1 金田一 京助『日本語の変遷』(講談社学術文庫90 1976 \680)
(原題:『国語の変遷』、初出:日本放送出版協会(ラジオ新書) 1942、文庫版初出: 創元社(創元文庫) 1952、再録:『金田一京助全集 第二巻 国語学T』三省堂 1992)
日本語の歴史を一通り見渡せる小さい本として本書を挙げておく。執筆時から既に数十年を経過し、情報としては古くなってしまった所が多いが、この大きさの通史としては今でも十分役立つ内容である。ただし、他の教科書・講座などでその後の学界の知見を確認することが必要である。
2 橋本 進吉『古代国語の音韻に就いて 他二篇』(岩波文庫青151-1 1980 \400)
標題の作品は音韻史研究の古典である。講演内容を本にした(1941)ものであり、比較的読みやすい。「上代特殊仮名遣」を巡って、その発見のいきさつと日本語史研究における意義を語る。本書に述べられていることがらは、すでに日本語研究者すべての常識であり、日本課程の学生全員にぜひ知っておいてもらいたい。また、「上代特殊仮名遣」が発見されるまでの手順や、事実の解釈の過程からも、今後学問をする上で学ぶところは多いはずである。
3 築島 裕『国語の歴史』(東京大学出版会 1977 \1900)
日本語史上のいくつかの話題(主に資料、音韻、表記関係)について述べたもの。講義をもとにしており、比較的読みやすい。日本語の歴史を知るための文献資料にはどのようなものがあり、どのような姿をしているのか、それらにはどのような長所と問題点があるのか、それらからどのようなことが分かるのか、知りたい人に勧める。
4 小松 英雄『いろはうた――日本語史へのいざない』(中公新書558 1979 \680)
いろは歌を巡る諸問題について、従来の説を丁寧に検討しながら独自の見解を示す。音韻史の問題についても触れるところが多い。文献資料を知り尽くした者だけができる資料の性質の的確な見極め(どこまで使えるか、どこからは使えないか)と、徹底した内容分析の上に、「大胆」な結論が導かれて行く過程は面白く、結論に賛同するかどうかは別として、学ぶところが多いだろう。
1 白藤 禮幸『奈良時代の国語』(東京堂書店 1987)(品切れ)
2 築島 裕『平安時代の国語』(東京堂書店 1987 \2800)
3 柳田 征司『室町時代の国語』(東京堂書店 1985)(品切れ)
4 坂梨 隆三『江戸時代の国語 上方語』(東京堂書店 1987)(品切れ)
5 小松 寿雄『江戸時代の国語 江戸語−その形成と階層―』(東京堂書店 1985 \2200)
6 宇野 義方『言語生活史』(東京堂書店 1986 \2136)
上記の1〜6は「国語学叢書」として出版されたもの。そのうち1〜5は各時代の言葉を各面から記述する。各時代の日本語の様子を(教科書よりは詳しく)知りたい時に利用できる。残念ながら現在品切れのものがある上、大学に所蔵されていない。早い内に買い入れる予定である。
7 青葉ことばの会 編『日本語研究法〔古代語編〕』(おうふう 1998 \2800)
『土佐日記』を材料に、古代語の各分野の研究方法をレポートの実例と解説で示した。付録編では調査・整理の技術、参考図書を懇切に示している。電子化資料による研究にも対応。
8 峰岸 明『変体漢文』(東京堂書店 1986)(品切れ)
日本語史の1〜6と同じく「国語学叢書」の一冊で、昔行われた漢字文である「変体漢文」の訓法や語彙・文法上の特徴を解説する。当時の読み方を再現するマニュアルとしても使える。この本も品切れの上、現在大学にない
9 小松 英雄『徒然草抜書 表現解析の方法』(講談社学術文庫947 1990)(『徒然草抜書』三省堂 1983の改訂版)(品切れ)
『徒然草』から幾つかの章段をとりあげ、徹底した本文解析で、従来行われている「読み」の甘さを明らかにし、新しい「読み」を提案する。本文の分析態度、周辺資料の的確な利用など、古典学を専攻としない人も「知的興奮」を味わうことが出来るだろう。総合図書館所蔵。
10 馬渕 和夫『五十音図の話』(大修館書店 1993 \2000)
いつ、誰によって、何のために作られたか。謎の多い五十音図の歴史を遡りながら、従来の説を検討しつつ筆者の見解を示す。音韻史の問題についても触れるところが多い。図版がたくさん収められており、そちらも楽しい。
1 築島 裕『歴史的仮名遣い――その成立と特徴』(中公新書810 1986 \660)
助詞の‘wa'、‘o'、‘e'はなぜ「は」「を」「へ」と書くのか。オ段の長音は普通「おうさま」「おとうさん」などのように書くのに、なぜ「大きい」「通る」は「おおきい」「とおる」と書くのか。これらの疑問は、現代仮名遣いが「歴史的仮名遣い」の修正として成立したことを知らなければ解くことはできない。本書は仮名の成立から始まって仮名遣いの歴史を平易に説く。また、その背景にある音韻の変遷についても説明する。
2 小松 英雄『日本語の世界 7日本語の音韻』(中央公論社 1981 \1796)
音韻の歴史をトピックごとに論じる。「いつ何が起きたか」を順番に、網羅的に語ることはない。しかし、ある音素(例えば半濁音子音/p/)は日本語の音韻体系にどういう位置を占めるのか、その音素をめぐる変化が「なぜ」要請されたか、その変化は日本語の音韻体系にどのような意義を持つか、などについて幅広い視野から語ってゆく。言葉の歴史を考える際の原理的な問題についても鋭い発言が多い。
3 阿辻 哲次『漢字の文化史』(日本放送出版協会 1994 \971)
著者はNHKの某クイズ番組にも出てくる。中国で発明された文字である漢字はどのような構成原理で作られているか、漢字はどのように研究されてきたか、また、漢字は周辺の文化圏にどのように受け入れられていったかなど、様々なテーマについて平易に語る。しかし、雑学的知識の羅列ではなく、現代の漢字研究の諸領域の紹介になっている。同じ著者の啓蒙書に『漢字のベクトル』(ちくまライブラリー 1993 品切れ、外大に無し)などがある。
1 馬淵 和夫『国語音韻論』(笠間書院 1971 \1456)
日本語の音韻論、音韻史の教科書として書かれたもの。「音韻論」という標題であるが、歴史に関する叙述が詳しい。情報量が大きく、便利であるが、音韻史上の解釈については著者独自のものが多いので注意が必要である。
2 沼本 克明『日本漢字音の歴史』(東京堂書店 1986)(品切れ)
先に何点か紹介した「国語学叢書」中の一冊。漢字に伴っていた中国語の「音」が、日本語に定着する中で蒙った様々な変化の跡を文献からたどる。本来外国語音である漢字音が日本語に占める位置の複雑さの分、決して平易ではない。本書も現在品切れの上、現在外大に無い。
3 樺島 忠夫『日本の文字――表記体系を考える――』(岩波新書 1981)(品切れ)
4 小松 茂美『かな――その成立と変遷――』(岩波新書 1968)(品切れ)
5 藤枝 晃『文字の文化史(岩波同時代ライブラリー)』(単行本初版 岩波書店1971。岩 波同時代ライブラリー版 1991。 講談社学術文庫1409 1999 \920)
3〜5は文字・表記に関する本。基本レベルより高度というわけではなく、現在品切れ中なのでやむを得ずここに乗せてある。3は日本語の表記体系について原理的な問題を考察する。4は古筆学の大家による仮名の歴史。5は漢字を中心とした文字の歴史についての啓蒙書としては古典的名著。残念ながらいずれも現在品切れの上、外大に所蔵されていない。古書店で見かけたら購入を勧める。
1 森田 良行 ほか『ケーススタディ 日本語の語彙』(桜楓社(現、おうふう)1989 \1800)
教科書。語彙論に関する幾つかのトピックについて、問題点を挙げては解決への筋道をたどるという形式で書かれている。この分野での主な論点や、ものの見方・考え方を学ぶのに良い。
2 国立国語研究所(玉村 文郎 執筆)『日本語教師指導参考書12・13 語彙の研究と教育 上・下』(大蔵省印刷局 1974-75 各\602、\700)
日本語教師向けに編集された概説書。手に入れやすく、しかもレベルは高い。買って損はしない。
3 池上 嘉彦『意味の世界 現代言語学から視る(NHKブックス)』
(日本放送出版協会 1978 \835)
出版年は古いが、意味論の平易な入門書としては今も高い水準を保っている。なお、意味論については、他に同じ著者の『意味論』(次の6)や、『記号論への招待』(岩波新書黄版258 1984 \640)などがある。
4 菊地 康人『敬語』(講談社学術文庫1268 1997 \1170)(角川書店 1994)
日本語の「敬語」は語彙・文法・語用論にまたがる複雑な体系を持っているが、便宜上このセクションで扱う。本書は研究者による(単なる「正しい言葉づかい」の書ではない)敬語概説の書として現在もっとも役に立つ本である。特に敬語の形態論、構文論については著者自身の研究のもと、詳しく述べられている。
5 井上 史雄『敬語はこわくない 最新用例と基礎知識』
(講談社現代新書1450 1999 \660)
「お」の使い方、「あげる」の使い方など、親しみやすい事例を取りあげて、現代の敬語使用の実態と、その背後にある敬語の史的変化を語る。現在誤用・慣用といわれるものについても豊富な実例を挙げ、それらが敬語変化の動向と深い関係にあることを示す。4と異なり、網羅的な本ではないが、興味を持って読み易く、しかも程度は高い。
1 国際交流基金『教師用日本語教育ハンドブック D 語彙』(凡人社 1981 \800)
2 文化庁(阪倉 篤義 ほか執筆)『国語シリーズ別冊1 日本語と日本語教育 −―語彙編−−』(大蔵省印刷局 1972)(品切れ)
上記1・2は、基本レベル2と同様、日本語教師を対象とした語彙論の概説。外大には無い。
3 阪倉 篤義『日本語の語源』(講談社現代新書518 1978)(品切れ)
語源研究の本はとかく個別的・文化史的・随筆的になりやすい。この反省のもと、感情表現の語彙を材料に語源の体系的な考察を試みた本である。特に第一部は、語誌・語構成・語彙史を考える際の諸問題が著者の薀蓄を傾けながら整理されており、平易ではあるが内容の程度は高い。日本課程共同研究室所蔵。
4 樺島 忠夫『日本語はどう変わるか――語彙と文字――』(岩波新書 1981)(品切れ)
5 石綿 敏雄『日本語のなかの外国語』(岩波新書 1985)(品切れ)
6 柳父 章『翻訳語成立事情』(岩波新書 1982)(品切れ)
4〜6は外来語がらみの本。日本語における外来語の位置について分かりやすく解説する。現在品切れ中なのでここに収めた。大学にはないので、古書店などで見かけたら買うことを勧める。
7 池上 嘉彦『意味論 意味構造の分析と記述』(大修館書店 1975 \3500)
8 池上 嘉彦『〈英文法〉を考える 〈文法〉と〈コミュニケーション〉の間』 (ちくま学芸文庫 1995 \854)(ちくまライブラリー 1991 \1214)
基本レベル3の著者による意味論の著作から2点挙げておく。7は意味論の概説書。但し教科書より程度が高い。8は英文法を主に扱っているが、対照言語としての日本語への言及も多い。同著者の『「する」と「なる」の言語学』(大修館書店 1981)等における主張のほか、近時の文法・意味研究の動向を反映した分析が平易に語られている。文庫版解説も有益。二つとも、基本レベル3の次に読む事を勧める。
9 杉本 孝司『日英語対照による英語学演習シリーズ 意味論1――形式意味論』『意味論2――認知意味論』(くろしお出版 1998 各\2000)
近時盛んになった意味論の二つの流派についての平易な解説書としてこの本を挙げる(参考文献リストを活用のこと)。
10 蒲谷 宏・川口 義一・坂本 惠『敬語表現』(大修館書店 1998 \2200)
11 西田 直敏『敬語』(東京堂出版 1987 \3398)
12 国立国語研究所(窪田 富男 執筆)『日本語教師指導参考書 17・18 敬語教育の基本問題上・下』(大蔵省印刷局 各1990,92 各\602,\700)
13 文化庁(窪田 富男 ほか執筆)『日本語教師指導参考書2 待遇表現』 (大蔵省印刷局 1971 \728)
10〜13は敬語に関する概説書で、今後敬語研究を志す人にはどれも有益。10は現代敬語の運用法について詳しい。11は従来の主な敬語研究の内容や、研究史の記述が詳しい。12は「ポライトネスpliteness理論」に関する要領のよい解説があるほか、厚さと価格のわりに高度な内容となっている。
1 野田 尚史『はじめての人の日本語文法』(くろしお出版 1991 \2200)
初心者向けには最適の教科書。文法の初心者と教師の会話形式を取り、基礎的ないくつかの話題について「問題発見―解決―発展」という形式で書かれている。読みやすく分りやすいが、内容の水準は決して低くない。
2 寺村 秀夫 ほか編『ケーススタディ日本文法』(桜楓社(現、おうふう)1987 \1800)
文法の教科書。1と同様、問題解決型の構成を取るが、取り上げるテーマや、説明の内容は一段高度になっている。1の次に読むとよいだろう。
3 寺村 秀夫『日本語のシンタクスと意味T〜V』(くろしお出版 1982-91 各\3800)
現代日本語の記述文法書。品詞分類から格構造、述語の諸カテゴリー、副助詞まで、現代日本語の単文をめぐる文法現象を一通り把握するためには現在のところ最も有益である(「修飾」「複文」に関しては著者逝去のため未完)。今後どのような立場で文法を考えるにしろ、現代日本語文法を本気でやろうという人はまず本書によって学ぶのが最も早道だろう。
4 南 不二男『現代日本語文法の輪郭』(大修館書店 1993 \2000)
いわゆる「南モデル」は、現代日本語の複文の構造のモデルであり、述語の構造のモデル、また文成立のモデルとしても大変有名なものである。文法研究の世界ではもはや常識とされており、その応用範囲も広い。その「南モデル」の最終形をまとめたものが本書である。文法を志す人は必読。なお、更に勉強したい人は、本書と前著『現代日本語の構造』(大修館書店 1974)の内容とを丁寧に比較する事を勧める。
5 鈴木 重幸『日本語文法・形態論』(むぎ書房 1972 \2400)
小学生向けの文法教科書の教師用解説書として執筆されたものであるが、「伝統的西洋」流の、カテゴリー重視の形態論を日本語で網羅的に展開したものとしては、現在でも唯一のものである。現代の日本語文法研究の一学派を成す、いわゆる「教科研文法」の網羅的な文法書としても、本書が唯一のものである。なお、この学派の文法観や理論的背景を知りたい人は奥田靖雄『ことばの研究・序説』(むぎ書房 1985)などを読むこと。
1 山田 孝雄『日本文法学概論』(宝文館 1936)(品切れ)
2 松下 大三郎『改撰標準日本文法』(勉誠社復刻 1978 \15000)
もはや言うまでもない、近代の日本語文法研究の古典中の古典。詳しくは「川村のお勧め本」の記事を読むこと。
3 橋本 進吉「国語法要説」『橋本進吉博士著作集第二冊 国語法研究』 (岩波書店 1948)(初出「国語科学講座」(Y 国語法)明治書院 1934)(品切れ)
学校文法で普及している「文節」を提唱したものとして有名。「音形」から文法を記述するとどうなるか、その一つの姿が示されている。橋本の文法研究は岩波書店の『著作集』の上記の巻の他、『第七冊 国文法体系論』『第八冊 助詞・助動詞の研究』などにまとめられている。
4 時枝 誠記『国語学原論』(岩波書店 1941)(品切れ)
時枝の有名な「言語過程説」、またそれに基づいた文法観がまとめられた書。いわゆる「陳述論」の原点に立つ著作である。本書の議論の具体的展開として『日本文法・口語篇』・同『文語篇』(岩波書店 1950、1954)がある。時枝の主張をナマに品詞論や構文論(syntax)に応用することの問題点は、今ではもう明らかである。しかし、テキスト言語学など、広く「言語表現の構造」についての「原論」としての側面は、まだ古びていない。
5 三上 章『現代語法序説』(増補復刻:くろしお出版 1972 \3500)(初版:刀江書院 1953)
三上章の最初の著作。いわゆる「主語抹殺論」のほか、三上の基本的な文法観を見ることができる。その他、有名な『象は鼻が長い』をはじめ三上の著作は現在すべてくろしお出版から刊行されている。
6 森重 敏『日本文法通論』(笠間書院 1959)(品切れ)
山田孝雄の文法観を、時枝誠記などのいわゆる「陳述論」とは違う方向で継承した人物の文法論の全体像を示す。ただし、「雑誌論文の目録」(某先生談)といった風情で、極めてとっつきにくいので、まずは『日本文法の諸問題』(笠間書院 1971)から入ることを勧める(「川村のお勧め本」の記事を読むこと)。
7 三原 健一『日本語の統語構造 生成文法理論とその応用』(松柏社 1994 \3300)
8 山梨 正明『認知文法論』(ひつじ書房 1995 \4200)
現代の言語研究の二つの有力な流派である生成文法(ただしGB理論段階までのもの)と認知言語学のそれぞれの文法研究に関する解説書として7・8を挙げておく。言語に関するほとんど全く対照的な2つの接近のし方に触れてほしい。
9 阪倉 篤義『日本語表現の流れ(岩波セミナーブックス)』(岩波書店1993)(品切れ)
語彙・条件表現・疑問表現・係り結びを材料とし、日本語史を体系の変化として捉えようとする。言語の歴史を考える際の、ひとつの優れた視点を示す。現在品切れであるが、総合図書館開架にある(A/a6/103)。言葉の歴史を考えるとはどういうことか、何が面白いのかについて知りたい人にはぜひ勧めたい。なお、本書の元になった論文は『文章と表現』(角川書店 1975)などに収められている。
10 小松 英雄『日本語はなぜ変化するか 母語としての日本語の歴史』(笠間書院1999 \2400)
動詞のレル形(ル形・ユ形)および可能動詞(いわゆる「ら抜き言葉」を含む)を材料にした、著者の主張する「あるべき言語史記述」の実践の書。特定の分野に関する本であるが、全編を貫く現象分析と論理構成に学んで欲しい。
1 ジェニー・トマス(浅羽 亮一 監修、田中 典子 ほか訳)『語用論入門――話し手と 聞き手の相互交渉が生み出す意味』(研究社出版 1998 \2800)(Jenny Thomas1995
語用論については、概説書・個別研究書共に最近多数刊行されている。その中から比較的平易で目配りのよいものとして本書を挙げる。文(例えば「ねえ、今お金持ってる?」)の「文字通りの意味」と「発話の意味」(「お金を貸してくれ」等々)とがしばしば「ずれる」のはなぜか、その「ずれ」はどのような「しかけ」で起きるのか、「ずれる」ことが情報の伝達にとってどのような利益をもたらすのか、……などについて関心の有る人は、先ずこれを読むことを勧める。発話行為、会話の含意からポライトネス理論までを紹介しながら検討する。
2 橋内 武『ディスコース 談話の織りなす世界』(くろしお出版 1999 \2400)
3 津田 早苗『談話分析とコミュニケーション』(リーベル出版 1994 \2500)
4 橋元 良明 編著『コミュニケーション学への招待』(大修館書店 1997 \2100)
具体的な情報伝達の場での言葉がどのように用いられるか、言葉がどのような意味を帯び、いかに働くか。これらの問題についての研究の歴史は意外に浅く、今後の発展が見こまれ、また多方面への応用が期待される。上記の2〜4はいずれも談話・コミュニケーション研究の概説書。この分野において考えるべきこと、考えると面白いことはほぼ網羅されている。この分野は語用論の研究領域でもあるため、これらの概説書も一部語用論の解説書を兼ねる。
5 田中 春美・田中 幸子 編著『社会言語学への招待 社会・文化・コミュニケーション』 (ミネルヴァ書房 1996 \2500)
社会に見られる様々な区分(地域・年齢・職業・性別など)、様々な現象(教育・報道・政治など)の中で、言葉はどのような姿を見せ、どのような力を持つか。このような問題関心を持つ領域が社会言語学である。社会言語学の教科書から比較的良くまとまったものとして5を挙げる。
1 ジョージア・M・グリ−ン(深田 淳 訳)『プラグマティックスとは何か 語用論概説』(産業図書 1990 \2900)(Geogia M. Green(1989) Pragmatics and Natural Language Understanding, Lawrence Erlbaum Associates Inc. Publishers)
語用論は様々な領域をカバーするが、その内、比較的文法論に近い分野全般についての解説書。
2 ダイアン・ブレイクモア(武内 道子・山崎 英一 訳)『ひとは発話をどう理解するか 関連性理論入門』(ひつじ書房 1994 \3009)(Diane Blakemore(1992) Undastanding Utterances: An Introduction to Pragmatics, Blackwell )
個別の理論の中から「関連性理論」についての解説書として本書を挙げておく。
3 マルコム・クールタード(吉村 昭一 他訳)『談話分析を学ぶ人のために』
(世界思想社 1999 \2900)
4 茂呂 雄二 編『対話と知 談話の認知科学入門』(新曜社 1997 \2800)
5 泉子・K・メイナード『会話分析』(くろしお出版 1993 \4200)
上記の3は談話分析の教科書。4は概説書。文献案内がついており、この世界の各領域教科を見渡すのに便利。談話分析の入門的研究書として5を挙げておく。
6 P・トラッドギル(土田 滋 訳)『言語と社会』(岩波新書青版C-99 1975 \640)
7 スーザン・ロメイン(土田 滋・高橋 留美 訳)『社会の中の言語――現代社会言語学入門』(三省堂 1997 \2800)
8 ロナルド・ウォードハウ(田部 滋・本名 信行 監訳)『社会言語学入門 上・下』(リーベル出版 1994 \2600)
6〜8は社会言語学の概説書。
9 田中 克彦『言語の思想』(日本放送出版協会 1975 \971)
最近、近代日本の言語政策に関する重要な研究書があいついで刊行されている。それらへの橋渡しとして、まずは本書を挙げておく。近現代社会において、言語が国家と取り結んできた抜き差しならない関係について、鋭い指摘がさなれる。
10 ヤコブ・L・メイ(澤田 治美・高司 正夫 訳)『ことばは世界とどうかかわるか 語用論入門』(ひつじ書房 1996 \3800)(Jacob L. Mey(1993) Pragmatics:An Introduntion, Blackwell)
語用論の概説書であるが、比較的社会言語学の方向へ開かれた内容となっている。
1 平山 輝男『日本の方言』(講談社現代新書160 1968 \650)
出版されて久しく、現在の状況を知るにはあまり適当ではないが、日本語の各地の方言についての全般的知識を得るための読み物としてなお有益。
2 徳川 宗賢 編『日本の方言地図』(中公新書533 1979 \720)
国立国語研究所の成果『日本言語地図』の成果を生かし、方言分布の様々なパターンを具体例を挙げて解説。方言地理学の考え方と、その具体的な適用例を平易に見ることができる。
3 井上 史雄『日本語ウォッチング』(岩波新書新赤版540 1998 \600)
現在起きている言葉の変化を、方言と結びつけてとらえる。現代共通語に起きている様々な変化を、全国的な言語動態の一部として捉え、地方で生じた言語変化の波及として捉えるべき共通語の変化が数多くあることを指摘する。
4 尾上 圭介『大阪ことば学』(創元社 1999 \1000)
地域の言語の姿を、その地域の言語使用の様態、その地域の話者たちの「会話の転がし方の好み」との関連の中で論じる。読み物としても面白いが、文法形式に関する記述はしっかりしており、また大阪方言の母語話者として、個々の表現を使う際の「使用感覚」について優れた洞察を示す。
1 国立国語研究所(大西拓一郎ほか執筆)『日本語教師指導参考書 20 方言と日本語教育』(大蔵省印刷局 1993 \680)
日本語教師向けに書かれた概説書。手に入れやすい。
2 日野 資純『日本の方言学』(東京堂出版 1986)(品切れ)
やはり日本語史で紹介した「国語学叢書」の1冊として書かれたもの。方言研究の基本的な考え方から具体例までを解説。
3 『地域語の生態シリーズ』全6巻(おうふう 1996 関西編のみ\1845、その他各\2136)
(佐藤和之『東北篇――方言主流社会の言語意識――』、早野慎吾『関東篇――首都圏の言語生態――』、真田信治『関西篇――地域語のダイナミズム――』、高橋顕志『中国・四国篇――地域差から年齢差へ、そして……――』、陣内正敬『九州篇――地方中核都市方言の行方――』、永田高志『沖縄篇――琉球で生まれた共通語――』)
現在の各地の方言の姿を伝えるシリーズ。それぞれの地域の方言をめぐる興味深いトピックについて述べる。
1 足立 巻一『やちまた 上・下』(朝日文芸文庫あ-19-2・3 \971,\922)(初出:河出書房新社 1974)
活用研究書『詞八衢(ことばのやちまた)』、文法書『詞通路(ことばのかよいじ)』の著者である、盲目の国学者本居春庭(もとおり はるにわ)(本居宣長の息子)の生涯を、評伝小説のスタイルで述べたもの。春庭研究書としての価値も高い。
2 高田 宏『言葉の海へ』(岩波同時代ライブラリー 1998 \1200)
(初出:新潮社 1978、新潮文庫 1984)
日本最初の近代的な国語辞典『言海』の編者大槻文彦(おおつき ふみひこ)の苦心談。新潮文庫版は総合図書館所蔵。
1 加藤 彰彦 ほか編『日本語概説』(おうふう 1989 \2100)
2 伊坂 淳一『ここからはじまる日本語学』(ひつじ書房 1996 \1600)
3 工藤 浩 ほか『日本語要説』(ひつじ書房 1993)(1995第3版 部分増補 \1900)
4 玉村 文郎 編『日本語学を学ぶ人のために』(世界思想社 1992 \1893)
5 北原 保雄 編著『概説日本語』(朝倉書店 1995 \2400)
6 佐藤 武義 編『展望 現代の日本語』(白帝社 1996 \2000)
7 古田 東朔 ほか『新国語概説』(くろしお出版 1980 \1600)
8 築島 裕『国語学』(東京大学出版会 1964 \2200)
9 長谷川 信子『生成日本語学入門』(大修館書店 1999 \1800)
10 西光 義弘 編『日英語対照による英語学概論 増補版』(くろしお出版 1999 \2500)(初版1997)
11 中野 洋『パソコンによる日本語研究法入門――語彙と文字――』(笠間書院 1996 \2621)
1〜8はいずれも国語学(日本語学)概説の教科書として編まれたもの。1は現代日本語・日本語史の両面を押さえており、記述が充実している。2は日常的な問題から解き起こし、類書の中で最も平易かと思われる(但しレベルは低くない)。3は記述が必ずしも網羅的でないが、現代語研究と歴史的研究の双方に言及、記述は簡潔だが水準は高い。4は日本語学・日本語教育の両方をカバーする(史的研究についての言及は無い)。8は記述が古くなってしまった部分もあるが、歴史的研究についての記述が詳しく、その部分は現在でも有用。9は生成文法の立場からの日本語概説。10は英語学の概説であるが日本語への言及も多い。11はパソコンを利用した日本語研究の方法を示したもの。今後日本語研究を志す学生には必須の知識だろう。
b 講座
1 大野 晋・柴田 武 編『岩波講座日本語』全12巻 別巻1(岩波書店 1976-78)
2 森岡 健二 ほか 編『講座日本語学』全12巻 別巻1(明治書院 1982-83)
3 宮地 裕 ほか 編『講座日本語と日本語教育』全16巻(明治書院 1989-91)
4 水谷 静夫 編『朝倉講座日本語』全6巻(朝倉書店 1983-87)
5 柴田 武 編『講座 言語』全6巻(大修館書店 1979-81)
6 大津 由紀夫 ほか 編『岩波講座言語の科学』全11巻(岩波書店 1997-99?)
7 国広 哲弥 ほか 編『日英語比較講座』全5巻(大修館書店 1980-82)
日本語研究の色々な領域について一渡り知りたいのであれば1〜3から入るのが良いであろう。1は他の講座では縮小ないし切り捨てられている歴史関係とフィールド関係に関する記事が役に立つ。2は(網羅的ではないが)歴史的観点と対照的観点からの構成が特徴的。3は日本語教育関係の巻が充実している。4は計算機による言語研究を意識した構成。5は言語学一般の講座だが、日本語関係の役に立つ記事もある。6は生成文法ほか、自律的言語観に立つ学派の立場を意識した構成になっているが、それ以外の立場からの記事もある。7は日英語対照研究の立場からのもの。いろいろな論文に引用される記事も多い。
c 辞典など
1 国語学会 編『国語学大辞典』(東京堂出版 1980)(項目五十音配列)
2 佐藤 喜代治 編『国語学研究事典』(明治書院 1977)(分野別配列)
3 金田一 春彦 ほか 編『日本語百科大事典』(大修館書店 1988)(分野別配列)
4 亀井 孝 ほか 編著『言語学大辞典セレクション 日本列島の言語』(三省堂 1997)(項目五十音配列)
5 小池 清治 ほか 編『日本語学キーワード事典』(朝倉書店 1997)(項目五十音配列)
6 小川 芳男 ほか 編『日本語教育事典』(大修館書店 1982)(縮刷版1987)(分野別配列)
日本語研究関係でとりあえず引くべき辞典としては1〜3がある。その上でさらに4以下で最近の情報を補うと良い。1・2は最近の情報が取り入れられていない点難があるが、なお「先ず引く辞典」としての価値を失っていない。特に研究者と文献資料に関することについては1・2によるのが良い。4は、『言語学大辞典』(T.言語学を参照)の日本語関係の記事を抜粋して編集したもの。5は出版年は新しいが、サイズの関係で情報量が限られている。1〜3を補うものとして使うのが良いか。6は日本語教育関係者むけの編集であるが、日本語学一般に関する記事も存在する。 2・3・6は分野別編集なので目次か巻末の索引で引きたい事項の所在を調べること。その点は五十音配列の他の辞典でも同様である(辞典類からある限りの情報を引き出すには索引を駆使せざるべからず)。 なお、更に勉強したい向きには1の前身に当る国語学会(編)『国語学辞典』にも当たる事を勧める。
1 沖森 卓也 編『日本語史』『資料日本語史』(桜楓社(現、おうふう)各1989,91 各\1900)
2 山口 明穂 ほか『日本語の歴史』(東京大学出版会 1997 \2400)
3 佐藤 武義『概説 日本語の歴史』(朝倉書店 1995 \2900)
4 松村 明『国語史概説』(秀英出版 1972)(品切れ)
5 中本 正智『日本語の原景』(金鶏社 1981)(品切れ)
6 西崎 亨 編『日本古辞書を学ぶ人のために』(世界思想社 1995 \3495)
1〜5は日本語史専門の概説書として編まれたもの。1は各時代の記述と各部門史の二本立てになっている。資料集が付いていて便利。2は1冊本。比較的新しい情報も入っており有用。4は現在入手が難しいと思われるが、教科書としては今なお抜群の情報量を有する(もちろん出版年次は考慮しなければならない)。5は系統論を意識した内容になっている。なお、4・5は大学に所蔵されていない。6は古辞書を利用する際には必ず読みたい本。有用な情報が満載。
b 講座
1 松村 明 ほか 編『講座国語史』全6巻(大修館書店 1971-77)
2 亀井 孝 ほか 編『日本語の歴史』全7巻 別巻1(平凡社 1964-66)
3 岸 俊男 編『日本の古代14 ことばと文字』(中公文庫 1996)(中央公論社1988の文庫化)
1は日本語史専門の講座。分野別編集で記述は詳細。2は日本の歴史・文化との関係から日本語の流れを捉えようとする。3は日本の古代を扱ったシリーズ中の一冊。専門性の高い論文が収められている。
c 辞典など
1 国語学会(編)『国語史資料集――図録と解説――』(武蔵野書院 1976)
2 沖森 卓也 ほか(編)『日本辞書辞典』(おうふう 1996)(書名五十音配列)
1は日本語史上の主な文献資料の写真と解説。2は古今の辞典に関する解説辞典。
1 天沼 寧 ほか『日本語音声学』(くろしお出版1978 \1800)(別売テープ\2000)
2 川上 蓁『日本語音声概説』(桜楓社(現、おうふう)1977 \1300)
3 中條 修『日本語の音韻とアクセント』(勁草書房 1989)(品切れ)
4 服部 四郎『音声学 カセットテープ、同テキスト付』 (岩波書店 1984)(岩波全書 1951)(品切れ)
5 木 裕子『日本語教師トレーニングマニュアル 6 日本語の文字・表記入門 解説 と演習』(バベル・プレス 1996 \2500)
6 窪園 晴夫『日英語対照による英語学演習シリーズ 1 音声学・音韻論』 (くろしお出版 1998 \2000)
音声学・音韻論に関する教科書はT.言語学2.音声学に詳しいのでそちらをまずは参照のこと。1〜4は音声学・音韻論の教科書を挙げた。うち3・4は現在品切れであるが、3(大学にない)は簡潔かつ適切な内容であり、4(総合図書館5階)は未だに最大の情報量を有する。5は現代語の表記に関する事項が要領よくまとめられており、便利。
b 講座
1 佐藤 喜代治 編『漢字講座』全12巻(明治書院 1988-)
漢字専門の講座。漢字に関して専門的に知りたい時はまずこの講座に当ること。
c 辞典など
1 日本音声学会 編『音声学大辞典』(三修社 1976)
2 金田一 春彦 監修・秋永 一枝 編『明解日本語アクセント辞典 第2版』 (三省堂 1981)
3 NHK 編『日本語アクセント辞典』(日本放送出版協会 1986)
4 武部 良明『日本語の表記(角川小辞典29)』(角川書店 1979 \2000)
5 樺島 忠夫 ほか 編『事典日本の文字』(大修館書店 1985)(大項目主義 分野別配列)
6 佐藤 喜代治 ほか 編『漢字百科大事典』(明治書院 1996)(分野別配列)
7 阿辻 哲次『図説 漢字の歴史』(大修館書店 1989)(普及版 1989 \3204)
8 小林 芳規『図説 日本の漢字』(大修館書店 1998)
1は音声学に関する辞典。2・3は現代共通語のアクセント専門の辞典。4はある単語を漢字でどう表記するかを個別に解説する。5は日本語の表記全般に関する事典。ただし、出版年次から分るように、現行の現代仮名遣いなど、最近の表記政策には対応していないので注意。6は漢字に関する専門の事典。7・8はそれぞれ漢字の歴史、日本における漢字使用の歴史を豊富な写真で解説する。一種の図鑑としてここに収めた。
1 佐藤 喜代治 編『講座日本語の語彙』全11巻 別冊1(明治書院 1982-83)
2 林 四郎・南 不二男 編『敬語講座』全10巻(明治書院 1973-74)
1は語彙に関する講座。特に語彙史に詳しい。別冊として語彙別論文目録が付いている(この項のG参照)。2は敬語研究専門の講座。単なる語彙・文法現象としての敬語にとどまらず、広く言語外的手段も含めた人間のコミュニケーション行動として敬語を見る方針の下に編集された。それまでの敬語研究の大成であると共に、現代の待遇表現研究の基礎となった。
c 辞典など
1 NTTコミュニケーション科学基礎研究所(監修)、池原悟 ほか 編『日本語語彙体系』 全5巻(岩波書店 1997)(CD-ROM版1枚 岩波書店 1999 \60,000)
2 国立国語研究所 編(林 大 担当)『分類語彙表』(秀英出版 1964)
3 森田 良行『基礎日本語辞典』(角川書店 1989) (『基礎日本語1・2・3(角川小辞典)』(角川書店1977-88)の内容を1冊に纏めたもの)
4 柴田 武 ほか『ことばの意味――辞書に書いてないこと(平凡社選書)』1〜3 (平凡社 1976-82)
5 辻村 敏樹 編『敬語の用法(角川小辞典)』(角川書店 1991)
6 堀川 直義 ほか『敬語[用例中心]ガイド』(明治書院 1969)
7 奥村 益郎 編『現代敬語辞典』(東京堂出版 1973)
8 奥村 益郎 編『敬語用法辞典』(東京堂出版 1978)
9 奥秋 義信『敬語の誤典』(自由国民社 1978)
1〜4は便宜このセクションに収めたが、文法研究の上でも参照の必要がある。1は日本語の語彙体系を意味の体系、構文の体系と共に整理したもの。2は日本語の語彙を意味の体系に従って分類したもの。現在の語彙研究の基礎となっている。3・4は基礎的な日本語の単語について、その意味を解説したもの。その成果は多くの論文に引用され、最近の国語事典の記述にも反映されている。5は敬語語彙や文法形式の専門辞典。6以下も同様だが、より実用書風である。
1 名柄 迪 監修『日本語教師トレーニングマニュアル 2 日本語文法整理読本 解説と演習』(バベルプレス 1994 \2500)
2 益岡 隆志・田窪 行則『基礎日本語文法 改訂版』(くろしお出版 1992 \2200)
3 吉川 武時『日本語文法入門(NAFL選書)』(アルク 1989 \2505)
4 小池 清治『現代日本語文法入門』(ちくま学芸文庫 1997 \1100) (『大学生のための日本文法』有精堂1987 の全面改訂)
5 柴谷 方良 ほか『言語の構造−−理論と分析−− 意味・統語篇』 (くろしお出版 1982 \3000)
6 国立国語研究所(寺村 秀夫 執筆)『日本語教育指導参考書 4・5 日本語の文法 (上)(下)』(大蔵省印刷局 各1978,81 各\440,\553)
7 文化庁(奥津 敬一郎 ほか執筆)『国語シリーズ別冊2 日本語と日本語教育―― 文法編――』(大蔵省印刷局 1973 \700)
1は自習書。日本語文法の諸事項が要領よくまとまっている。2以下は教科書として編まれたもの。5.文法 基本レベル1・2と違い、教科書教科書した作りなので、読んで面白いとは言えない。その内2は、文法の各事項を漏れなく一渡り把握するのに適している。3は2よりも平易な内容。4は比較的古典的な日本語研究の流れを受け継ぐ内容。5は生成文法の枠組で日本語の文法分析を行う。6・7は日本語教師向けに書かれた概説書だが、いずれも今となってはやや古くなった。6は『日本語のシンタクスと意味』の元になったものとして学史的価値がある。7も値段は安いが内容は高度である。
b 講座
1 鈴木 一彦・林 巨樹 編『研究資料日本文法』全10巻(明治書院 1984-1985)
2 山口 明穂 編『国文法講座』全6巻 別巻1(明治書院 1987-88)
3 大曽根 章介 ほか 編『研究資料日本古典文学 第十二巻 文法付辞書』(明治書院 1983)
4 中右 実 編『日英語比較選書』全10巻(研究社 1997-98)
1 松村 明 編『日本文法大辞典』(明治書院 1971)(項目五十音配列)
2 北原 保雄 ほか 編『日本文法事典』(有精堂 1981)(分野別配列)
3 井上 和子 編『日本文法小事典』(大修館書店 1989)(大項目主義 分野別配列)
4 国立国語研究所(宮島 達夫 執筆)『動詞の意味・用法の記述的研究』
(秀英出版 1972)
5 国立国語研究所(西尾 寅弥 執筆)『形容詞の意味・用法の記述的研究』(秀英出版 1972)
6 グループ・ジャマシイ 編著『教師と学習者のための日本語文型辞典』 (くろしお出版 1998)
7 森田 良行 ほか『日本語表現文型 用例中心・複合辞の意味と用法(NAFL選書)』 (アルク 1989)
8 国際交流基金(鈴木 忍 執筆)『教師用日本語ハンドブックB 文法T 助詞の諸問題 1』(凡人社 1978)
9 国際交流基金(阪田 雪子・倉持 保男 執筆)『教師用日本語ハンドブックC 文法U 助動詞を中心にして』(凡人社 1980)
10 松村 明 編『古典語現代語助詞助動詞詳説』(学燈社 1969)
11 此島 正年『国語助詞の研究 助詞史素描』(桜楓社(現、おうふう) 1973増訂版)
12 此島 正年『国語助動詞の研究 体系と歴史』(桜楓社(現、おうふう) 1979再版)
1 徳川 宗賢 ほか 編『新・方言学を学ぶ人のために』(世界思想社 1991 \1893)
2 真田 真治 ほか『社会言語学』(桜楓社 1992 \2100)
3 東 照二『社会言語学入門 生きた言葉のおもしろさにせまる』(研究社 1997 \2300)
4 中尾 俊夫 ほか『社会言語学概論 日本語と英語の例で学ぶ社会言語学』 (くろしお出版 1997 \2500)
6. 語用論、談話・コミュニケーション研究、社会言語学 で挙げられなかった社会言語学専門の概説書から4点挙げておく。
1 徳川 宗賢 ほか 編『新・方言学を学ぶ人のために』(世界思想社 1991 \1893)
2 真田 真治 ほか『社会言語学』(桜楓社 1992 \2100)
上のEaでも挙げたもの。いずれも方言学の教科書でもある。
1 飯豊 毅一 ほか 編『講座方言学』全10巻(国書刊行会 1982-1986)
日本の方言に関する専門の講座。地域別に音韻・語彙・文法について解説するほか、方言研究法についても解説する。
c 辞典など
1 平山 輝男『全国方言辞典 1・2(角川小辞典)』(角川書店 1983)
2 徳川 宗賢 編『日本方言大辞典』全3巻(尚学図書 1989)(五十音配列)
3 平山 輝男『現代日本語方言大辞典』全9巻(明治書院 1992-94)(五十音配列)
4 藤原 与一『日本語方言辞書』全3巻(東京堂書店 1996-97)(五十音配列)
5 国立国語研究所編『日本言語地図――付・解説書――』全6巻
(大蔵省印刷局 1981-85)
6 国立国語研究所編『方言文法全国地図』全6巻(大蔵省印刷局 1989-)(第3集まで刊行)
1 古田 東朔・築島 裕『国語学史』(東京大学出版会 1972 \3400)
2 馬渕 和夫・出雲 朝子『国語学史 日本人の言語研究の歴史』(和泉書院 1999 \1800)
3 西田 直敏『資料 日本文法研究史』(桜楓社 1979 \2800)
1・2は日本語研究史の教科書。特に1は情報量が豊かである。3は、文法研究史(特に近世)の資料の抜粋と、それに関する解説からなる。良く知られた近世の文献に当る際に便利。なお、文法研究史の資料について知りたい時には、Dのb1も役に立つ。
c 辞典など
1 国語学会編『国語学史資料集――図録と解説――』(武蔵野書院 1979 \2630)
日本語学史上の重要な文献の図録と解説。
1 *林 四郎 ほか 編著『例解新国語辞典 第4版』(三省堂 1997 \2136)
2 *林 巨樹 監修『現代国語例解辞典 第2版』(小学館 1993 \2630)
3 *西尾 実 ほか 編『岩波国語辞典 第5版』(岩波書店 1994 B6:\2330、A5:3495)
4 *見坊 豪紀 ほか 編『三省堂国語辞典 第4版』(三省堂 1992 \2400)
5 山田 忠雄 ほか 編『新明解国語辞典 第5版』(三省堂 1997 \2800)
6 森岡 健二 ほか 編『集英社国語辞典』(集英社 1993 \3107 机上版\4175)
上の1〜6は小辞典。縦組が基本だが、横組版があるものもあるので、好みに応じて買うと良い。1は中学生向けの辞典だが、語釈に優れ、イラストによる説明もある。留学生にはお勧めである。2は収録語彙は少ないが、類義語の用法の違いを表で示すなど、語釈が充実。一方、表記用の漢字を多めに挙げており、「字引」としての機能も他より優れている。3〜5はいずれも伝統のある標準的な小型辞典と言えるもの。3は全体に穏健中正である。4は新語の収録と簡潔平易な語釈に優れている。5は比較的規範的な収録語彙の選択で有名。基本義中心で語釈欄をあまり区分けしない。名詞には助数詞の欄があり、動詞には統語情報が示されている。6は小型辞典で中辞典の内容を志向している。専門語・固有名詞も収録し、図版も多く、やや厚手。助詞・助動詞の記述についても良い評判を聞く。
7 *新村 出 編『広辞苑 第5版』(岩波書店 1998 \7300 机上版\11000)(CD−ROM版もあり)
8 梅棹 忠夫 ほか 監修『日本語大辞典 第2版』(講談社 1995 \7573)
9 松村 明 編『大辞林 第2版』(三省堂 1995 \6952 机上版\10680)
10 松村 明 編『大辞泉』小学館(増補新装版 1998 \7184)
11 金田一 春彦 ほか『学研国語大辞典 第2版』(学習研究社 1989 \5825 机上版 \11165)
12 *日本大辞典刊行会 編『日本国語大辞典』全20巻(縮刷版10巻)小学館
7〜11は中辞典。いずれも固有名詞・専門用語を多数収録し、小型百科事典としての機能を持つ。7は今や日本を代表する中辞典。8〜10は7に対抗して出版されたもの。7が時代順の意味記述をするのに対して、8以下では現代よく用いられる意味の順に配列するなどの工夫が成されている。11は近代文学からの実例が多数収録されている点が大きな特徴である。12は最後に引く日本語の辞典。最近現れた語彙には弱いが古い言葉に強い。現在改定作業が進行中。
1 *林 大 監修『現代漢語例解辞典』(小学館 1992 \2530)
2 山口 明穂・竹田 晃 編『岩波新漢語辞典 第二版』(岩波書店 2000 \2600)
3 竹田 晃・坂梨 隆三 編『五十音引き講談社漢和辞典』(講談社 1997 \3200)
4 藤堂 明保 ほか 編『漢字源 新版』(学習研究社 1998 \2550)
5 小川 環樹 ほか 編『新字源 改訂版』(角川書店 1994 \2400)
6 鎌田 正 ほか 編『漢語林 新版』(大修館書店 1994 \2600)
従来の漢和辞典は漢籍を読むための辞典として編集され、日本語の漢字表記語への配慮は充分とは言えなかった。それに対して、1〜3は漢字で表記された日本語を引くための辞典として編集されたもの。中でも1は、部首別画数順配列を踏襲しながら、部首の位置別に漢字を配列するなど、工夫が凝らされている。2は1に先駆けて出版された『岩波漢語辞典』の改訂版。今回1よりも早く新JIS対応版が出た。3は単漢字も漢字表記語も全て五十音配列されている。漢字表記の「読み」を知っている場合には1・2よりも便利であるが、単漢字の検索では1・2より使い勝手が悪い。一方、4〜6は従来の漢和辞典。いずれも中学高校などで用いられているもの(?少なくとも筆者が中学高校在学のころはそうだった)。
7 *藤堂 明保 編『学研漢和大字典』(学習研究社 1978 \4400)
8 尾崎 裕次郎 ほか(編)『角川大字源』(角川書店 1992 \22330)
9 鎌田 正 ほか『大漢語林』別冊語彙総覧付(大修館書店 1992 \23301)
10 上田 万年 ほか(編)『新大字典』(講談社 普及版1993 \15534)
11 *諸橋 轍次ほか『広漢和辞典』全4巻(大修館書店 1981)
12 *諸橋 轍次『大漢和辞典 修訂第2版』(新装普及版)語彙索引付全15巻
(大修館書店 1984、ただし「補巻」は2000) 7〜10は中辞典。7は出版年次は古いが各漢字の漢字音を時代別に挙げてある(ただし、編者の学説による)所が便利。8・9は日本の古辞書における訓を示す(7にもあるがそれよりも充実)。10は異体字に詳しく、12にも無い字体が載っている。11は12のダイジェスト版に当るが、12に無い記事もあるので12とは別に引くとよい。12は最後に引く漢字の辞典。『漢語大詞典』などが出版される以前は世界唯一の漢字の大辞典であった。
1 *中村 幸弘 編『ベネッセ全訳古語辞典』(ベネッセコーポレーション 1996 \2650)
2 *鈴木 一雄 ほか 編『三省堂全訳読解古語辞典』(三省堂 1999 \2430)
3 *松村 明 ほか 編『旺文社古語辞典 第8版』(旺文社 1994 \2500)
4 小松 英雄 ほか 編『例解古語辞典 第3版』(三省堂 1992 \2500)
5 金田一 春彦 ほか 編『新明解古語辞典 第3版』(三省堂 1995 \2800)
6 *中田 祝夫 編監修『古語大辞典』(小学館 1983)
7 *中村 幸彦 ほか 編『角川古語大辞典』全5巻(角川書店 1982-1999)
日本の古典を読むための古語専門の辞典をここで紹介する。最近は用例全てに現代語訳をつけるほか、語釈、図録などが行き届いた学習用古語辞典(高校生用)が各種出版されている。その内、特に意味の説明が見やすく使いやすいと思われる1・2を挙げる。ただし、少し読めるようになるとこれらでは収録語彙の不足を感じるかもしれない。3〜5は高校・大学向けの小型古語辞典としては定評のあるもの。その内、3が収録語彙や意味項目の立て方などの点で比較的親切。しかし、4・5も編者の見識が随所に現れていて捨て難い。 6は@12の古語項目を再編集した中辞典。ただの抜粋ではなく、用例を差し換え、重要語彙には解説を加え、参考文献目録を付けるなど、別の辞典として読むべきものである。7は古語専門の辞典としては最大。百科事典的な情報の記述が充実しており、特に近世の語彙の解説が優れている。
1 広田 栄太郎・鈴木 棠三『類語辞典』(東京堂書店 1955)
2 大野 晋・浜西 正人 編『類語新辞典』(角川書店 1981)
3 大野 晋・浜西 正人 編『類語国語辞典』(角川書店 1984)
4 国立国語研究所(林 大 担当)『分類語彙表』(秀英出版 1964)
(=9.参考文献Cc2)
1 田島 毓堂・丹羽 一彌 編『日本語尾音索引――普及版――』
(笠間書院 1987 \2500)(『岩波国語辞典』第2版による)
2 北原 保雄 編『日本語逆引き辞典』
(大修館書店 1990 \4796)(各種語彙調査を参考)
3 岩波書店辞典編集部 編『逆引き広辞苑 第五版対応』
(岩波書店 1999 \4500)(『広辞苑』第5版による)
1 林 史典 ほか 編『国語基本用例辞典』(教育社 1989)
2 林 史典 ほか 編『15万例文・成句 現代国語用例辞典』(教育社 1992)
3 小泉 保 ほか 編『日本語基本動詞用法辞典』(大修館書店 1989)
4 飛田 良文・浅田 秀子 編『現代語形容詞用法辞典』(東京堂書店 1991)
5 飛田 良文・浅田 秀子 編『現代語副詞用法辞典』(東京堂書店 1994)
6 情報処理振興事業協会技術センター『計算機用日本語基本動詞辞書IPAL(BasicVerbs)』辞書編・解説編(同センター 1987)
7 情報処理振興事業協会技術センター『計算機用日本語基本形容詞辞書IPAL(Basic
Adjectives)』辞書編上下・解説編(同センター 1990)
8 情報処理振興事業協会技術センター『計算機用日本語基本名詞辞書IPAL(Basic Nouns)』辞書編・解説編(同センター 1996)
9 NTTコミュニケーション科学基礎研究所(監修)、池原 悟 ほか(編)『日本語語彙体系』全5巻(岩波書店 1997)
(CD-ROM版1枚 岩波書店 1999 \60,000)(=9.参考文献Cc1)
@山田 孝雄(やまだ よしお)『日本文法学概論』(宝文館 1936)
日本で最初に本格的な理論的文法体系を確立した山田孝雄の、言わずと知れた代表的文法書。山田文法の完成形を見る事ができる。分厚いし、旧漢字と一種独特の文語体に腰が引けてしまいがちではあるが、本書に提起された文法の諸問題(文成立論、「文の種類」論(述体・喚体)、係助詞論、助動詞の本質論、等々)は、未だに日本語文法の中心的な課題であり続けている。著者の文法観については、通常時枝誠記(ときえだ もとき)や渡辺実の著作を通した理解がなされているようであるが、本書の議論はいわゆる陳述論的文法観やその流れにある議論とは基本的に異質な立場に立ったものである。著者自身が何を考えていたのか、『日本文法論』(宝文館 1908)ともども一読して確かめる事を勧める。
A松下 大三郎(まつした だいざぶろう)『改撰標準日本文法』(1928 1930訂正版 1978勉誠社復刻訂正再版)
著者の文法は留学生に対する日本語教育の中から生れた。そのためもあってか、本書の記述体系は一種の普遍文法を目指したものである。他の文法書には見られない独特の用語と理論体系のため、学校文法に慣れた日本人学生にはとっつきにくい印象を与えるだろうが、外国人学生には、このタイプの記述は却って分りやすいかもしれない。様々な文法形式の用法について、鋭い指摘が随所で成されており、その多くが現在の文法研究の重要な基盤となっている。口語体で書かれているのでその分@よりは読みやすい。同じ著者の著作には、口語のみを対象とした『標準日本口語法』(1930 1977勉誠社復刻・増補校訂版、1989修訂版)もあるので、併せて読むことを勧める。
B森重 敏(もりしげ さとし)『日本文法の諸問題』(笠間書院 1971)
現存者の著作なので「古典的」というには憚りがあるが、「何を考えるのが文法か」について一つの立場を見せてくれるものとして本書を勧める。著者は、時枝誠記や渡辺実とは違う方向で山田文法を継承した人物で、文の本質論や文の種類(述体・喚体)を巡る議論、それに付随した係助詞の議論、あるいは副詞の体系についての議論が特に大きい。本書は、初学者への啓蒙を目的として書かれた文章を中心に編まれた論文集であり、著者が何を考えているか大きくつかむのに向いている。なお、代表的な体系的著作としては『日本文法通論』(風間書院 1959)があるが、こちらは「雑誌論文の目録」(某先生談)といった風情で、極めてとっつきにくい。
C 有坂 秀世(ありさか ひでよ)『上代音韻攷』(三省堂 1955)
専門外の本なのでいささか恐縮だがこの本も勧めてみたい。著者は若くして亡くなった音韻論・音韻史の大家。現在の日本語音韻史の学説の大枠は著者と、その師橋本進吉(はしもとしんきち)によって作られたと言ってもよい。本書は著者の遺稿を出版したもの。上代語に限らず、日本語音韻史に関する著者の研究の集大成に当る。現在教科書などで見る事のできる音韻史記述が、実際にはどのような資料からどのような検討を経て導かれたか、そのプロセスを本書でたどる事ができる。用いられている日本内外の文献資料の多様さと、それらを分析する際の周到さ、慎重さは専門外の人間にも勉強になる。なお、本書に集約された研究論文の多くは『国語音韻史の研究』(1944 1957三省堂増補新版)で読むことができる。