第3回講演 「格差と没落―抑圧者の恐怖心」/「反人種主義のフランス思想―エティエンヌ?バリバール」

第3回目のテーマは「社会の中の分断と融和」です。

かつての奴隷制、強制労働や植民地主義を経て成立した国々の社会には、現在もその歴史と影響が残っている。米国での黒人への差別と同様に、フランスやイギリスをはじめとしたヨーロッパの国々でも、主に旧植民地の国々にルーツを持つ人々や移民への差別が残る。奴隷貿易や植民地経営はグローバル経済としての営みであった。BLM運動に顕れた社会の中の分断も、資本主義経済の進展の帰結と捉えることができる。本セミナーでは、米国、フランス、そして日本において、かつては少なくとも被支配層や経済的弱者ではなかったはずの人々が差別や暴力へと追い立てられる経済的背景について考える。また、広がりつつあるように見える社会の分断から融和へとつながる道を探るべく、反人種主義をめぐる思想的な考察についても深める機会としたい。

講演者/講演タイトル

オープニング:

  • 青山亨(東京外国語大学大学院総合国際学研究科長)

司会:

  • 武内進一(東京外国語大学現代アフリカ地域研究センター/大学院総合国際学研究院教授)

日時

2020年12月23日(水)17:40~19:40

Zoomウェビナーでのオンライン開催

プログラム

1.開会 司会:武内進一教授(0:00)
2.オープニング 青山亨 東京外国語大学大学院総合国際学研究科長(03:00)
3.講演「格差と没落:抑圧者の恐怖心」 出町一恵准教授(07:11)
4.講演「反人種主義のフランス思想:エティエンヌ?バリバール」 太田悠介准教授(37:33)
5.講演者間のコメント、質問(1:13:07)
6.参加者との質疑応答(1:27:00)
7.閉会 司会:武内進一教授(1:58:46)

備考

使用言語:日本語

参加費:無料

事前申し込み必要(東京外国語大学?神戸市外国語大学の大学院合同セミナー第9回の第2部として開催されます。両大学の在学学生優先。先着受付順)

共催

神戸市外国語大学大学院外国語学研究科、東京外国語大学多文化共生研究創生WG、大学院総合国際学研究科、現代アフリカ地域研究センター、海外事情研究所、国際日本研究センター

講演「格差と没落:抑圧者の恐怖心」参考文献

  • Case, Anne and Angus Deaton (2020) Death of Despair and the Future of Capitalism, Princeton University Press: Princeton and Oxford.
  • Frey, H., William (2018)Diversity Explosion: How New Racial Demographics are Remarking America, Brookings Institution Press.
  • Haley, Alex (1976) Roots: The Saga of an American Family
  • Hawes, Jennifer Berry (2019) Grace Will Lead Us Home, St. Martin’s Press: New York.(仁木めぐみ訳『それでもあなたを「赦す」と言う』亜紀書房, 2020。)
  • Lasch, Christopher (1995) The Revolt of Elites, W.W. Norton & Company: New York and London.
  • Nachtwey, James, The Opioid Diaries, Time誌ウェブページ, https://time.com/james-nachtwey-opioid-addiction-america/ (2021年1月20日最終アクセス)
  • Piketty, Thomas (2020) Capital and Identity, The Belknap Press of Harvard University Press: Cambridge and London.
  • Y Gasset, José Ortega (1929) La rebelión de las masas (佐々木孝訳『大衆の反逆』岩波文庫, 2020年)
  • 新井紀子『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』東洋経済新報社, 2018年。
  • 河合薫「男は超つらいよ」, 連載コラム『河合薫の新?社会の輪 上司と部下の力学』, 日経ビジネス, https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00118/00101/ (2020年1月20日最終アクセス)。
  • 金城隆一『ルポ トランプ王国』岩波書店, 2017年。
  • 金城隆一『記者、ラストベルトに住む』朝日新聞出版, 2018年。
  • 金城隆一『ルポ トランプ王国2』岩波書店, 2019年。
  • 就業構造基本調査(日本、総務省e-Stat)
  • 人口動態調査(日本、総務省e-Stat)> 死亡率, 死因
  • 内閣府HP「高齢社会対策の基本的在り方等に関する検討会報告書」第1回資料5-2『家族と世帯』https://www8.cao.go.jp/kourei/kihon-kentoukai/k_1/pdf/s5-2.pdf (2020年1月20日最終アクセス)
  • World Development Indicators(世界銀行データバンク)

講演「反人種主義のフランス思想:エティエンヌ?バリバール」参考文献

  • 稲葉奈々子「サン?パピエと市民権」三浦信孝編『普遍性か差異か 共和主義の臨界、フランス』藤原書店, 2001年, pp.49-71。
  • 植村邦彦『ローザの子供たち、あるいは資本主義の不可能性』平凡社, 2016年。
  • ?tienne Balibar, Les Frontières de la démocratie, Paris, La Découverte, 1992.
  • エティエンヌ?バリバール『市民の哲学 民主主義における文化と政治』松葉祥一訳, 青土社, 2000年。エティエンヌ?バリバール, イマニュエル?ウォーラーステイン『人種?国民?階級 「民族」という曖昧なアイデンティティ』若森章孝ほか訳, 唯学書房, 2014年。
  • エティエンヌ?バリバール, イマニュエル?ウォーラーステイン「人種主義を乗り越えることはできるのか エティエンヌ?バリバールとイマニュエル?ウォーラーステインとの対話」『神戸外大論叢』73号, 太田悠介?中山智香子訳, 近刊。
  • 坂野徹?竹沢泰子編『人種神話を解体する(2) 科学と社会の知』東京大学出版会, 2016年。
  • Chikako Nakayama, “Belated Acceptance of Problem: The Meaning of Race, Nation, Class in Japan”, in Manuela Bojad?ijev and Katrin Klingan, Balibar/Wallerstein’s Race, Nation, Class. Rereading a Dialogue for Our Times, Argument Verlag, 2018, pp.151-161.
  • 中村隆之『野蛮の言説 差別と排除の精神史』春陽堂, 2020年。
  • 畑山敏夫「マリーナ?ルペンと新しい国民戦線」高橋進?石田徹編『ポピュリズム時代のデモクラシー ヨーロッパからの考察』法律文化社, 2013年。
  • ベルトラン?ジョルダン『人種は存在しない 人種問題と遺伝学』山本敏充監修, 林昌宏訳, 中央公論新社, 2013年。
  • Michel Winock, La France politique XIXe-XXe siècle, Paris, ?ditions du Seuil, 2006.
  • 宮島喬『フランスを問う 国民、市民、移民』人文書院, 2017年。
  • 森千香子『フランス〈移民〉集住地域の形成と変容』東京大学出版会, 2016年。
  • ヤミナ?ベンギギ『移民の記憶 マグレブの遺産』石川清子訳, 水声社, 2019年。
  • 梁英聖『レイシズムとは何か』ちくま新書, 2020年。
  • 若林章孝?植村邦彦『壊れゆく資本主義をどう生きるか 人種?国民?階級2.0』唯学書房, 2017年。

参加者の声

  • 出町先生のご講演について、私は経済に本当に疎いので、理解できるか心配でしたが、先生のご説明がとても分かりやすく、私でも納得しながら聞くことができました。今まで経済に興味を持ったことがありませんでしたが、経済からBLM運動を斬るというテーマがとても面白く、初めて経済に興味を持つことができました。私はアフリカ地域を専攻しているので、アメリカ社会を見るときも黒人の視点を勉強することが多かったのですが、白人も追い詰められるような状況に今なっているということにとても驚きました。
  • 経済、哲学という2つの方向から、人種に由来する問題だけでない側面を捉え直すことができ、たいへん良かったです。さまざまな要素が組み合わさって偏見?通説を顕在化させているのだと感じました。なかなか乗り越えることの難しい問題ではありますが、丁寧に解体して理解していきたいと思います。
  • 経済学及び金融の専門家と、社会事象を深く考察する哲学の専門家が独自の視点からBLM運動及びその関連事象について語っていただいた。両者においてやはり共通していること、あるいは両者の話をまとめると、科学的に根拠を持たないとされている「人種」を基に差別が行われている背景としては、経済的停滞を背景とした人々の不安が隠れている、ということがあげられる。危機にこそナショナリズムが敷衍する、という言説は月並みではあるが、それこそコロナ禍によって後退しつつある現下の情勢において最も憂慮すべきことであると思われた。
  • 出町先生、太田先生、ご講演誠にありがとうございました。アメリカの問題、フランスの問題をそれぞれ経済や人種の観点から深く理解することができました。ご紹介いただいた書籍をこれから読んで、今日のご講演内容をさらに深く理解していきたいと思います。
  • 非常に興味深く感じました。BLMの活動にはかなり否定的な意見を持っていましたが、その背景に潜むアメリカの格差社会などについて、政治、経済的に分析すると時代の大きな流れとして理解できた気がします。
  • 出町一恵先生が「社会的痛み」による絶望死に触れたことが印象に残りました。
  • Black Lives Matterや人種問題について議論するとき、私は、その社会問題だけに目を奪われて、差別を実際に受けた人の具体的な状況を忘れがちです。恐ろしいことに、この私の状況は、差別をする側の人間の思考に似ています。イスラム?フォビアに関する質問に対して、太田先生は「具体的な状況を無視している」ことがこの差別の問題であるとおっしゃっていました。私も自分の研究で社会問題について触れる以上、差別する側と同じように人間を一括した表象で捉えることのないようにしなければならないと学ばせていただきました。

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