2018年度 活動日誌
3月 活動日誌
2019年03月31日
GJOコーディネーター 田口 和美
三月のロンドンレポートは3件のトピックをお届けします。
一件目は、レクチャーシアターで行われた、お琴のコンサートです。デイヴィッド?ヒューズ教授企画のこのイベントは、日本から箏曲者でいらっしゃる二代目米川敏子先生(プログラムに書いてあるヒューズ教授の説明を引用しますと、「箏と三味線の大家の家柄で、母は人間国宝の米川敏子初代」)をご招待して行われました。
プログラムは米川先生の独奏、米川先生のお弟子さんで、三味線奏者の亀川まりさんとの演奏、尺八のクライブ?ベルさんとの演奏、先生の演奏と唄、最後にお琴とヴィオラのウェンハン?ジャングさん共演がありました。ヴィオラとの共演で、米川先生はお琴を古典の演奏とは全く違う弾き方で新しい音を作られていました。このイベントで、琴という楽器の古典音楽維持とコンテンポラリーの中での革新性の両面性を発見できた素晴らしいパフォーマンスでした。


次のレポートは英国日本大使館から認定された日本文化シーズン2019の一つとして行われた、裏祭りについてです。企画?主催は、現地で主に日本人からなるパフォーマンスグループのフランク?チキンズのメンバーの数人が作った裏祭りコミッティーです。
客層は多種多様でいろんな世代の人たちがいました。このイベントは、ローカルの人たちを対象に、日本の大衆文化、ポップカルチャー、民族音楽、東アジアの中の日本、日本文化に影響を受けたイギリス文化、ローカル化した日本文化などをテーマに、出し物を選んであります。
今年で3回目の裏祭りは、300人くらいが定員のヴェニュー、ベスナルグリーン?ワーキングマンズ?クラブで行われました。大勢詰めかけた観客の熱気むんむんの中で裏祭りが始まりました。司会は、過激なお婆さんに扮装した、折り紙アーティストでフランクチキンズのメンバーの倉田としこさんです。
望月あかりさんの演歌パフォーマンスから始まり、一川響さんと数人のお弟子さんの津軽三味線の演奏、舞踏ダンサーのマイさんと即興音楽のミックスパフォーマンス、ひなさん制作のショートフィルムの上映、力強い中国の音楽を披露してくれるのは、ベイベイ?ワングさんと生徒によるパーカッションパフォーマンス、そして最後は、1980年初期からロンドンを拠点に音楽とパフォーマンス活動を続ける、フランク?チキンズで幕を閉じました。
質が高くエンターテインメント性に富んだ文化体験を提供してくれる裏祭りを、地元の人たちも満喫しているようで、イベント中、大喜びでした。
来年はもっと大きい企画があるようで、楽しみです。





写真提供 (photos courtesy of David X Green; davidxgreen.com)
第三件目は、春ですので、ロンドンの花見についてお送りします。
イギリスでも桜の木はどこにでも植えられていますし、チェルシーフラワーショーで素晴らしい園芸と庭園技術に対する情熱を見せてくれるイギリス文化ですが、不思議と花見をする習慣は見かけません。
そこで、知り合いの日本人女性が集まり、王立公園のリージェントパークで桜の花見をしました。リタイア―した元実業家、大学に勤める音楽部教授、即興音楽家、美容?ファッション関係コーディネーター、劇場関係コーディネーターとキャリアウーマンが勢ぞろいして、全部手作りの見事な日本食のお弁当をもちより、桜の下で優雅な春のひと時を過ごす事が出来ました。自然と触れ合い、その中で手作りのお弁当を食べ、興味のあることを語り合うという時間を持つ事が、如何に人間的でほっとすることかという事を強く感じました。お花見は、やはり素晴らしい伝統的習慣です。


最後にイギリス的な桜のプレゼンテーションでレポートを終わります。写真はSOASの近所にあるショッピングセンターで見かけた桜の花びらで作ったインド象です。インド文化紹介のイベントが週末に行われるらしく、そのプロモーションのために作られた桜の象さんで、そばにあるプレートには「私に名前を付けてね!」と書いてあります。

2月 活動日誌
2019年02月28日
GJOコーディネーター 田口 和美
二月のロンドンレポートは3件のイベントをご紹介します。イギリスのEU離脱問題が渦巻く中、ホンダ自動車が発表したイギリスからの工場撤退のニュースに大ショックを受けたイギリス国民ですが、イギリスでの日本文化紹介は止まることなしに続いています。
一件目は、ブルネイギャラリーで行われた世界音楽の催しです。イベントの目的は音楽部の楽器購入のための資金集めのチャリティーコンサートでした。会場全席満員の中、7つの出し物が全部違った地域の音楽を披露しました。2時間という決まった枠内ですべての音楽を披露し、大変密度の高いイベントでした。
中央アジアとアイルランドの音楽のフュージョンを披露してくれるフォーク調のグループがまず最初で、その次は印度の弦楽器とタブラーの演奏、続いて東南アジアの弦楽器と歌、中近東とアフリカのジャズフュージョン、日本民謡(沖縄民謡も含む)、シルクロードの音楽と歌と踊り、アフリカのコーラの演奏と、2時間ぎっしり詰まった質の高い世界音楽を聴くことができました。SOASならではの国際色豊かなイベントでした。






二件目は昨年もお届けした、津軽三味線演奏者の一川響さんの生徒さんたちによるコンサートに行ってきました。毎年、日本人の居住地区の一つである北区の教会で開かれているこのイベント、今回で5回目だそうです。
今年もベルリンからベテランの生徒さんたちも大勢駆け付けてくださいました。そして、今年はスコットランド地方のグラスゴーからプロの民謡歌手と踊り手のよしえ?キャンベルさんが特別出演してくださいました。
プロの演歌歌手の望月あかりさんの歯切れのよい司会で、順調にイベントは進行し、最後は生徒さん全員と一川響さんの演奏に加え、よしえ?キャンベルさんが歌を披露して、イベントの幕を閉じました。ロンドンでパワフルな津軽三味線の音色と民謡の歌を聴けて、幸せな夜でした。


三件目は、SOAS仏教学センターと宗教?哲学学部主催のイベントに関してです。日本宗教学センター、仏教学センター主任のルチア?ドルチェ教授企画のこのイベントは、日本から浄土真宗本願寺派青龍山称賛寺17代目住職、たつみあきのぶ氏を迎え、新しいスタイルの布教活動の在り方を体験するといった試みでした。
最初に、現代音楽と仏教の教えを融合させ現代人に広めようと、ご住職がプロデュースされたお経とヒップホップやダンス音楽をミックスさせた新しい仏教音楽を披露して下さいました。その後、ご住職が、熊本県菊池市にある女性だけの修験道者だけからなるお寺で行われた護摩供養に参加された時の様子と、参加に先立っての準備としてのお浄めの業を写真を交えてお話しくださいました。
その後、ミュージシャン?ライター?フィルムメーカーで観世音という映画を製作した一人で、四国巡礼の体験もあるニック?カントウェル氏が、宗教的な観点から、音が視覚と精神にどのように影響するかというトークをされました。
その後は、ルチア?ドルチェ教授、音楽部からはデイヴィッド?ヒューズ教授、たくみご住職、ニック?カントウェル氏による質疑応答で終了しました。新しい宗教のありかたのひとつとして、これからの参考になる画期的なイベントでした。


1月 活動日誌
2019年01月31日
GJOコーディネーター 田口 和美
新年あけましておめでとうございます。
2019年、年始めロンドンレポートは、「Industry – Academia Partnership: Collaborations between UK Universities and Japanese enterprises」(産業―学術研究機関の提携:英国の大学と日系企業の共同事業)というタイトルで行われた大和基金でのトークを取材しました。
スピーカーは堂島酒醸造所社長の橋本清美さんとケンブリッジ大学経団連日本学博士の Mikael Adolphson博士でした。
まず最初に、橋本清美さんが堂島酒醸造所をご紹介くださいました。昨年2018にケンブリッジ郊外のフォーダムアビーという小さな町に酒蔵を設け、イギリスでのビジネスの展開を始めた堂島酒醸造所は、大阪に基盤を持つ堂島麦酒醸造所を母体とする酒蔵で、ヨーロッパで日本企業が設立した初めての酒蔵です。
堂島酒醸造所では、主に2種のお酒を製造していて、「堂島」と「懸橋(ケンブリッジ)」という銘柄です。どちらも一本1000ポンド(約15万円)という高級酒です。
清水さんは、Sake市場の活性化のためには、良質商品志向の世界中のワインファンに、純粋なSakeの味を知ってもらう必要がありますと説明されたうえで、その生産にかかる原料、環境、技術などを考慮したうえで割り出されたのが現在の価格だそうです。
将来、堂島酒醸造所では、地元やヨーロッパの人たちがSakeを体験できる施設として、日本酒の歴史や製造工程などのレクチャーを開催したり、カフェやレストランを併設するといった案もあるそうです。英国で日本酒の地酒が誕生しました。これからの展開が楽しみです。

堂島酒醸造所の発展に後ろから力を貸しているのが、ケンブリッジ大学です。
二番目のスピーカー、Mikael Adolphson博士のスピーチでは、現在ケンブリッジ大学の日本学が危機に面しているとのお話から始まりました。原因として、ファンディングが減少している現状で、人文、言語学部が援助削減の攻撃の的になり、国からの援助が受けにくくなっている反面、科学、技術、エンジニアと数学には力を入れています。結果として、大学が批判的思考や革新的思考が可能な信頼できる市民の育成のかわりに、職業訓練所となっている状態ですと説明されます。以下はアドルフソン博士による問題と対策の解説です。
企業が新卒に求めるものとしての統計の結果によると、批判的思考?分析的推論, 複雑な問題の分析し解決する能力、効果的口頭伝達力、文書による伝達能力、のこの4つが上位をしめていて、現実社会での能力?技術の応用力はその後の5位です。
日本学に関して考察してみますと、日本学の卒業資格は、その後のキャリアと直接つながっていません。その主な原因は、共同研究の欠如です。第一点として、日本に関係したケンブリッジの研究は、日本側と共同したり、日本国内との接点はありません。第二点として、日本企業がケンブリッジでの研究に携わることは、ある種の挑戦です。この二つの理由で、日本側からの研究と改革がケンブリッジ大学で行われていないという結果になります。
ケンブリッジ大学の日本語学科の学生は、高度の日本語を習得し、3年生になると、一年間日本で勉強します。統計的に見て、学生は学問の習得が早く、リーダーシップ意識を持つと同時に、幅広い知識の持ち主です。現状はというと、80%以上の学生が、卒業後は学位と関係ない仕事についています。日本語学科の学生が、日本関連の仕事に就けないのであれば、日本語を学ぶ必要はないわけで、結果的に日本学の学部が不要になってきます。何が日本関連の仕事に就けない原因の一つかといいますと、日本での就業経験の欠如が挙げられます。
そこで、解決策の一つとして、ケンブリッジ大学はインターンシップ制度を複数の企業とパートナーシップという形で結んでいます。その一つには、三菱商事が挙げられます。
ケンブリッジ大学の日本学学部は、地域研究から、複数の専門分野を研究する方向に移行しました。新しい知識をもつ新しい学者を育てる必要があるからです。その土壌を作るには、日本に関して深い理解を持つ熟練の学者が必要とされます。同時に、日本について建設的に理解できる中心軸が要求されます。しかし、現在のところ、企業あるいは政府はまったくこういった場所を設定する試みをしていません。
次世代の学者とイノベーターを訓練する必要があります。現在、英国では大卒の学生を訓練する経済的モデルがありません。若い学者を育てない限り、英国での日本学の将来は存在しません。グラヂュエットプログラムは外部からの援助が必要です。パートナーシップ関係を結ぶのはコストを考えると困難です。共通の目的、パートナーシップを確実にするもの、支援する価値のあるものなどを探る必要があります。
研究提携に関してですが、ヨーロッパとアメリカでは研究開発が大学機関で行われます。企業とアカデミアの協力が普通に行われます。しかし、日本では、研究開発は企業のなかで行われます。
究極的な解決案として、共同研究、スコラ―シップの援助、イノベーションそして研究活動を促進してくれる機関が必要になります。そこで提案しますのが、日本企業の独創性を導くためのグローバル研究を行える学術機関の設立です。この動きは、日本が環境、社会、そして世界規模での問題を提案し解決に導く素晴らしいチャンスだと思います。それを可能にするのが、ケンブリッジ大学日本学が支援するグローバルリサーチセンターです。


12月 活動日誌
2019年01月05日
GJOコーディネーター 田口 和美
12月のロンドンレポートはロンドンを起点に精力的な活動を行っているアーティスト、河合里佳さんについて、お届けします。
ロンドンの中心街から少し北にある、ロンドンっ子が食事をしたり、お買い物したりするファッショナブルな地域の目抜き通りから少し入ったところにあるギャラリーで、河合里佳さんがキューレーターをつとめ、ご自身の作品と他2人のアーティストの作品を展示なさっていました。
河合さんは武蔵野美術大学造形学部で学んだ後、1987年に渡英。セントマーチンズ?スクール?オブ?アートでアドバンスドライフドローイングを学び、1989-1991年の間はペンタグラムデザインで働く傍ら、芸術活動を継続し、数々の展覧会に作品を出展していらっしゃいます。
1995年に五島記念文化財団の五島記念文化賞美術新人賞を受賞され、2017年には美術新人賞研修帰国記念展覧会の開催のため、横浜?黄金町エリアマネジメントセンタにてアーティストインレジデンスプログラムで滞在制作をされていました。滞在制作で作られた最新作を、成果発表展「Weight of Light」として2018年1月から2月にかけて千代田3331内の nap galleryにて展示なさいました。今回の作品群のテーマに関して、河合さんは次のようにコメントなさっています。
「この展覧会では、地球での生命継続の危機に伴い、宇宙移住/瞑想を提案しています。子供の頃より、自然から感じる目に見えない不思議な存在感や規則性に興味を抱いておりました。近年の作品は、膨大な宇宙に充満する、不可視領域の世界の可視化をテーマにしています。それに伴い、透明な描画材?支持体に光を与えることで、光と影という両極の性質が共存し相互作用する、フォトスキアグラフィアを生み出しました。この言葉はギリシャ語由来の造語で、photo (光) 、skia (影)、grafia (絵)から来ています。透明の素材と鏡面で形状を造り、それに投射することにより形成される光と影の相互作用より、新たな視覚作用から瞑想状態が促されるのではないかという実験的な作業を試みています。」
今回のグループ展では2点だけの出展でしたが、次回はもっと大きな空間で、河合さんの他の作品を思う存分楽しめることを期待しています。

同心円は、ボーテの法則に則る太陽系の惑星の位置を示しています。

素材が劇薬のため、防毒マスクが必須です。


11月 活動日誌
2018年11月30日
GJOコーディネーター 田口 和美
11月のロンドンレポートは、まず東京外国語大学アジア?アフリカ言語文化研究所(AA研)からSOASに短期訪問中の品川先生大輔先生が、SOAS孔子学院主宰のコンフェレンスで研究発表をなさるという事で、取材に出向いてきました。
コンフェレンスはSOAS新館のポール?ウェブリー館のアルムナイ?レクチャーシアターで行われ、品川先生の発表は午前2部の2番目でした。トークのタイトルは ‘Linguistic diversity and unity in Swahili contact varieties: a shared element not attested in “Swahili”’でした。スワヒリ語に関する研究発表は英語で行われ、スライドを交えた30弱の発表は非常に興味深いトークでした。トークの後の質問も、色んな角度からの質問があり、幅の広い分野からのオーディエンスが参加しているという印象を受けました。
僅か2週間の訪問期間にもかからわず、品川先生は、ミーティング、研究発表、ドイツからの訪問者とのジャーナルに載せる記事の調整など、目まぐるしく活動なさり、実りあるロンドン訪問だったようです。


11月のもう一件は、アジア?アフリカ研究コンソーシアム(CAAS)のメンバーで、東京外国語大学に2016年10月から2017年春まで滞在なさり、講義も担当なさっていたDr. Christopher GerteisのSOASオフィスにお邪魔し、色々とアドバイスを頂いてきました。
Dr. Christopher Gerteisは近代代日本史が専門で、東アジア史入門コースや現代史がステージ1と2に分けてあり、学生が望めば深く追求できる設定のようです。博士号論文に取り組む学生も数人担当なさっています。来年は、再び東京外国語大学を訪問なさる予定という事です。
Dr. Christopher GerteisからSOASのTUFSコオーディネーターへのロンドン報告記に関するアドバイスは、東京外国語大学で言語学を学ぶ学生は、他国の学生がどのような言語を学んでいるか興味があるはずですから、SOASにある色んな言語学のコースに関して紹介して欲しいとのことでした。とても良いアイデアだと思います。
来年のロンドンレポートで、出来るだけ多くの言語学コースを特集できるように努力しますのでご期待ください。
イギリスはこれから、どこもかしこもクリスマスフィーバー一色になります。日に日に寒くなる街中ですが、EU脱退問題はそっちのけで、人々もストリートライトも輝いています。

10月 活動日誌
2018年10月31日
GJOコーディネーター 田口 和美
10月のロンドンレポートは、“The Art of Gaman” (我慢芸)という、第二次世界大戦中のアメリカに暮らす日本人女性を題材にしたお芝居が、こじんまりとしたシアタースペース、Theatre 503で上演中でしたので、行ってきました。
フリーランスのプロデューサー?舞台監督のヘレン?ミルン製作企画のこのプロダクションは、イギリスのアーツカウンシル、大和日英基金そしてコミュニティーシアタートラストから支援を受けて上演されています。
シアター503は新鋭ライターを世に送り出すことに力を入れていて、ストーリーとして書かれたものが、実際の劇として生まれる発表の場となっています。新人の劇作家を見出し、次世代のリーダーとなるような人材を育てることに力を入れている劇場です。
印度で生まれ、イギリスとロシアで育った劇作家、Dipika Guhaさんは、エールドラマ学院(Yale School of Drama) で芸術マスター課程(Master of Fine Art)を学び、現在はプリンストン大学(Princeton University)のHodder Fellowの保持者です。 “The Art of Gaman” はアメリカン劇作家基金(the American Playwriting Foundation)が設けているリレントレス賞(Relentless Award)にノミネートされた最後の6名の一人です。Dipikaさんは才能豊かで、次々と文化的に影響力のあるお芝居を生み出しています。
ストーリーはtalented、日本人の両親を持つアメリカ生まれの若い日本女性、ともみ(古村朋子さんが見事に演じていました)が日本に教育を受けに帰っている間に戦争がはじまり、アメリカの両親のもとに帰ろうとしているときから始まります。
ともみの夢は女優になる