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歌舞伎義太夫演奏家?山下聡一郎さんインタビュー「外大出身、いち三味線弾きです。」

外大生インタビュー

来たる7月、ティアラこうとうと調布市グリーンホールにて上演される国立劇場歌舞伎鑑賞教室に、2018年入学国際社会学部西アジア?北アフリカ地域/アラビア語専攻の山下聡一郎さんが出演することが決定しました。歌舞伎義太夫三味線方のプロとしての一歩を踏み出した山下さんに、この道を志したわけ、これまでのエピソードや今後の抱負などを伺います。

取材?執筆:言語文化学部3年?堀詩(広報マネジメント?オフィス 学生広報スタッフ?学生ライター)


???なぜ日本の伝統芸能に興味を持ったのですか。また、その中でも歌舞伎の世界を選んだのはどのような理由からですか。

原体験はNHK?Eテレの「にほんごであそぼ」でした。日本語のリズムや小難しい言葉におかしみを見出していたのでしょうね。次第に「一流の舞台人がなんとかこどもに伝えるために一見ヘンなことをやってくれている」姿へのリスペクトが芽生えてきて。あとは有形無形問わず歴史や伝統に関心がありました。趣味ベストテンに入っていたかは怪しいですが、ずっと気になっていたのは間違いないです。

また、割と守備範囲が広いので古典に限らず芸術全般に触れてきました。ただ、歌舞伎に対しては主要な役を血筋の人が独占している閉鎖的なイメージや、そもそもセレブの趣味でしょ的な先入観があって、はじめはむしろ敬遠していましたね。実際は全くそんなことなかったのですが。

ちゃんと見るようになったきっかけは、大学2年生当時にどハマりしていた講談師の神田伯山先生が講談のマクラやラジオでよく歌舞伎の話をされていたことです。2021年の有志語劇でアラビア語講談をやりましたし、当初は講談師になりたかったんです。でも弟子入りできなくて、じゃあ寄席の世界はやめよう、となって。あくまで講談に活かすための勉強だった歌舞伎が今や仕事になっていると思うと面白いもんです。その歌舞伎の中でも義太夫演奏者を選んだ理由としては、義太夫節が好きだったのはもちろん、一般家庭出身者の多さ、風通しの良さ、実力次第で出世していける環境を魅力に感じたからですね。

???日本の伝統芸能に携わるというのはかなり大きな決断だと思いますが、その決断に踏み切れたのはなぜですか。

普通プロは目指さないですもんね(笑)。ただやっぱりプロにならないと見られない世界ってあるんですよ。どうしてもそれを見てみたかった。何よりこの世界には若いうちしか挑戦できないから、とりあえずやってみようって気持ちでした。やっていけるかどうか、とはあまり考えていなかったように思います。あと周りと違うことを仕事にしてみたかったのかもしれないです。内定先などを聞いても話したがらない先輩が多いのを見てあまり就職することに希望を持てなくて。それならたとえお金や休日がなくても、「いち三味線弾きです」って言える人生の方が潔くていいかもなって思ったんです。人生逆張り上等ですよ。

???東京外大でアラビア語専攻を選択したことにも山下さんの生き方が表れているような気がします。

かもしれませんね。新鮮味やマニアックさに引かれる性分だったので。アラビア語は国連公用語であり、日々ニュースに名の挙がる20以上の国と地域で話されているのに、第二外国語として学べる大学はまだまだ少ない。身につけたら人と差別化できるだろうし、何より特別な学びができること自体大きな喜びでした。結局アラビア語とは縁もゆかりもない仕事選びましたけどね。

???プロになるまでどのような道のりをたどってきたのですか。

2022年4月から国立劇場伝統芸能伝承者養成所に採用され、稽古を始めました。太夫(詞章を節に乗せて語るひと)と三味線方という二つの選択肢があり、講談という語り芸が好きだった延長で当初は太夫を志望していました。ただやってみると案外三味線の方がずっと練習していても苦じゃないなとか、ピンで何か披露するときに三味線の方が喜ばれそうだなとか、色々考えて三味線の方にしました。一生の仕事として考えたとき三味線の方が競技寿命が長いですから、お得だよねとも(笑)。大変なことも多かったですがとても充実した毎日でした。

今年の4月から芸名を名乗ることを許され、「豊澤一二三」の名で松竹株式会社と専属出演契約を締結し、日々歌舞伎座に勤めています。

???稽古を受けるなかで挫折したことはありますか。

挫折の毎日だったように思います。観客として数々の舞台を見てきたぶん自分はいくらか芸能の世界が分かっているかなと思っていたのですが、本当に世間知らずでした。養成所での人間国宝級の師匠方の稽古で根拠のない自信は早々に打ち砕かれました。全ての基本である正座ははじめたった15分もできませんでしたし、音感もなく、声の出し方もわからない。あと、芸事特有の「見て聞いてまねる習得法」になかなか対応できず苦労しました。経験も適性もない、あるのはやる気だけ。となれば謙虚に一つ一つ積み上げていくしかありません。「一二三」という芸名もそこからきています。子供の頃からずっとギターや三味線をやってきた方が多くいるなか、僕は楽器経験皆無という状態から始まっているわけですから、これからも、よほど気を引き締めて頑張らないといけないなと思っています。

???歌舞伎義太夫の魅力を山下さんの言葉で教えてください。

歌舞伎を歌舞伎たらしめる、とても重要な存在だと思っています。

簡易的な説明と承知いただきたいですが、小説の地の文のような「状況説明と心理描写」、俳優のセリフや所作に音をつける、芝居を背景音楽や掛け声で盛り立てるといった役目を持っています。俳優さんの一挙手一投足に神経を集中させ、最適の間で最適の音を奏でていく。こちらにミスは許されません。おまけに、他の歌舞伎音楽が主に集団で演奏する中、義太夫は太夫三味線一人ずつ。自分のたった一つのミスで芝居を壊しかねない、本当に責任が重い仕事ですが、それがやりがいにつながると思います。

僕が思う義太夫が入る演目の面白さとしては、怒りや悲しみといった感情が爆発する場面のカタルシスですね。俳優さんの熱演を義太夫節が大いに盛り上げて、劇場の興奮が最高潮に達します。あの感覚はぜひ一度生で味わってほしいですね。一周回って新しい!と感じていただけると思いますよ。

???今後のキャリアプランを教えてください。

プロの義太夫演奏家として成功するには、「この人に演奏してもらいたい」と俳優さんに思ってもらわなければなりません。師匠がたから貪欲に学んで俳優さんの期待にしっかりと応える演奏をし、信頼を積み上げていきたいですね。やるからには売れないとダメだと思うので、ちゃんと自分を律していきたいです。

???在校生や本学を目指す学生に向けてメッセージをお願いします。

偉そうなこと言える身分じゃないので恐縮ですが、一度きりの人生なので皆さんも自分自身を後悔させないような生き方を見つけてほしいです。得意分野とか経験値とかも重要ですけど、それを理由にやりたいことを諦めているとしたらもったいない気がします。好きという気持ちを大切に、素直な気持ちで一つ一つ頑張っていれば結果は後からついてくるものです。僕も音楽経験はありませんでしたが、なんとか喰らい付いていますよ!

Steve Jobs氏のConnecting the dotsのお話はきっと皆さんご存知かと思います。将来役に立つのかなとか、最短ルートで効率的に階段を上らなきゃとか、色々考えると思うんですけど、好奇心の赴くままいろんな経験をして、裾野の広い人間になってほしいですね。無二のあなたらしさや強みはそこから生まれると思います。手始めに、歌舞伎を観に行くなんてどうでしょう?(笑)

イベント情報

イベント名:令和6年7月歌舞伎鑑賞教室/社会人のための歌舞伎鑑賞教室/親子で楽しむ歌舞伎教室『義経千本桜』
会場名:ティアラこうとう大ホール(5日~12日)/調布市グリーンホール大ホール(18日~27日)
公演期間:2024年7月5日(金)~2024年7月27日(土)
開演時間:午前11時開演(午後1時終演予定)/午後2時30分開演(午後4時30分終演予定)

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