に際しては、2つの平和維持部隊で17名の兵士(うち13名が南アフリカ兵)が死亡した。  一方、カガメはSADCの役割を認めていない。1月30日には、南アフリカのラマポサ大統領に不満を表明し、南アフリカは仲介者の役割にない、SAMIDRCは平和維持部隊ではない、紛争を望むならルワンダもそう対応する、と脅しとも取れる内容をXに投稿した。  29日のEACサミット声明、31日のSADCサミット声明のいずれも、2つの地域機構が近日中に合同サミットを開催すると述べている。これが事態の打開につながることを望みたい。(武内進一) クラウドファンディングへのご協力ありがとうございました。引き続き、現代アフリカ教育研究支援基金へのご協力を呼びかけています。

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再交渉後の共同宣言への強い反発

2025/01/31/Fri

 今年3月末までに締結が予定される、植民地期のナミビアでおこなわれたジェノサイドの「賠償」に関する共同宣言について、被害者代表らが強い反発を表明した。  ナミビア政府は、先月中旬、植民地期の残虐行為をめぐるナミビアとドイツ両政府間の約10年におよぶ交渉の終了を告げた(「今日のアフリカ」、2024年12月31日)。2015年から交渉されてきた謝罪や「賠償」をめぐる草案は、2021年5月に署名され、共同宣言が出されていた(「今日のアフリカ」、2021年5月29日)。以来、被害を受けた人びとの代表組織などからの反発を受け(「今日のアフリカ」、2021年6月10日)、追加条項の交渉が続いていた。  ジェノサイドの被害者であるヘレロとナマの伝統的指導者らの各組織(OCAとNTLA)は、今月12日と18日にそれぞれ会見をひらき、反発を表明した。両者とも、ジェノサイドの直接の犠牲者の子孫であるにもかかわらず、交渉のプロセスから除外されてきたと主張している。ヘレロの伝統的指導者らで構成されるOCAの専門委員カンドゥンドゥ氏は、12日の集会において、14の地域のすべての首長が共同宣言から距離を置いており、首長らは政府に対して、計画を見直し、国民会議を招集するよう求めていると述べている。一方、ナマの伝統的指導者らで構成されるNTLAの副議長ハンセ氏は、18日の会見において、ナミビア政府が政府間の交渉枠組みを優先して、伝統的指導者らを故意に排除してきたと述べている。  また、NTLAは、ドイツが草案において「賠償」という用語を避け、法的責任を最小限にとどめようとしていることを非難している。同様の点については、ジェノサイド交渉の特使だった故ゼデキア?ンガビルエ氏も、ドイツの植民地支配の影響を受けた他のアフリカ諸国からの法的責任の追及を防ぐために使用を避けていると繰り返し指摘していた。現に、タンザニアはドイツに対して、ナミビアの例を出しながら、20世紀初頭の植民地支配中に起きたマジマジの反乱で殺害された人びとに対する「賠償」を求めていた。加えて、植民地期の残虐行為をジェノサイドと認めるか否かも論点になってきた。ドイツは、ナミビアに対しては、2021年の共同宣言の際にジェノサイドと認めて謝罪したが、タンザニアに対しては、2023年に謝罪したものの認めなかった。  こうした「賠償」や謝罪などの植民地支配の過去をめぐる問題は、ドイツだけでなく、イギリス、フランス、ベルギーなど植民地支配をしてきた諸国が抱えるものである。物議を醸しているナミビアとドイツの共同宣言がどのような結論を迎えるのかによって、同様の問題を抱える諸国に大きな影響が出そうである。(宮本佳和) クラウドファンディングへのご協力ありがとうございました。引き続き、現代アフリカ教育研究支援基金へのご協力を呼びかけています。どうぞよろしくお願いいたします。

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M23がコンゴ東部の主要都市ゴマに侵入

2025/01/28/Tue

 27日、反政府武装勢力M23は、東部の主要都市ゴマに侵入した。M23やそれと共闘する「コンゴ川同盟」(AFC)はゴマを制圧したと発表したが、27日時点で事態は混乱しており、完全に制圧したわけではなさそうだ。  これに先立つ26日、国連安保理で緊急会合が開かれ、グテーレス事務総長は、ルワンダ軍にM23への支持を止め、コンゴから撤退するよう要請した。事務総長がルワンダを名指ししたのは、これまでにないことだった。同会合では、米国、英国、フランスも、ルワンダに撤兵を呼びかけた(27日付ルモンド)。  『名前を知らない戦争』の著者スターンズは26日付ファイナンシャルタイムズ紙に論説を寄せ、紛争終結にはルワンダに圧力をかけるしかないと強調した。  M23は2012年にもゴマを制圧したが、この時は国際社会がルワンダに援助停止などの制裁措置をとり、ルワンダが支援を控えたことでM23の崩壊につながった。今回、欧米諸国はルワンダにコンゴから撤兵するよう呼びかけているが、制裁に向けた動きは今のところない。  この時期にM23がゴマを制圧した理由として、世界の関心がトランプ政権誕生に集まっているうえに、トランプ政権が自分たちの行動を承認するのではという期待がルワンダ側にあるとの指摘もある(27日付ルモンド)。  ルワンダ側のメディアは、コンゴ軍が、民兵組織ワザレンドゥ、ヨーロッパ人傭兵、ブルンジ軍、南部アフリカ共同体軍と協働し、かつてない脅威をルワンダに与えていると強調している(27日付New Times)。  1月に入ってから40万人が避難民となり、戦闘で国連平和維持部隊、南部アフリカ共同体軍にも合わせて13名の犠牲者が出ている。紛争は、大湖地域全域を不安定化させつつある。(武内進一) クラウドファンディングへのご協力ありがとうございました。引き続き、現代アフリカ教育研究支援基金へのご協力を呼びかけています。

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アフリカの原子力発電所需要

2025/01/19/Sun

 近年、原子力発電所設置への意欲を示すアフリカ諸国が続々と現れている。1月初めにはウラニウム産出国のナミビアが、中国の支援を得て原発開発への意欲を示した。12月にはジンバブウェが、原発設置に向けロシアと協力関係を結ぶと表明した。原発への関心がアフリカで高まる現状と背景を分析した15日付ルモンド紙の記事を紹介する。  現在、アフリカ大陸で稼働している原発は、南アフリカに1基あるだけだ。しかし、数年前から、ウガンダ、ガーナ、マリ、ブルキナファソ、ルワンダなどが開発計画を表明している。  2024年4月に世界原子力協会が実施した調査では、アフリカで約30ヵ国が原子力エネルギーの新プログラムを検討、計画、開始したと回答した。その多くは、ロシアのRosatom、中国のCNNCとの協力に基づくものであった。  その大部分は、実現まで時間がかかりそうだ。しかし、例外はエジプトで、Rosatomが北部の町エル?ダバア(El Dabaa)に4つの原子炉を建設した。建設費は290億ドルで、そのうち85%はロシアの貸付けで賄われた。原子炉は、2030年に稼働する予定である。  原発への高い関心の背景は、もちろん電化の必要に迫られているためである。現在アフリカの人口の約半分は、電気がない暮らしをしている。  一方、原発建設がそう簡単でないのは、建築費が巨額だからである。エジプトの原発建設費は、ブルキナファソやマリのGDPを上回る。この両国はRosatomと核開発?インフラ協定を結んだが、エジプトに行ったような貸付をロシアが他の国に行うのかは不明である。  技術面の革新として、小規模組立原子炉(Small Modular Reactor:SMR)が注目されている。300メガワット程度の能力で、安価に設置できる可能性がある。ただ、建設は簡単でなく、研究者は多くの国では設置まであと20~30年かかるだろうと予想している。  ただし、進捗が顕著な国もある。ガーナは、2016年から核安全省を設置した。ルワンダは、2026年に実験用原子炉建設を目指している。両国とも、SMR設置に向けてアメリカ企業と署名した(15日付ルモンド)。  アフリカの原発開発というと、ロシアや中国が友好国の歓心を買うために売り込んでいるイメージがあったが、事実はもっと複雑なようだ。脱炭素の中で原発回帰の流れが世界的に強まるなか、アフリカだけがそこから無縁であるはずはない。日本としても、安全性に関わる議論を喚起し、関連する情報や技術の提供を考える必要があろう。(武内進一) クラウドファンディングへのご協力ありがとうございました。引き続き、現代アフリカ教育研究支援基金へのご協力を呼びかけています。

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マリ軍事政権と鉱山開発企業との緊張

2025/01/18/Sat

 1月11日、マリ政府は、カナダのバリック?ゴールド社が操業するルロ?グンコト(Loulo-Gounkoto)金鉱山に軍を派遣し、3トンの金を差し押さえた。これを受けて同社は、同鉱山での操業を停止し、従業員8000人を一時休業にすると発表した。  マリ軍事政権と多国籍鉱山開発企業との紛争について、17日付ルモンド紙の記事が比較的手際よくまとめているので紹介する。  ルロ?グンコト鉱山には、アフリカ最大、世界有数の金鉱脈がある。2023年には19トンの金を産出し、マリの年間総生産量(65トン)の3分の1を占めた。バリック?ゴールド社はここで2018年から操業している。  軍事政権は、マリの「主権回復」を主張してきた。その論理に基づいてフランスとの関係を断絶したが、同時に、金鉱山からさらなる利益を引き出そうとしてきた。マリの金鉱山は、その大部分が外国企業によって開発されてきた。  2022年末、マリ政府は鉱業部門の監査を実施し、その結果として、3000~6000億CFAフラン(4億5000万~9億ユーロ)の得られるべき利益を得ていないと経済金融省が発表した。2023年8月には、新たな鉱業法が発布された。これにより、外国企業に様々な税金が引き上げられ、国家が鉱山の3割を所有すると決められた。また企業は、利潤をマリの銀行口座に入金するよう義務づけられた。  この法律改正をめぐっては、外国投資を阻害するという主張と、鉱山企業に有利な制度が続いてきた状況下でのバランスの回復であって正当なものだとの主張がぶつかってきた。「一次産品のアフリカ諸国の取り分をめぐっては、基本的な問題がある。公正な分配ができていない。鉱業?石油部門で、企業はしばしば国家よりずっと多くの利潤を得ている」と、フランスの業界筋は述べている。  バリック?ゴールド社は、新鉱業法は軍事政権の懲罰的措置だとして、それに準じた支払いを拒絶してきた。同社は2024年半ば、マリ政府に3億7000万ユーロの支払いを提案したが、交渉はまとまらなかった。11月末には同社のマリ人従業員4名が逮捕され、現在もなお拘留されている。12月初めには、マリ裁判所は同社のブリストウ(Mark Bristow)社長の逮捕状を発行した。  新鉱業法の制定には、二人の人物が決定的な役割を演じた。マム?トゥレ(Mamou Touré) とサンバ?トゥレ(Samba Touré)である。同姓だが、血縁関係はない。両者は、イヴェンタス?マイニング(Iventus Mining)社の幹部だが、マリの新鉱業法制定に関与し、多くの勧告をした。彼らは、軍事政権トップのアシミ?ゴイタの側近サヌ(Alousséni Sanou)経済金融相に近いとされる。  イヴェンタス?マイニング社を創設する前、二人はランドゴールド?リソース(Randgold Resource)社で働いていた。同社は2018年にバリック?ゴールド社に買収されたが、その時の社長がブリストウで、二人はブリストウ社長との確執のため退職したという。今回の背景として、こうした個人的確執も指摘されている。  マリ政府との紛争を受けて、バリック?ゴールド社は、世界銀行の付属機関である国際紛争解決センター(ICSID)に仲裁を申し立てた。一般に、企業は投資国との紛争を回避しようとするので、仲裁機関への付託は異例である。この措置に伴う資金、評判リスクのために、ルロ?グンコト鉱山への新たな投資は非常に難しくなったと予想されている。  マリ政府は、自らこの鉱山を開発したいようだが、他のパートナーを探す可能性もある。その筆頭に挙げられるのが、ロシアである。ワグネルがマリで鉱山企業を二つ設立し、現在も操業している。  以上が記事の概要である。この事件は、サヘル諸国の軍事政権を支える論理を考える上でも興味深い。バリック?ゴールド社の社員を拘束するなどの措置が、軍事政権の横暴であることは疑いない。しかし、一方で、鉱山開発企業とアフリカ政府との間に公正な利益分配がなされてきたのかは疑問である。アフリカで広く鉱山開発企業への反発や圧力が強まっている現状は、この疑問を裏書きする。軍事政権がこぞって「主権」を掲げる背景には経済ナショナリズムと同じ論理があり、そこに一定の正当性を見る人々は少なくない。(武内進一) クラウドファンディングへのご協力ありがとうございました。引き続き、現代アフリカ教育研究支援基金へのご協力を呼びかけています。

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M23のマシシ制圧

2025/01/14/Tue

 1月4日、コンゴ民主共和国東部紛争において、反政府武装勢力M23が主要都市のマシシを制圧した。マシシはキヴ湖畔のゴマから約70キロに位置し、ルワンダ系住民が多く居住する地域である。M23は、2021年11月頃から活動を活発化させてきた。ウガンダ国境から活動を拡大させてきたので、東部コンゴの広範囲を制圧していることになる。コンゴ政府や国連は、ルワンダ軍の支援を指摘している。  マシシの陥落を受けて、米国国務省報道官は6日、M23が停戦合意を破っていると批判した。M23を支援しているルワンダに圧力をかける動きであった。  一方、ルワンダのンドゥフンギレヘ(Nduhungirehe)外相は、7日、国際社会のダブルスタンダードを批判した。これは、ルワンダばかり批判して、コンゴ側の問題を指摘しない、という意味である。  コンゴ東部ではルワンダ系住民(特にトゥチ人)が迫害されており、マシシ地区の多くの土地はFDLR(フトゥ系の武装組織。1994年のジェノサイドに加担した人々が含まれる)が占拠しているが、これについては批判しない。EUは、ヨーロッパからコンゴにやってくる傭兵について口をつぐんでいる。誰も、コンゴ政府とM23が直接対話する必要に言及しない。こうした主張であった(8日付New Times)。カガメ大統領も同様の主張を繰り返した。  M23が勢力を拡大するなかで、同じ議論が続いている。コンゴは、M23がルワンダの傀儡だとして直接対話を拒否している。ルワンダは、M23はコンゴ人であり、コンゴが自ら対話して解決すべきだと主張している。また、コンゴ東部におけるFDLRの存在こそ根本的な問題だ、とも繰り返している。  M23の中心は、コンゴのルワンダ系住民である。その意味で、対話を拒否するチセケディ政権の態度には問題がある。しかし、それは、ルワンダが東部コンゴに派兵し、介入を続ける理由にはならない。  年明けの戦闘で10万人が避難を余儀なくされているという。同じ議論がいつまで繰り返されるのだろうか。(武内進一) クラウドファンディングへのご協力ありがとうございました。引き続き、現代アフリカ教育研究支援基金へのご協力を呼びかけています。

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コートジボワールの仏軍基地返還

2025/01/05/Sun

 12月31日、コートジボワールのワタラ大統領は年末の演説で、アビジャン市ポール?ブエのフランス軍基地が、1月末までに返還されると述べた。第43海兵隊キャンプ (BIMA)のことである。  これはコートジボワール側からの一方的な通告ではなかった。ワタラは演説で、これが「協議の上で組織された撤退」であり、コートジボワール軍の「効率的近代化」に資するものだと強調した。  西アフリカではフランス軍に対する一方的な撤退要求が相次いでいるが、コートジボワールはそれらと分けて考える必要がある。今回の決定は、フランスとコートジボワールが協議の上で取られたものであり、第43BIMAの縮小は、仏大統領顧問のボケル(Jean-Marie Bockel)が2024年11月にマクロン大統領に提出した報告書でも言及されていた。この基地は返還されるが、コートジボワールのフランス軍がすべて撤退するわけではない。  フェリックス?ウフエ=ボワニ大学のバンガ(Arthur Banga)教授によれば、この決定に関して国民の意見は割れており、与党とPDCIの大部分は好ましく思っていない。サヘル地域でイスラム急進主義勢力の勢力が拡大し、テロの脅威が増しているためである(2日付ルモンド)。   この決定については、今年10月の大統領選挙への出馬が取り沙汰されているワタラが、フランスと一定の距離を取った方が有利と判断した可能性があるとの見立てがある(2日付ファイナンシャルタイムズ)。  フランス側としても、兵力削減に動くべきだとの判断があったはずである。ワタラ政権のコートジボワールは西アフリカで最も親仏的な国だが、反仏意識や「主権」を求める感情は、この国も含め、仏語圏アフリカ諸国全体で広まっている。こうした状況下、フランスとしては、軍の維持に固執するよりも、兵員削減に動く方が友好的な外交関係の維持に資すると判断したのであろう。(武内進一) 新年あけましておめでとうございます。東京外国語大学現代アフリカ地域研究センターでは、アフリカ人留学生招致のために、2025年1月10日までクラウドファンディングを実施しています。何とぞ、ご協力よろしくお願いします。

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10年にわたるジェノサイド交渉の閉幕と波紋

2024/12/31/Tue

 ナミビア内閣は、12日、植民地期の残虐行為をめぐるナミビアとドイツ両政府間の約10年におよぶ交渉の終了を告げた。  2015年から交渉されてきた謝罪や賠償をめぐる草案は、2021年5月に署名され、共同宣言が出された(「今日のアフリカ」2021年5月29日)。以来、被害を受けた人びとの代表組織などからの反発を受け(「今日のアフリカ」2021年6月10日)、追加条項の交渉が続いていた。  閣議決定を受け、内務副大臣のルシア?ウィトブーイ 氏は、19日、再交渉された共同宣言の内容と今後の方針を説明した。まず、開発などの支援プログラムとしてドイツが提示した金額に関しては、当初の11億ユーロに加えて、被害を受けたコミュニティのニーズに応じて追加資金が決定される。実施期間は、30年から23年に短縮された。加えて、共同宣言に沿ったプロジェクトを実施するための独立組織、特別目的事業体(SPV)の設立が承認された。SPVには、ナミビアとドイツ両政府が理事会にそれぞれ代表者を置き、被害を受けたコミュニティが実施組織の管理と運営において決定的な役割を果たすとされる。プログラムはこのコミュニティが居住するとされる7つの特定地域で開始されると同時に、ボツワナと南アフリカに暮らすディアスポラのコミュニティまで拡大される。  しかし、受益者が誰なのかいまだ不透明である。まず、プロジェクトの実施において決定的な役割を果たすとされる7つのコミュニティの代表とは誰か。政府は代表として7つの各地域に首長フォーラムを設置しているが、ジェノサイドの被害者であるヘレロとナマの伝統的権威の一部は交渉当初から参加を拒否している。新たに加わった、ボツワナと南アフリカのディアスポラのコミュニティがどのような構成になるかも不明である。ヨーロッパなど他の国に居住するディアスポラは除外されるのだろうか。  ウィトブーイ 氏の会見以降、被害を受けた人びとの代表組織が会見をおこなったり、活動家らが論説を寄稿したりしているが、総じて否定的である。特に、ヘレロの伝統的指導者らで構成される首長会議(OCA)は、水面下でおこなわれる交渉への不満を繰り返し述べ、議論の場から除外されたまま進められてきた共同宣言の内容を白紙に戻すことを要求し、追加条項に関する説明会へのボイコットを表明している。政府とともに交渉をおこなってきた団体(ONCD)が、ヘレロやナマの伝統的指導者らで構成されていることを考慮に入れると、被害を受けたコミュニティが一枚岩ではないことが見えてくるだろう。交渉の幕が閉じられたものの、和解はましてや交渉の行き着く先も依然として見えてこない。(宮本佳和) 東京外国語大学現代アフリカ地域研究センターでは、アフリカの留学生誘致のためのクラウドファンディングを、11月20日~1月10日の間、実施しています。ご協力よろしくお願いします。

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サイクロン「チド」が顕在化させた脱植民地化問題

2024/12/28/Sat

 サイクロン「チド」は、12月14日にフランス海外県マイヨット島を直撃して甚大な被害を与え、その後モザンビーク北部に上陸してそこでも多数の犠牲者を出した。マイヨット島の被害の規模は容易に判明せず、当初は数千人の犠牲者という情報も流れたが、そこまでは大きくないようである。今後、より詳細な調査がなされるだろう。  このサイクロンは、マイヨットの歴史とそれに由来する社会問題に改めて光を当てた。マイヨット島は、コモロのアンジュアン島から70キロしか離れていない。コモロを構成する3つの主要な島とマイヨットは、古来から密接な社会関係を築いてきた。しかし、1974年の国民投票でマイヨットの住民はフランス領となることを選択し、残る3島が翌年コモロとして独立した。国連は、この国民投票を認めていない。フランスは今日に至るまで、コモロの領土一体性を犯したとして、20回以上も国連総会で批判されている(12月20日付ルモンド)。  今回、サイクロン襲来から間を置かず、12月19日にマクロン大統領がマイヨットを訪問した。大統領として迅速な対応に見えるが、その後フランスの災害対応は厳しい批判を受けている。  大きな問題は、救援物資搬入の遅れである。アンジュアン島から救援物資を積んだ船がマイヨット島に向かったのは、サイクロン襲来から1週間後の21日が最初だった。マイヨット島側の許可が遅れたためである。フランスおよびEUの行政手続きの煩雑さのため、援助物資搬入が大幅に遅れた(23日付ルモンド)。  こうした煩雑な行政手続きの背景に、移民問題がある。マイヨットではコモロから来る「不法移民」に神経をとがらせてきた。この島の人口32万人のうち、半分以上は外国人とされる。所得水準が高いマイヨットには、コモロから多くの移民が押し寄せる。フランス海外県にとって、そのほとんどは「不法」である。17日には、フランスのルタイヨー内相が、マイヨットの再建には移民問題の解決が必要だと述べて、現地で反発を招いた(20日付ルモンド)。  フランスは、2023年4月以来、「ウアンブシュ」(Wuambushu)作戦と呼ばれる不法移民取り締まり作戦を展開し、2万人をコモロに強制送還したとされる。しかし、コモロ側の協力は得られず、送還されても多くはまたマイヨットに舞い戻っている(26日付ルモンド)。  「チド」襲来のあと、コモロからの「不法移民」が急増している。クワサ?クワサと呼ばれる小舟でマイヨットに渡るのだが、サイクロンのために、マイヨット沿岸でこうした違法船舶の取り締まりに使われていたレーダーが機能しなくなったためである。クワサ?クワサへの乗船希望者が急増し、200ユーロだった乗船料は400~450ユーロに急騰した(26日付ルモンド)。  災害は常に社会問題を顕在化させるが、「チド」の場合、それが脱植民地化に深く関わることが今日的である。マイヨットのような海外県のあり方は、今後ますます難しくなっていくだろう。(武内進一) 東京外国語大学現代アフリカ地域研究センターでは、11月20日~1月10日の間、クラウドファンディングを実施しています。ご協力よろしくお願いします。

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依然アフリカで活動するワグネル

2024/12/17/Tue

 プリゴジンの死後、ロシア?アフリカ関係がどのように再編されつつあるのか、なお不明点が多い。11日付ルモンド紙の記事は、その一端を明らかにしている。  中央アフリカ、マリ、ブルキナファソ、ニジェールといった国々に対しては、2023年8月にプリゴジンが事故死した後、国防副大臣のエフクロフやロシア連邦軍参謀本部情報総局(GRU)のアヴェリヤノフが訪問を繰り返し、関係再構築に取り組んできた。  中央アフリカやマリでは、プリゴジンを崇拝する人々がおり、ワグネルのメンバーが依然として活動している。先日も、中央アフリカでワグネル創設に関わったプリゴジンとウトキンの銅像が建てられたことが報道された。両国ではそれぞれ、1500人、2500人程度のワグネル兵が活動しており、プリゴジンの死後も兵力に変化がない。こうした兵員は、ロシア政府の承認を受けつつ、半自律的な活動を行っているとみられる。  中央アフリカで、ワグネルは金やダイヤモンド採掘、木材輸出などの事業を行いながら、トゥアデラ大統領の警備に関わっている。中央アフリカで強い影響力を持っている人物に、ドミトリ?シティがいる。フランス語が達者で、プリゴジンとも深い関係にあった(2023年1月28日付ルモンド)。ロシア文化会館など文化広報事業を行い、トゥアデラ政権高官と深い関係を持ちながら、幾つものビジネスを経営している。  マリでは、ワグネルの兵員がアシミ?ゴイタ軍事政権と協力して軍事作戦に従事している。並行して鉱物採掘事業も行っており、ワグネルが2022年に設立した鉱業企業Mariko Miningは11月7日に英国の制裁対象となった。  2023年11月、プリゴジンの息子パヴェル(26歳)が父親の相続人に指名され、彼が創りあげた企業グループコンコルドのトップに就任した。パヴェルは、中央アフリカのシティ、またマリ軍部などともつながりがある。もっとも、ある程度の自律性があるとはいえ、パヴェルはクレムリンのコントロール下にある(12月11日付ルモンド)。  以上から推測されるのは、ロシアがワグネルを完全に政府のコントロール下には置かずに、一定の自律性を与えていることだ。これがどの程度一貫した戦略なのかは不明である。ロシア政府といっても、プーチン、国防省、GRU、FSB(ロシア連邦保安庁)、SVR(ロシア対外情報庁)など、複数の政府機関がアフリカ諸国との関係構築に動いている。  米国の非営利団体でロシア、特にワグネルに関する情報を公開しているAll Eyes on Wagnerは、プーチンの論理は「分断統治」であり、いろいろな人物を競わせて、第二のプリゴジンが出てこないようにする戦略をとっていると分析している。ロシア側から様々な機関がアフリカ側にアプローチするなかで、ワグネルの活動がうまくいっているところでは、そのままにしているということだろう。今のところ、それに対するプーチンやGRUのグリップは効いているようだ。  マリのようにワグネルが戦闘で敗北を喫するなどして、その機能に疑問符が付されると、「アフリカ部隊」に置き換えられて、より国防省直轄という形をとる可能性が強まるのであろう。(武内進一) 東京外国語大学現代アフリカ地域研究センターでは、11月20日~1月10日の間、クラウドファンディングを実施しています。ご協力よろしくお願いします。

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