1999年〜2001年度ラロ貝塚群調査内容
カガヤン河下流域の考古学調査―狩猟採集民と農耕民の相互依存関係の歴史過程の解明―
Archaeological Research on the Lower Cagayan
River - Study on the Historical Process of
Hunter-Gatherer/Farmer Interdependent Relationship.
研究組織:
小川 英文 (42)
東京外国語大学・外国語学部・助教授
青柳 洋治 (56)
上智大学・外国語学部・教授
小池 裕子 (51)
九州大学大学院・教授
ウイルフレド・ロンキリオ(50)
フィリピン国立博物館・考古学部門・部長
ユセビオ・ディソン (43)
フィリピン国立博物館・考古学部門・首席研究員
エンジェル・バウティスタ(42)
フィリピン国立博物館・動物考古学科・主任研究員
アマリア・デ・ラトーレ (42)
フィリピン国立博物館・考古学部門・主任研究員
樋泉 岳二 (36)
早稲田大学・講師
田中 和彦 (38)
敬愛大学・講師
松村 博文 (41)
国立科学博物館・人類学部門
研究計画の目的
フィリピン、カガヤン河下流域の考古学調査による当該地域編年体系の精緻化、自然環境変化の明確化、そして民族考古学の方法をもちいた農耕開始以降から現在に至るまでの狩猟採集民と農耕民の相互依存関係の歴史過程解明によって、文明へとは向かわなかった狩猟採集民の人類史の一面を明らかにすることを目的とする。
14.年度別の具体的研究内容(箇条書きで連続した年度計画を記入のこと)
(平成11年度)
研究目的に則した資料収集のための遺跡発掘、人工遺物および動・植物遺体の分析そして古環境データの収集・分析等を行う各分野の専門家を組織し、より一層充実した調査研究体制を築く。調査隊は考古、地質、古食餌の3隊に別れ、さらに考古は低地貝塚調査、丘陵部調査、民族考古学調査、貝層形成過程調査の4班に別れて、以下の調査を行う。
(1)マガピット貝塚以南の貝塚群のうち、すでに分布調査によってその規模と出土遺物の種類が確認されているアグネタン、ガッタラン、ドゥモン貝塚の発掘調査を開始し、これまでマガピット貝塚以北の貝塚から得られた土器資料で構築された土器編年との比較研究を行い、編年体系の精緻化をめざす。
(2)カガヤン河東岸丘陵地域に立地する洞穴および開地遺跡の分布調査をこれまで同様、天然資源環境省の協力を得て実施する。さらにこの分布調査で新たに発見された洞穴遺跡の予備的発掘調査を行い、剥片石器等丘陵地域特有の遺物を検出する。
(3) 丘陵部の分布調査中、狩猟採集民ネグリトの民族考古学調査を行う候補地を選定するための予備調査を行う。
(4) 貝層形成過程の再構成のための調査と出土遺物の分析を継続する。必要に応じて発掘調査を行う。
(5) 魚骨を中心とする貝層中出土動物骨との現生比較資料の収集を継続する。
(6) カガヤン河東岸の遺跡分布調査を継続し、遺跡規模、表面採集遺物の時期を確定して、当該地域の遺跡分布の変遷を追求する。
(7)発掘調査を行う各遺跡を中心として、地質調査のためのボーリングサンプルを収集し、当該地の環境変化を時代ごとにたどり、熱帯雨林の形成からそれ以降、現在までの変遷の再構成をめざす。
(8)古食餌復元のための先史人類学的研究を継続して行う。この基礎資料となる人骨の収集は貝塚発掘で得られた資料を用いる。
(9)調査結果の分析・実測をマニラの国立博物館で行い、本年度調査の報告書を作製するとともに、各専門分野の分析結果を総合して、狩猟採集民と農耕民の関係史復元のためのモデルづくりを行う。
(平成12年度)
前年度に引き続き、調査隊は考古、地質・花粉、古食餌の3隊に別れ、さらに考古は低地貝塚調査、丘陵部調査、民族考古学調査、貝層形成過程調査の4班に別れて、以下の調査を行う。
(1)マガピット貝塚以南のアグネタン、ガッタラン、ドゥモン各貝塚遺跡群の発掘調査を継続し、土器による編年体系の精緻化を図るとともに、貝層の性格から貝塚採集を中心とする生業活動の実態を復元し、マガピット貝塚以北の貝塚群との比較研究を行う。
(2)サンロレンソ、サンタマリア、アグネタン各貝塚で検出される伸展葬および甕棺墓の発掘調査を行い、発掘資料の比較研究から、各遺跡の編年的位置づけ、被葬者の階層性を明らかにし、調査地域全体の社会関係の変遷を階層化に焦点を当てて追求する。
(3)狩猟採集民ネグリトと低地農耕民との経済的・社会的相互依存関係についての民族考古学的調査を開始し、両者の農耕開始から現在に至る関係史復元のためのモデル構築をめざし、考古資料との比較研究を行う。
(4)先史時代の狩猟採集民と農耕民との相互関係に資する考古資料を得るため、丘陵部の洞穴・開地遺跡の分布調査と発掘調査を継続する。
(5)貝層形成過程の再構成のための発掘調査と出土する自然遺物の分析、魚骨標本の収集を継続する。
(6)地質・花粉分析調査のためのボーリングサンプル収集を継続し、当該地の自然環境の変化過程を復元する。
(7)古食餌復元のための先史人類学的研究を継続して行う。この基礎資料となる人骨の収集は墓地遺跡発掘で得られた資料を用いる。
(8)調査結果の分析をマニラの国立博物館で継続し、各専門分野の分析結果を総合して、狩猟採集民と農耕民の関係史復元のためのモデル構築へと統合していく。
(平成13年度)
引き続き、調査隊は考古、地質・花粉、古食餌の3隊に別れ、さらに考古は低地貝塚調査、丘陵部調査、民族考古学調査、貝層形成過程調査の4班に別れて、調査を継続する。しかし当該年度は最終年度にあたるため、報告書作成に向けてこれまで得られた資料の分析・整理を中心に行い、発掘調査は分析・整理作業の進捗状況に合わせて、あくまで補足的に実施する。
(1) 土器による編年体系の精緻化のために、層位にもとづいた発掘資料を補完する。土器の完形品資料を多く出土する墓地遺跡での発掘調査を補足的に実施する。
(2)各貝塚の貝層の性格から貝塚採集を中心とする生業活動の実態復元、マガピット貝塚以北の貝塚群との比較研究の継続、さらに貝層下シルト層中文化層における生業復元のモデル化を行い、カガヤン河河岸遺跡群の長期にわたる生業史の復元を行う。
(3)墓地遺跡から得られた資料を中心として、被葬者の階層性を明らかにすることによって、調査地域全体の社会階層化の変遷史を復元する。
(4)社会の階層化を考える資料として、これまで貝層中から出土している製鉄址資料を中心に検討する。鉄スラグの分析によって、鉄鉱石を原材料に使用していたことが明らかとなっているが、その供給地と製鉄址の分布をもとに考察する。
(6)これまで行ってきた土器による編年体系の精緻化、生業史の復元、社会階層化過程の復元、自然環境開発史の復元、構築されたモデルを統合して、当該地における狩猟採集民と農耕民との相互依存関係の歴史復元へと統合する。