ご入学おめでとうございます!(2025年度入学式)
2025.04.05
2025年4月5日(土)、2025年度入学式が行われました。
言語文化学部353名(編入学11名含む)、国際社会学部356名(編入学5名含む)、国際日本学部88名(編入学1名含む)、大学院総合国際学研究科博士前期課程120名、博士後期課程31名、計948名の新入生が入学を許可されました。













学長式辞(学部)
(スピーチは英語で行われました。和訳準備中)
学長式辞(大学院)
東京外国語大学へようこそ。
入学式では、とかく理想や理念が語られがちですが、ここでは、あえて現実を直視したメッセージを皆さんに贈ります。
皆さんは、どのような目的をもって入学されたのでしょうか。特に博士課程、博士後期課程に入学する皆さんは、大学教員?研究者を志望している人が多いのではないでしょうか。私は、その希望が叶うことを切に願っています。
しかし、修士課程、博士前期課程に入学した皆さんはもちろん、博士後期課程に入学した皆さんも、将来の進路を一本に絞り込むのは、まだ早いと考えてください。と言いますのも、現状でも、東京外国語大学の大学院を修了した者のうち、大学教員などの安定した研究?教育職に就いている者は、少数にとどまっているからです。今後、少子化の進展、若年人口の大幅な減少を受け、大学の数や定員が減っていけば、大学教員の職は、今よりもさらに「狭き門」になるでしょう。
じつは現在も、修士課程の修了生は、多くが、企業など研究?教育機関以外の組織に就職しています。日本では、そのような組織は、採用にあたって修士号を条件と課していない場合が多いでしょう。しかし、国際的で専門性の高い職業では、修士号を求められる場合があります。
今、東京外国語大学のホームページには、パレスチナで人道支援にあたるNGOで働く卒業生のインタビュー記事が掲載されています。その卒業生は、現在、働きながらオンラインでロンドン大学東洋?アフリカ研究学院の修士課程プログラムを受講しているそうです。なぜならば、人道支援の分野で働くには、修士号が「免許みたいなもの」と見なされているからです。
博士課程の修了者で、企業など研究?教育機関以外の組織に就職する者は、まだまだ少数にとどまっているのが現状です。しかし、今後は、東京外国語大学としても、日本社会全体でも、博士号を取得して研究?教育以外の分野に職を得る者を増やしていくことが望ましい、と私は考えています。人口が減少していくなか、今よりも少ない人数で、持続可能な社会への転換など、これまでにない困難な課題に取り組んでいくには、これまでになく一人ひとりの知恵や創造力、そして社会への貢献が重要になってきます。そのため、今後の日本社会では、より長く教育を受け、より長く知的な鍛錬を積んできた人々が必要になってくるはずです。
海外に目を転じれば、博士号を持った人がさまざまな分野で活躍しています。人口100万人あたりで比較すると、博士号取得者は、日本では120人にすぎませんが、ドイツ、イギリス、韓国では300人を超えています。アメリカでも、300人に近づいています。それらの国々では、日本と比べて、人口あたりの大学教員数が格段に多いわけではありません。博士号を取得しながらも、大学などの研究?教育機関ではなく、多様な組織で活躍している者が多いのです。
ですから、皆さんも、大学教員を第一の希望に据えているとしても、それ以外の選択肢を常に考慮に入れておいてください。言い換えますと、大学院での研究活動が、研究以外の場面でどのように活かされうるのか、常に考えていてください。
研究活動をとおして身につく技能は、研究?教育以外の職種でも、十分に活かせるはずです。自分で問いを設定し、その問いに対する答えを探究する。そのために必要な資料を考え、探し、入手した資料を分析する。その資料は、文献にとどまらず、インタビューやアンケートによって得られるデータの場合もあるでしょう。一連の過程をひとつひとつの工程に分ければ、皆さんは、課題発見、企画構想、資料収集、資料分析、論理的思考といった作業をとおして研究をすすめていきます。それぞれ、研究以外でも、社会のなかで活きる場面があるのではないでしょうか。
これまで日本社会では、特に人文社会系の大学院に進学する者は、当然、研究?教育職をめざすと考える風潮がありました。今後、その考え方は変わっていくでしょう。その転換期にいる皆さんは、先駆者です。先人のたどった道とは違った道を、自分で切り開いていかなければならないからです。
東京外国語大学は、可能なかぎり、皆さんが多様なキャリア?パスを切り開いていけるように支援していきます。今年度より、新たに「トランスファラブルスキル実習」という授業が、博士後期課程に開設されます。しかし、正直に申し上げれば、大学も手探りの状態です。まだ至らない面も多々あるでしょう。皆さんのほうから何か要望がある場合は、是非、教職員と私にお伝えください。より長く教育を受け、より長く知的な鍛錬を積んできた人々が、多様な分野で活躍し、多様なかたちで社会に貢献する。そのような社会を一緒につくっていきましょう。
これから皆さんが歩む道のりは、けっして平坦ではないでしょう。ですから、この場に「おめでとう」という言葉は、あまりふさわしくないのかもしれません。
東京外国語大学へようこそ。ここから皆さんの旅路が始まります。しばらくの間、私たちは伴走します。
この言葉をもって式辞を締めくくります。
2025年4月5日
東京外国語大学長
春名 展生