・千野 栄一 編『日本の名随筆 別冊93 言語』(作品社 1998 \1800)
谷川俊太郎や柳田國雄、金田一京助をはじめ、そうそうたる24人のメンバーが書いた言語に関する選りすぐりエッセイ集。「世界で一番長い字」だの、「バイリンガリズムについて」だの、どんな話か思わず読んでみたくなるものばかり。アフリカから台湾の山奥まで、世界のさまざまな地域で言語の現地調査に取り組んだ人たちの話も読める。
・町田 健『言語学が好きになる本』(研究社出版 1999 \2000)
気軽に読めることを何よりも第一に考えた本。読むのに面倒くさい外国語の例などは極力減らし、縦書きで書いている。「日本語を言語学する」の章には「は」と「が」の話もあるし、「言語学で語学力アップ」、なんて章もある。巻末に言語学をやりたい人の文献ガイドもついている。
・千野 栄一『言語学の散歩』(大修館書店 1975 \1900)
男性名詞や女性名詞なんてなぜあるんだろう? 本当のバイリンガルっているんだろうか?そんな問いに答えを与えてくれたり、もっとすごい例を示してくれたりするのがこの本だ。色の名前が二つしかない言語や二進法の数詞を持つ言語、なんてのも登場する。類型論や比較言語学、日本語系統論など、興味をそそる分野についても教えてくれる。
・風間 喜代三・上野 善道・松村 一登・町田 健『言語学』(東京大学出版会 1993 \2575)
いろんな人が書いているので、章によって偏りもあるけれども、さすがに東大出身の諸先生が書いているのでオーソドックスな本格派の入門書、という感じがする。特に後半の類型や歴史、音声・音韻の章は深い問題に触れていて、良い。それでも初心者にはやっぱりちょっと難しいかもしれない。でも本格派の入門書もぜひ一冊読んで欲しい。
本格レベル
・町田 健・籾山 洋介『よくわかる言語学入門』(バベルプレス 1995 \2300)
題名もちょっと安易な感じで、中身の作りも受験参考書みたいだが、分かりやすさに重点をおいている本だ。間にコラムもはさんである。言語学の広い範囲をある程度カバーしているので、用語の整理や、自分の理解の確認に便利だ。ただし音声学はなく、統語論も少し偏りが感じられる。
・西田 龍雄 編『言語学を学ぶ人のために』(世界思想社 1986 \2233)
特に1章がわかりやすく、社会言語学や言語人類学の章も良い。「文字」についての章があるのも良い。後半には言語学の名著の文献解説もついている。ただ全体的にやや難しい。
・宮岡 伯人 編『言語人類学を学ぶ人のために』(世界思想社 1996 \2233)
文化の一側面としての言語を多角的にとらえており、個々の章もバラエティに富んでいる。言語と文化の関係を考えるのもっとも良い入門書。我らが外語の中川先生も「フィールドワークのための音声学」の章を書いている。
・小泉 保『教養のための言語学コース』(大修館書店 1984 \2300)
導入が独特のスタイルで、ちょっと冗長な気もするが、図も多くて見やすく、文もくだけていてわかりやすい。筆者が専門としているウラル諸語を中心に多くの言語から例をあげている点もいい。
・千野 栄一『言語学のたのしみ』(大修館書店 1980 \2200)
外語大で長く教えられた千野先生が、エッセイ形式で言語の諸側面を楽しく書いている。トピック毎に数ページずつなので、どこからでも読めるし、短い時間にも読める。外語時代のエピソードもいくつも登場する。
・千野 栄一『注文の多い言語学』(大修館書店 1986 \1602)
上記の続編。能格言語や「言語のガラパゴス」カフカースの話、文字やなぞなぞに文体のパロディまで、さらに多様な観点から言語を、そして言語学を語っている。
・千野 栄一『ことばの樹海』(青土社 1999 \2200)
やはり千野先生の言語及び言語学に関するエッセイ集で、最新のもの。「一番難しい言語」や「バルカン半島の言語接触」、「文字を作った人々」などここでも楽しいテーマがとりあげられている。
・田中 春美・樋口 時弘・家村 睦夫・五十嵐 康男・倉又 浩一・中村 完・下宮 忠雄
『言語学のすすめ』(大修館書店 1978 \2000)
少し古くなってしまったところもあるが、幅広い領域をカバーしたオーソドックスな言語学の入門書。
・西垣 通 編『日本の名随筆 別冊88 文字』(作品社 1998 \1800)
白川静に矢島文夫、中西亮、西田龍雄とくれば、みんな知ってる文字の大家ばかり。その他に安部公房や井上ひさし、中島敦のミニ小説やエッセイもある。まずはこんなところから文字の持つ面白さについて考えてみるのもいいかもしれない。なおこのシリーズにはさらに清水義範編の『別冊66 方言』や、『27 地名』、『45 翻訳』、『74 辞書』なんてのもある。
参照用図書
・亀井 孝・河野 六郎・千野栄一 編『言語学大辞典』 第1〜5巻[世界言語編]、第6巻[術語編]
(三省堂 1988,1989,1992,1992,1993,1996;\43000,\42000,\38000,\38000,\39000,\49000)
とにかくまずは一度図書館に行って手にとって広げてみてほしい。どの本も2000ページ近くあり、3200もの言語がとりあげられている。
まず第1巻には89ページの雄編、「アイヌ語」がある。J科ならこの日本の少数民族言語についてまず読んでみてもらいたい。「アフリカの諸言語」、「インド・ヨーロッパ語族」、「オーストラリア原住民語」などの大作や、「広東語」もこの巻だ。2巻にはなんといっても「日本語」がある。日本語の歴史と現代日本語に大きく分かれていて、その中も音韻、文法、………と各分野にわたっている。南不二男、河野六郎、亀井孝、寺村秀夫他そうそうたる執筆陣である。何をおいてもまずこれを読む必要があろう。「朝鮮語」と「中国語」もこの巻だ。対照言語学などを目指す留学生諸君は、まず自分の母語について、言語学的にどのようにとらえられているのか知る必要がある。3巻では「北米インディアン諸語」の記述がくわしい。4巻では「琉球列島の言語」。係り結びやP音など古い特徴を保ち、他方で完全に3母音に移行した与那国方言までをも含む琉球列島の言語は、日本語という言語のしくみを考える上で不可欠である。ただここでの記述は一部の学派の独特の用語が使われていて読みにくい面がある。5巻は半分索引だが、ここには「琉球列島の言語(奄美方言)」がある。6巻は術語編で、随時参照すると言語学の力がつく。新しい知見も多く、思いがけない項目もある。まずは「FSP」、「格」、「格の触手」、「言語」、「言語学」、「言語人類学」、「言語類型論」、「言語連合」などをお勧めしておく。各国の言語学の伝統・発展状況についても書かれているし、巻末の人名解説も便利だ。
・デイヴィッド・クリスタル(風間 喜代三・長谷川 欣佑 監訳)『言語学百科事典』 (大修館書店 1992 \15450[David Crystal, The Cambridge Encyclopedia of Language])
きれいな写真や図表が豊富にあって、言語学のさまざまな分野に触れている。個々の現象の具体例もたくさんのっている。幼児の言語習得、言語と脳の関係、手話や言語外コミニュケーションなどもくわしい。読んでいても眺めていても楽しい本。
・世界の文字研究会 編『世界の文字の図典』(吉川弘文館 1993 \17500)
これも読んでも見ても楽しい本で、古今東西世界中の文字を解説している。個々の文字の読み方も書き方もくわしい。世界の文字の豊富さと、その伝播や発展の歴史に深く魅せられる。漢字音もベトナムにわたるまであるなど、網羅的であるのはすごい。
・『講座 言語』全6巻(大修館書店)
・B・コムリー S・マシューズ M・ポリンスキー 編(片田 勇訳)
『世界言語文化図鑑 世界の言語の起源と伝播』(東洋書林 1999 \12000)
・川端 いつえ『英語の音声を科学する』(大修館書店 1999 \2200)
・斎藤 純男『日本語音声学入門』(三省堂 1997 \2000)
・国際交流基金日本語国際センター『教師用日本語教育ハンドブック 発音』 (凡人社 1989 \1250)
・柴谷 方良・影山 太郎・田守 育啓『言語の構造 音声・音韻編』
(くろしお出版 1981 \2625)
・ベルティル・マルンベリ(大橋 保夫 訳)『音声学』(白水社文庫クセジュ 1976 \750[Bertil Malmberg La phone’tique])
・小泉 保『音声学入門』(大学書林 1996 \3090)
・竹林 滋『英語音声学入門』(大修館書店 1982 \1957)
・『日本語教育指導参考書1 音声と音声教育』(文化庁 1971 \640)
・城生 佰太郎『音声学』(アポロン音楽工業社 1982 品切れ)
参照用図書
・NHK 編『日本語アクセント辞典』(日本放送出版協会 1986 \4800)
・林 栄一・小泉 保『言語学の潮流』(勤草書房 1988 \2890)
・角田 太作『世界の言語と日本語』(くろしお出版 1991 \3000)
・バーナード・コムリー (松本 克己・山本 秀樹 訳)『言語普遍性と言語類型論』(ひつじ書房 1992 \3296)
・クロード・アジェージュ (東郷 雄二 ・青木 仁孝・藤村逸子訳)『言語構造と普遍性』(白水社 1990 \2427)
・橋本 萬太郎『言語類型地理論』(弘文堂選書 1978 品切れ)
・橋本 萬太郎『現代博言学』(大修館書店 1981 \3600)
・ビレーム・マテジウス (千野 栄一・山本 富啓 訳)『マテジウスの英語入門 対照言語学の方法』(三省堂 1986 品切れ)
・梶 茂樹『アフリカをフィールドワークする』(大修館書店 1993 \1545)
・中川 裕『アイヌ語をフィールドワークする』(大修館書店 1995 \1751)
・中島 由美『バルカンをフィールドワークする』(大修館書店 1997 \1600)
・青木 晴夫『滅びゆくことばを追って』(岩波書店同時代ライブラリー 1998 \1100)
・宮岡 伯人『エスキモー 極北の文化誌』(岩波新書364 1987 品切れ)
・小島 陽一『トルコのもう一つの顔』(中公新書1009 1991 \680)
・稲垣 美晴『フィンランド語は猫の言葉』(講談社文庫 1995 \540)
・一ノ瀬 恵 『モンゴルに暮らす』(岩波新書 赤 194 1991 品切れ)
・風間 喜代三『言語学の誕生』(岩波新書69 1978 品切れ)
・朝日ジャーナル 編『世界のことば』(朝日新聞社 朝日選書436 1991 \1050)
・東京外国語大学語学研究所 編『世界の言語ガイドブック 1ヨーロッパ・アメリカ地域』『世界の言語ガイドブック 2アジア・アフリカ地域』(三省堂 1998年 各\2800)
・柴田 武 編『世界のことば小事典』(大修館書店 1993 \5665)
・池田 修 監修『世界を学ぶブックガイド』(嵯峨野書院 1994 \4480)
・千野 栄一 監修『世界ことばの旅(地球上80言語カタログ)』(研究社出版 1993 \6200)
・エドワード・サピア(安藤 貞雄 訳)『言語』(岩波文庫 1998 \760)
・オットー・イェスペルセン(半田 一郎 訳)『文法の原理』(岩波書店 1958 品切れ)
・フェルディナン・ド・ソシュール(小林 英夫 訳)『一般言語学講義』(岩波書店 1940 1972改版 \4000)
・レナード・ブルームフィールド(三宅 鴻・日野 資純 訳)『言語』(大修館書店 1962 \6000)
・ミルカ・イヴィッチ(早田 輝洋・井上 史雄 訳)『言語学の流れ』(みすず書房 1974 品切れ)
・ユアン・レン・チャオ(橋本 萬太郎 訳)『言語学入門―言語と記号システム―』 (岩波書店 1980 品切れ[Yuen Ren Chao Language and symbolic systems])
・沼野 充義『屋根の上のバイリンガル』(白水Uブックス 1996 \950)
・河野 六郎・西田 龍雄『文字贔屓』(三省堂 1995 \2900)
・池上 嘉彦『ふしぎなことば ことばのふしぎ』(筑摩書房 1987 \1100)
・矢島 文夫『解読 古代文字』(ちくま学芸文庫 1999 \950)
・シュリーマン(村田 数之亮 訳)『古代への情熱』(岩波文庫 青420-1 1954 \350)
・杉田 玄白(緒方 富雄 校註)『蘭学事始』(岩波文庫 青20-1 1959 \398)
全ページカラーで、大きな言語分布地図と写真を満載し、地球上の言語の全体像を描き出そうとしている。分類はややおおざっぱだが、各言語のおもしろいトピックも取り上げている。翻訳に難点があるのが残念だ。
2.音声学
基本レベル
図も多くてわかりやすく、音節や音韻論の説明は類書の中では新しい知見が盛り込まれていて良い。例やコラムも楽しく読めるように考えられている。形態音素や同化の章があるのもいい。
さまざまな言語からの例があがっていて、調音の仕方を示す図も豊富なのが良い。音声の現役の専門家ならでの記述で、音響音声学的な分析も示されている。インターネットやテープでさらに学ぶ方法についても書いてあって参考になる。
日本語教育の立場から書かれていて、日本語の音声について詳しく、指導の際に有効な練習例、ミニマルペアがあがっていて便利だ。
音韻論(特に生成音韻論)について、平易で段階的な練習問題が十分にあって、わかりやすい。実際の分析の手順を学ぶことができる。なお統語・意味編もある。
翻訳なので、フランス語をはじめヨーロッパの諸言語の例が多いのが少し問題だが、言語学全体を広く見据えて、音声学・音韻論をしっかり位置付けているところが良い。
本格レベル
CatfordやLadefogedの図や表を多くひいていて、また諸言語の音声のテープがついていて有用だが、値段が高いのと、少し間違いもあるのが難点だ。AVセンターにテープ有り。
英語の音声について、実戦的で見やすく書かれている。練習もついているから、テープと併用すると良い。AVセンターにテープ有り。
全体が穴埋め形式になっていて、読むにはつらいけれど、知識の確認や整理に良いかもしれない。値段は安い。
ちょっと独特だが、「おしゃべりバイオリン」なども入ったおもしろいテープがついている。母音やアクセントがくわしい。さまざまな言語の音声も聞ける。AVセンターにテープ有り。
留学生は必携。日本人も一度巻末の品詞別のアクセント及び複合語のアクセントの解説に目を通しておくとよい(特に共通語とは違うアクセント体系を持っている者は必携)。
3.言語類型論
ヨーロッパとアメリカに地域別にした言語学史がくわしく、最近の諸理論の紹介もある。17人の著者で分担して書いているので、各項目はわりと細かい。
筆者が関心をもったさまざまな観点から、世界の言語と日本語の相違と、そこに働く類似した原理について考えている。所有傾斜や二項述語階層など、筆者独自の枠組みも提示されていて面白い。飾らない語り口で、きちんと具体例によって説明している。
語順や使役、関係節などをテーマに言語普遍性と類型論を、さまざまな言語の具体的なデータによって解説している。
150ページあまりの本だが、実に754もの言語を研究対象としている筆者の広い知識に驚かされる。
主に中国語を中心に、北から南へ移り変わっていく言語の様子を描き出した筆者の豪快な構想である「言語類型地理論」が展開されている。
音声から文字にいたるさまざまな現象を広大な地域と多くの言語の観点から広くとらえ、一つ一つ筆者ならではの結論を出していく過程が記されている。
チェコの生んだ偉大な言語学者マテジウスが一般の人のためにわかりやすく書いた興味深い本。英語の正書法のしくみや、受動態とFSPの関係などが展開されている。原題はじつに「英語なんかこわくない」、である。巻末には要領のいいチェコ語の概説もついている。
4.記述言語学
未知の言語をもとめアフリカに入った筆者が、村の生活、言語調査の実態から、アフリカ音楽や映画の背景にいたるまで、多数の写真をまじえて紹介している楽しい本。
危機に瀕した日本の少数民族の言語であるアイヌ語の現在と未来を、筆者は冷静にかつ静かな愛情をこめてみつめている。アイヌの文化についてもくわしい。
さまざまな系統の違う言語がひしめくバルカン半島。ここでマケドニア語に取り組んだ筆者がバルカン世界を紹介する。バルカン料理の話も詳しい。
言語調査とはどのようなものか、現地に入るところからはじまってその全貌を描く。もはや古典ともいえる書。筆者は北米インディアンのネズパース語の専門家だ。
文のような長い単語を作るエスキモー語の独自の構造や、「雪」を示す語がたくさんあるその語彙体系、そして説話や厳しい環境の中での彼らの暮らしも描かれている。
トルコやイランに住む国を持たない少数民族クルド族。しかしトルコ政府は彼らの存在さえも認めていない。その目をかいくぐってまだ記録のない言語を調べた物語である。
一人の大学生が、日本ではマイナーな国に留学して、その言語と文化に出会った体験をつづるエッセイ。フツーの大学生の視点でみずみずしく書かれている。
モンゴル科出身の外語の先輩一ノ瀬さんは女性としては日本初めての留学生としてモンゴルにわたり、多くのすばらしい友人たち、そして生涯の伴侶に出会う。さまざまに生きるモンゴルの人々を豊富な写真も添えて紹介しつつ、もちろんそ一方で「文化をうつすことば」に触れることも忘れていない。
5.比較言語学・世界の言語
実証的な学問としての言語学は比較言語学にはじまった。ジョーンズの発見にはじまったこの分野が偉人たちによって確立していく壮大な物語を本書は着実に追っている。
見開き2ページに一つの言語、全部で110の言語をその専門家たちが解説している。ある言語をとりまく背景を知りたいとてっとりばやく思ったら、とても便利なこの1冊。
外語の先生が中心になって作った本で、早津先生も「日本語」の項を書いている。音声や文法のしくみのみならず、名前のつけ方や挨拶、数詞のことも言語ごとに書いてある。
4ページに1つの言語、全部で128の言語について、文字と発音、ことばの背景、日常表現、文化情報までのっているすぐれもの。
世界のある地域の言語や文化を知りたいと思ったらどんな本を読めばいいのか!? その問いに答えてくれる1冊。大阪外語の先生を中心に地域別に本を紹介、解説している。
世界の80の言語の話者から録音した生の音声を聞くことができる。外語の学生(当時)が留学生会館や大使館を回って録音したもので、話者はまず10まで数え、挨拶をしゃべり、それからおもいおもいに話している。最近CD-ROM版が出ました(\7000)。
6.古典・その他
専門の者が繰り返し読んでも、そのたびごとに新しい発見がある古典中の古典。それでいて古くならず、多数の言語についての深くて該博な知識に基づいて書かれている。「言語の詩人」といわれるサピアの格調高い英文は、原文で味わうのが良いけれども翻訳でも内容はつかめる。タイプの違う言語を学んでから読むと、さらによくわかるようになる。
イェスペルセンはデンマークの人である。同じゲルマン諸語に属し、英語とよく似ている面と似ていない面を併せ持つこのデンマーク語を母語としたイェスペルセンはさらに他のたくさんの言語の仕組みに通じ、英語学のみならず言語学に巨大な足跡を残した。この本にはイェスペルセンのアイデアがぎっしり詰まっている。たくさんの言語からの豊富で適切な例と、言語現象に対するきわめて深い考察がここにある。
言語記号の根本原理である恣意性と線条性、ラングとパロールとランガージュ、連合関係と統合関係、通時態と共時態、み〜んな近代言語学の父、ソシュールが広めた概念ばかりである。しかし言語学の入門書で読んでもその本当の意味はわからない。ぜひ一度この原典をみると良い。比較言語学の大家でもあるソシュールのすごさは後半の歴史言語学の類推の部分などにも光っている。しかもこの本はソシュールが自分で書いたのではなく、その講義に感動した弟子たちが講義ノートを集めて作った、という事からすでにそのすごさがわかる。
「行動主義心理学に基づくブルームフィールドの言語学は古くなった」という人もいるが、それは主にこの本の2章だけの話で、他の章は依然言語学を学ぶものにとってバイブル的存在である。自由形式と拘束形式をはじめ、その形態論は客観的で緻密である。ゲルマン比較言語学の該博な知識は歴史言語学の章に顕われている。そしてさらにフィリッピンの言語や北米インディアン諸語の知識が「言語」そのものに迫る彼の態度の強力な支えとなっている。
言語学史をどれか1冊、ということになればこれがよい。旧ユーゴ出身の筆者はスラブ語の文献に明るく、ソシュールの陰で忘れられがちなクルトネらも十分な紹介がなされている。言語学の歴史を各時代の科学や文化と関連づけ、人類の文化の大きな発展の中でとらえている。
「東洋に生をうけてその英知をうけつぎ、西欧で教育されてその分析精神を身につけて、文字どおり世界市民となった知的巨人にしか書けない論評が、いたるところで平易にしてユーモアにさえ充ちたことばのうらにあたまをのぞかせていて、まことに諸学者にとってはこのうえない楽しい読み物であり、専門家にとっては1頁1頁が再発見でありおどろきである」(訳者の橋本萬太郎氏のあとがきより)
前半にはアメリカでの少数民族(?)であるイディッシュの話し手や、ロシア人、ポーランド人たちに光をあてて、その言語生活を描いている。後半では人称代名詞や、バイリンガル、ボディランゲージについての筆者ならではのエッセイが楽しめる。
河野、西田、という文字に深くかつ該博な知識を有する大先生同士の文字に関する対談集。文字の諸起源や解読にはじまり、文字と音や意味との関係、文字の形や構成………、と話は尽きない。
ことばあそびや詩のことば、こどものことばに擬音語、同音語………、身近にあるさまざまなことばがみせる不思議にはじまって、ことばの根本的なしくみについて考えさせる本。
線文字Aやイースター島の文字など、世界にはまだまだ未解読の文字がある。その一方でロゼッタストーンを13年かけて解読したシャンポリオンをはじめ、人類には輝かしい解読の歴史がある。本書では解読の歴史を概観しつつ、「解読」について多方面からアプローチしている。
トロヤ戦争の物語を読んだ少年シュリーマンは、美しい都市が必ず地下に埋もれていると信じその発掘を志す。その後猛勉強し、夢を実現するのだが、たくさんのことばを駆使したシュリーマンのことばを習得していくエピソードがまたなんとも興味深いのだ。
辞書もなく文法書もない当時、蘭学創始時代の先人たちの苦闘はなみたいていのものではなかった。その記録は今も感動を呼ぶ。