2015年1月6日から15日にかけて、本プロジェクトの一環として実施された、スタディツアー「インド?イマージョン?プログラム」について、報告いたします。
本スタディツアーは、貧困、社会の多様性と共存といったテーマにかんする集中講義と、ムンバイ市内、とくにアジア最大のスラムといわれるダラヴィ地区(Dharavi)でのフィールドワークから、構成されており、本学学生9名が参加しました。
集中講義は、ムンバイ大学との提携関係にあるソーシャルワーク?カレッジ(College of Social Work, Nirmala Niketan)の教員の皆様にご提供いただきました。また、フィールドワークでは同カレッジにくわえて、ダラヴィ地区住民自治組織である PROUD: People's Responsible Organisation of United Dharavi にも、全面的にご協力いただきました。
【集中講義】
ソーシャルワーク?カレッジ(Nirmala Niketan)では、インド社会の文化的多様性(言語、宗教、気候、食文化、芸術、等)や経済的多様性、他面における宗教対立や土地開発をめぐる対立、さらにはカシミール紛争といった諸テーマについて、学生たちは講義を受けました。
また講義においては、インド社会がもつ多様性と一体性への確信に裏づけられた、さまざまな社会活動が紹介されました。そのような確信のもとで、宗教的理由での差別や貧困問題などの現実的課題にたいする取り組みが進められていることに、学生たちは感銘を受けました。
とりわけ強い印象を学生に与えたのは、ソーシャルワーク?カレッジによる Salokha と呼ばれる活動の報告です。Salokha は、さまざまな宗教コミュニティ間の緊張を解決することを目的とし、 異なるコミュニティの人々どうしの会合、宗教対立の解消を訴える地区内でのデモンストレーション、路上の遊びをつうじた子供たちへの啓発、等々の活動を展開してきました。
さらには講義にくわえて、同カレッジの学生と交流する場も設定され、学生たちは活発に意見交換をすることができました。
【ダラヴィ地区フィールドワーク】
ダラヴィ地区はアジア有数の巨大スラム地域と言われていますが、またリサイクル産業や部品生産など、ムンバイにおける工業の中心地のひとつを構成しています。住民団体や労働組合も組織され、よく抱かれがちな「外部者からの救済を必要とする貧困地区」といったイメージとは異なる、活気に満ちた地域社会が形成されています。今回は、住民自治組織 PROUD のご案内で、学生たちはダラヴィ地区のなかに入ることができました。
PROUD からは、地区内のさまざまな経済活動、地区内外にまたがる住民の生活圏、住民と外部との関係などについて、折にふれて説明を受けました。また地区内の諸課題として、コミュニティ間の摩擦、低賃金、生活環境や衛生の問題などについてもご解説をいただきました。
ダラヴィの地域社会の多様な相貌を目にすることで、社会的多様性や異文化理解について、一面的でない複合的な捉えかたが必要であることを、学生たちは実感したといえます。
【諸施設?諸団体への訪問】
インドの社会的多様性の維持と社会問題の解決に取り組む、ムンバイ市内のいくつかの施設や団体を見学することもできました。今回、訪問させていただいたのは、以下の施設?団体です。
低所得者にも門戸を開き、ソーシャルワーカーによる医療相談やカウンセリングを運営している公立医療施設の、ムンバイ都立KEM病院(King Edward Memorial Hospital)。
ダラヴィ地区の女性の経済的?社会的な地位向上のため、工芸品の作成と販売を支援するNGO団体「Creative handicrafts」。
性差別の解消に向けて活動しているNGO団体「Akshara」。
地域社会における宗教的対立の克服に取り組むNGO団体「Khoj」、および地域団体「モハラ委員会」。
【学生のレポート課題】
参加した学生たちは、ツアー終了後に、インドにおける貧困問題や文化的?宗教的問題の解決方法を提案するレポートを課されています。
ツアーで得た知見を、どのようにレポートに反映するか、学生たちは四苦八苦しながら課題に取り組みました。 学生たちが見たダラヴィは、外部から支援の手を差し伸べられるだけの客体では決してなく、多様な生活基盤や文化的背景をもつ人々が、ときには互いに衝突しながらも共同で構成する、ダイナミックで能動的な地域社会であったからです。
報告の結びにかえて、本スタディツアーに協力していただいたすべての団体に、厚く御礼を申し上げます。