ご入学おめでとうございます!(2022年度入学式)
2022.04.05
2022年4月5日(火)、2022年度入学式が行われました。今年度は、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、アゴラ?グローバルのプロメテウス?ホールおよび研究講義棟の各教室に分かれる形で執り行われました。
言語文化学部365名(編入学10名含む)、国際社会学部348名(編入学9名含む)、国際日本学部79名、大学院総合国際学研究科博士前期課程/後期課程161名、計953名の新入生が入学を許可されました。
学長式辞
学部、大学院へ入学の皆さん、
入学おめでとうございます。学部の皆さんは、教室に分散しての式となりました。皆さんの笑顔を直接みることができないのは残念ですが、ホールを満員にして行う入学式ではなく、これから一緒に学ぶことになる仲間、またこれから指導を受ける先生方と一緒に、今、この中継をみていただいているのも、意味のあることだろうと思います。もちろんこれは、新型コロナウイルス感染症対策ですが、2年間のコロナ禍を、単に災いで終わらせるのではなく、これまでのあたりまえや、固定観念を見直す機会にもしていかなくてはいけないと思います。
さて、学部に入学される皆さんの多くは、高校時代の半分以上をコロナ禍のもとで過ごされました。全国各地からいらしているので、おかれていた状況はさまざまでしょうが、在宅での学習期間があり、また行事の延期?中止も多かったものと思います。だからこそ、大学に入ったら、あれもこれもやりたいと希望に胸を膨らませているのではないかと思います。私たちの大学も、2年間、コロナ禍への対応に追われてきました。しかし、皆さんの入学とともに、私たちは、今、真の意味での「新しい日常」を開始しようとしています。マスクの着用や黙食といった周囲への配慮は当然ですが、いろいろな場面での活動の制限は、概ね、撤廃していきたいと考えています。行事も、先にあげたように何が最適かを検討しつつ、再開していきます。短期?長期の留学もその中に含まれています。苦しい2年間に学んだことを礎に、実りある「新しい日常」を、皆さんと一緒につくっていきたいと思います。どうか、勉学に取り組む一方、サークルやボランティア活動、また博物館や美術館に行ったり、映画をみたりといった活動に時間を割き、ぞんぶんに大学生活を謳歌してほしいと思います。こんな普通のことを「ぜひ」というのもおかしなことですが、長い間、その「普通」が失われていたことを思うと、日常の再開に期待が膨らみます。
一方、そのような前向きな気持ちで春をむかえようとしていた私たちに、悲しい現実をつきつける事態が、いま、ウクライナでおきています。世界史を勉強した皆さんなら、スキタイやハザールが活躍した黒海北岸の平原に、キエフ公国が生まれ、そして、キプチャク?ハン国、ポーランド王国、クリミア=ハン国、ロシア帝国、オーストリア=ハンガリー帝国などが展開し、20世紀には、2度の大戦でこの地域が甚大な被害を被ったこと、ソビエト連邦のもとで、1共和国として存続し、ソ連の解体とともに、独立したという、ウクライナの歴史をご存じでしょう。このように、民族の往来のなかで長い歴史を歩んできたウクライナの人々は、いま、自国の防衛を理由にしたロシアの暴挙に直面し、筆舌に尽くしがたい破壊と人命の損失を被っています。一つの国のなかに、民族的、宗教的な多様性を内包していたウクライナへの攻撃は、国家のエゴがどれだけ市民を苦しめるかを、如実に示しています。
世界の言語?文化?社会を教育研究する東京外国語大学として、この問題をどうとらえるか、少しだけお話させていただきたいと思います。
本学には、専攻言語?地域としてのウクライナ語やウクライナ地域はありませんが、選択科目として、長くウクライナ語の授業が行われています。ロシア地域やポーランド地域の先生方のご尽力で、リヴィウの国立大学と協定が結ばれ、学生交流も盛んに行われてきました。ロシアを学んだ学生の中には、研究対象をウクライナに定めた方も多かったと思います。また、ウクライナは日本研究が盛んなところです。本学は日本語教育への支援のために、本学の海外オフィスをリヴィウ国立大学においています。
そういう中での、今回の戦争です。まず、声を上げたのは、本学でロシアを対象に教育?研究を行い、ロシアを深く理解し、ロシア文化を心から愛するロシア語専攻の先生方でした。指導層による暴挙に対する強い怒りと、戦争に反対するロシアの人々への支援の気持ちを、明確に表明されています。また国際政治や歴史学の立場からも、現在のこの問題を論評、解説する試みが行われています。一方、この戦争を、あたかも21世紀最初の戦争であるかのように驚き、評する風潮に反対し、アジアやアフリカでの多くの戦争や大国の介入による混乱に改めて注意を向けるよう促す試みもされています。大国の暴力による悲劇はウクライナが最初の例ではないからです。
こうした多様な見方を、日本社会に発信していくことも、本学の務めです。世界の問題に、単純な一つの答えはありません。ですから、見方の違いや見解の違いもあります。議論もあり、異なる意見から学ぶことも多くあります。そして、それが、世界を理解するための、「あるべき姿」だろうと思います。
以上のことが意味するところは、私たちの大学の中には、世界がある、ということです。ウクライナの人々や、戦争を恥じ、反対するロシアの人々のことを、わが事として考える人たち、またこの戦争に揺れる世界全体のことを、それぞれの立場にたって考え、行動する教員や学生たちがいる。それが織りなす全体が、本学の姿です。今日、皆さんが一員となる東京外国語大学の特性はそこにあります。小さな大学ではありますが、世界の人々とともにある大学だ、ということを忘れないでいただければと思います。
皆さんには、どうか、本学での学びを通じ、正しい知識と判断力を身に着け、そして、世界に対する深い共感をもち、行動できる人になっていただきたいと思います。本学の特性は、自然と皆さんの中に浸透していくものです。今の世界は、皆さんを必要としています。その気概をもって、どうか、頑張っていただきたいと思います。
Last but certainly not least, I would like to heartily welcome our international students of Graduate School of Global Studies and School of Japan Studies. Congratulations!
I know you must have been worried as to when you would be able to come to Tokyo because of Japan’s strict border controls. Thankfully, the Japanese government has changed its policy and is now prioritizing international students, as we had been requesting repeatedly for quite some time. I know that there are some of you who are still preparing to travel to Japan. I sincerely hope that we will see all of you here in person very soon and that you can start studying on our real campus with your teachers and friends. This will surely be a rich learning experience that cannot be replaced by online classes.
Congratulations again!
改めまして。本日は本当におめでとうございます。
2022年4月5日
東京外国語大学長 林佳世子