多文化教育研究プロジェクト 連続セミナー「多文化共生としての舞台芸術」第3回「『演劇』を考える」
日時
2021年6月7日(月)17:50~19:20
場所
Zoomウェビナーでのオンライン開催
講師
江原早哉香
「東京演劇集団風」演出家。日本大学芸術学部演劇学科を2007年に卒業後、東京演劇集団風に入団。演出と同時に、海外アーティストとの協働や全国公演のプロデュースも行う。ルーマニア出身フランス在住の劇作家マテイ?ヴィスニユック作品を多く演出している。演出作『なぜ ヘカベ』『母が口にした「進歩」』『記憶の通り路』ほか
内容
常々、私たちが「舞台芸術」を見る?触れる?創るためには、たくさんの壁?困難がつきまとっています。現在の「演劇」には、多様な文化?経験を否定してしまう危険性、つまり「多文化共生」の全く正反対へと進んでしまう可能性も秘めているのです。
これから「演劇づくり」に向かう皆さんと、まず、「演劇」が持つ社会的課題を明らかにし、その困難を認識することから始めたいと思います。そして、その困難に抗うため、さまざまな時代、さまざまな環境で試みられているいくつかの実践を取り上げます。
一瞬であっても、互いのことを認め合い、共に生きる「演劇」が本当に可能なのか―皆さんと一緒に考えてみたい、そう思っています。
備考
- 一般公開
- 参加費無料
- 事前申込制
参加ご希望の方は、6月6日(日)17:00(日本時間)までにこちらのフォームよりお申し込みください。
主催
東京外国語大学 総合文化研究所
共催
東京外国語大学 語劇支援室
予告 多文化教育プロジェクト 連続セミナー
- 第4回「字幕の考え方」馬場紀雄(オペラ演出)
- 第5回「ミュージカル」高橋知伽江(脚本家、翻訳家)
- 第6回「舞踊」永田宜子(新国立劇場 前研修主管参事(元舞踊チーフプロデューサー))
- 第7回「日本の古典演劇」
- 第8回「日本の現代演劇」内野儀(学習院女子大学教授、アメリカ演劇?日本現代演劇)
360足球直播_ope体育官网-滚球*平台先
沼野恭子 nukyoko[at]tufs.ac.jp ([at]を@にかえて送信してください)
講演報告
第3回では、東京演劇集団「風」の演出家の江原早哉香氏が、東中野にある劇団事務所から「風」の活動について話された。第1回、第2回では、演劇は多文化共生にとってプラスの存在であるという内容であったが、江原氏は演劇、特に演劇鑑賞は社会的差異の正当化に繋がる可能性があると冒頭に述べた。演劇鑑賞の機会は各々の経済的条件や地理的な条件などに左右されるためである。
しかし、演劇の作り手たちがこの状況を良しとしているわけではない。東京演劇集団「風」は、演劇鑑賞の機会をより多くの人にもたらすために小?中?高校生向けに全国で巡回公演を行うほか、今まで演劇鑑賞が難しかった視覚?聴覚障害者でも同じように楽しめるように字幕表示や舞台手話通訳を導入したバリアフリー演劇の上演にも力を入れている。
また、「多文化共生」というテーマに即して「風」が主催する国際演劇祭の紹介がなされた。「風」は多くの東欧の劇団と交流を持っている。東欧である理由は、彼らが社会状況を中心とした困難のなか演劇を作っていたため、真に必要とされる演劇を志す「風」と響き合うものがあったためだ。演劇祭の立ち上げメンバーである劇団員もセミナーに登場したが、通訳を通しているにもかかわらずお互いに意思疎通が取れないことが多々あったことから、「相手が何を意図しているのか、発している言葉が何を指しているのか考えることが重要と思うようになった」という言葉が印象に残った。
最後に江原氏はこれから外語祭に向けて演劇作りをする学生にむけて、J.E.ハリスン著『古代芸術と祭式』とカフカを引き合いに出して、芸術の根源とは、集団的な希求、願望や感情を吐露しようという意欲であり、人間の結びつきを断つものではないというメッセージを伝えた。