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グローバルな認識と成長:日本映像翻訳アカデミーによる字幕翻訳インターンシップ

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本学は、2023年度に採択された文部科学省「大学の世界展開力強化事業(米国等との大学間交流形成支援)」により、「太平洋を《架橋》するブリッジ?パーソン養成プログラム(TP-Bridge)」を実施しています。このプログラムは、アメリカ、フィリピン、韓国の計11大学と本学を結ぶ、オンライン、オンキャンパス、オンサイトの3部構成のプログラムからなる交流プログラムです。

オンサイト?プログラムの1つに、日本映像翻訳アカデミー株式会社(JVTA)による字幕翻訳インターンシップがあります。初回となる2024年度は、本学とTP-Bridge連携校をはじめとする国内外の大学生合計55名が、3月に複数回の事前研修に参加し、4月から7月まで、翻訳する作品の選定から、字幕の作成、上映イベントの企画?広報?運営を行いました。学生たちは、専門家によるアドバイスを受け字幕作成のノウハウを学びながら、グループにわかれてディスカッションを行うなど、共に試行錯誤し「持続可能な開発(SDGs)」をテーマとした長短3本のドキュメンタリー作品の字幕を完成させました。

第1回研修(ハイブリッド)の様子

学生たちが字幕を作成した作品は、6月27日から7月7日まで、オンライン上映するイベント「WATCH 2024」*1で無料公開されました。また7月4日には本学プロメテウス?ホールでの上映イベント*2も開催され、長編ドキュメンタリー作品「こころの通訳者たち What a Wonderful World」の上映が行われました。映画上映とあわせて、同作品の監督、山田礼於氏からのビデオメッセージが上映された他、日本手話通訳学会に所属する筑波技術大学障害者高等教育研究支援センターの萩原彩子先生を招いたトークイベントも行われるなど、充実したイベントとなりました。上映イベントの様子は、オンラインでも同時配信されました。

プロメテウス?ホールでの上映会
上映後のトークイベント(中央:萩原彩子先生)

*1 WATCH 2024 の詳細はこちら:https://www.tufs.ac.jp/event/2024/240627_0707_1.html
*2 本学での上映会?トークイベントの詳細はこちら:https://www.tufs.ac.jp/event/2024/240704_1.html

参加学生は、字幕作成とイベント運営の実践的な経験を積むことで、作品のテーマである「SDGs」について学び、それを伝える立場に立つことで、世界を取り巻く社会?環境問題について新たな視点と気づきを得ることができました。


    桜井徹二さん

<日本映像翻訳アカデミー(JVTA)桜井徹二さん(以下、桜井)インタビュー>

日本映像翻訳アカデミー(JVTA)の学校教育部門所属で、今回のインターンシップを担当した桜井徹二さんにお話を伺いました。JVTAでは、主に社会人向けの映像翻訳スクールを運営していますが、それとは別に海外を含めた大学~小学校からの要望を受けて、映像翻訳や語学、動画制作などに関する授業も行っています。櫻井さんは、今回のようなインターンシップやプロジェクトの企画のほか、そうした学校教育機関での一部の授業の指導やカリキュラム作成を担当しています。

——このインターンシッププログラムの 企画するうえで工夫した点?苦労した点は何ですか。「持続可能な開発(SDGs)」をテーマにしたドキュメンタリーを選んだのはなぜですか。

学生が必死で磨いている語学力を、学生の将来につながる経験、社会的な意義ある活動に結び付けることが本プログラムの狙いです。

映像作品に字幕を付けるには、セリフ(発言)の言語上の解釈だけにとどまりません。発言の真の意味、裏側にある心情、さらには制作者側の意図などが掬い取れていない、機械的に別言語に置き換えただけの訳にならないよう、作品や登場人物の背景まで深く理解する必要があります。そういう意味で、ドキュメンタリー作品を翻訳しようとすることは作品が描いている社会的な問題?課題を深く理解することに他なりません。

また、昨今ではビジネスの世界でもSDGsについての理解や関与が常に問われます。学生時代にSDGsに関する活動を行ったという経験は、学生の進路にも役立つはずです。

それらの点から、語学力を実社会と結び付けるという観点で本プログラムを企画し、SDGsをテーマにしたドキュメンタリー作品を翻訳することにしました。

苦労したという意味では、そうした点に適した作品を選ぶのが一番の苦労でした。映像のテーマや長さ、難易度が適切か、視点に偏りがなく学生が訳すのに適した内容か、一般の人に見てもらうという意味で親しみやすい作品か、また本プログラムの予算的な制限に見合ったものか…など考慮すべき点が多くあり、作品選定は最後まで苦労しました。ですが、最終的には素晴らしい作品を選定することが出来たのではないかと思います。

——インターンシップに参加する学生に期待することは何ですか?

チームワーク、リーダーシップ、責任感、自主性などについて学んでもらいたいと思います。たくさんの大学からバックグラウンドの異なる学生が参加しますし、学生が主体となって活動するというのがテーマでもあります。そのため、「指示待ち」「人任せ」になるのではなく、よりよい字幕を追及する中で、自主的に課題を見つけ出し、積極的にコミュニケーションを取りながら、他の学生と連携しながら完成を目指してほしいと思います。

──インターンシップの過程で学生が直面する主な課題?挑戦は何だと思いますか?

問3の回答とも重複しますが、大勢の学生との協働作業なので、学生同士のコミュニケーション、チームワークが大きな挑戦になると思います。中には活動に十分に時間を割けなかったり、モチベーションが維持できなかったりする学生もいるでしょう。そうした学生とも協働しながら全員で完成を目指すというのは簡単なことではありませんが、それだけに、達成できた時の喜びはひとしおではないでしょうか。

また、字幕翻訳自体も当然ながら大きなチャレンジになると思います。通常の英訳とは異なり、多くのルールを踏まえながら、誰もが一読で理解できる字幕(字幕は文章と違って読み直しができないため)、しかも長編の字幕を作り上げていくのはプロでも大変な作業です。それを学業の合間を縫って作り上げていくのは並大抵なことではないでしょう。映像翻訳やチームワークに楽しみを見出しながら取り組んでもらえればと思います。

──印象に残った学生はいましたか。または良い評価を受けたのはどの様な学生でしょうか?

語学力(英語または日本語)の面では他の学生を若干下回っていたとしても、リーダーシップや積極性を発揮して臨んでいた学生は強く印象に残りました。今回のプログラムでは、個々が字幕をうまく作れているかどうかはまったく問わない、とまでは言いませんが、それよりももっと大事なのは、このプログラムを通じて語学力にプラスアルファできる力、実社会でも生かせるスキルや姿勢を身に着けることでした。

──次のインターンシップで改善したいこと、もっと広げたいアイデアはありますか?

今回のプログラムはオンラインでの活動が中心でした。オンラインだからこそ海外の学生や遠方の学生もプログラムに参加できる良さがあるのですが、リアル(対面)で集える機会をより多く創出できれば、チームワークやモチベーション維持の面でもメリットがあると感じます。

全体の活動期間は3カ月半ほどでした。長いと言えば長いですが、翻訳に加えて、トークイベントの企画や上映作品を見てもらうためのPR活動も行ったため、翻訳をしながら企画やPR活動もという形になったのでもう少しじっくり取り組めるとなおよかったと感じました。

──インターンシップに興味のある学生や、その他東京外国語大学の関係者に伝えたいことがあれば、教えてください。

このインターンシップは、日本中を探しても、またおそらく世界を探してもほとんど類のないインターンシップではないかと思います。映像翻訳に興味のある学生、SDGsに関心のある学生、語学力を活かした活動に参加したい学生、映像作品が好きな学生、学生のうちにいろいろな経験を積みたい学生には、きっと得るものが多くあるはずです。少しずつ形を変えながら同様のプログラムは続けていきたいと思っていますので、ぜひ興味のある学生はご参加ください。

また、東京外大の皆様には、準備段階からシアターでのイベントまで、いろいろなご助力や無理難題へのご協力をいただき、深く感謝しています。この場をお借りして改めて深く御礼申し上げます。ありがとうございました。


<参加学生に対するインタビュー>

今回、インターンシップに参加した学生2名に、インターンシップの目的や内容、成果について、伺いました。

インタビュイー:

  • 平戸ゆりさん(国際社会学部東南アジア地域/タイ語4年)(以下、「平戸」)
  • Lin Than Sin さん(国際日本学部3年、ビルマ出身)

左:平戸ゆりさん、右:Lin Than Sinさん

──このインターンシップに応募した動機は何ですか?

平戸: 就職活動が終わり、部活もすでに引退していたので、何か新しいことを始めたいと思っていた時に大学のHPでこのインターンシップの募集を見つけたのがきっかけです。SDGsについて知るきっかけとして映像で伝えるというのは、目標に向けて行動に移すための重要な一歩になると思ったのと、今までチームで何か一つのものを創り上げる際に、その中心に立って培った責任感やリーダーシップ、共感力をイベントの企画等においても活かしたいと考えたことから応募を決めました。

Lin Than Sin: I was interested in translation and the opportunity to collaborate with Japanese students while building teamwork skills.(和訳:翻訳や、チームワークを築きながら日本人学生と協力する機会に関心があったからです。)

──インターンシップの過程で最も印象に残った経験は何ですか?

平戸: 翻訳した作品を上映し、劇中のドキュメンタリーを監修した方と対談をするトークイベントを学内で開催したことです。自分たちの作り上げた翻訳が大きなスクリーンに上映されるのを観て、改めて翻訳作成を頑張ってよかったと思いました。また、私は最初トークイベントの企画メンバーではなかったのですが、声をかけていただいてインターン生の登壇者としてゲストの萩原彩子様ともお話しすることができ、手話通訳の裏側や現在の問題点まで知ることができたのが大変貴重な経験になったと思っています。

Lin Than Sin: I think the process of translation is the most memorable because it was challenging but also fun. (和訳:翻訳の過程が一番印象に残っていると思います。チャレンジングでありながら楽しかったからです。)

──インターンシップの過程で最も苦労したことは何ですか?

平戸: メンバーにやってほしいことをどのように伝えれば、「やりたい?やらなければならない」と思ってもらえるかを考えることです。私は翻訳チームのリーダーとしても、メンバーとのメッセージのやり取りを英語で行っていました。過去にチームの中心に立ったことがあり、その時も「必要な事項をメンバーのモチベーションを保ちながら伝えるにはどうすれば良いか」に最も重きを置いていました。しかし、英語で伝えるとなると細かなニュアンスかつ「やりたい?やらなければならない」と思わせる言い方がなかなか思いつかず、いつも時間がかかっていました。

Lin Than Sin: For me it was being a team leader because it required a great deal of communication skills and double the workload. (和訳:私にとってチームリーダーになったことです。とても多くのコミュニケーション能力と2倍の仕事量が必要とされたためです。)

──インターンシップを通して得たスキルや知識は何ですか。またこの経験が今後の進路選択にどのような影響を与えると思いますか?

平戸: 翻訳、特に映像の字幕を作成する際には、文字通りに訳すというよりも、限られた文字数の中で何を伝えるべきなのかを考えることが重要であるということです。個人的には「このニュアンスを伝えたい」などと考えていても、字幕にするには限られた部分のみ訳す方がわかりやすいということもあります。私は現在、東京外語会(同窓会)が運営する多言語のマッチングサービスのサポーターとして登録しており、通訳?翻訳の仕事を頂くことがあります。いつも「どう伝えれば過不足なくわかりやすく伝わるか」という試行錯誤を続けていますが、このインターンシップでの経験も活かしながら機会があれば今後も通訳?翻訳の仕事に携わるきっかけにはなったのかなと感じます。

Lin Than Sin: I gained a lot of communication skills as well as leadership skills. I also gained a lot of knowledge regarding translation and subtitling. It was challenging to get used to the subtitling guidelines but it was a great experience to gain more knowledge on it.(和訳:リーダーシップだけでなく、コミュニケーション能力もたくさん身につきました。また、翻訳や字幕に関する知識もたくさん得ることができました。字幕制作のガイドラインに慣れるのは大変でしたが、より多くの知識を得ることができ、とても良い経験になりました。)

──「持続可能な開発(SDGs)」というテーマについて、新たな視点は得られましたか?

平戸: SDGsには「人や国の不平等をなくそう」という目標があります。この「不平等」をなくすためには、誰もが「平等な」経験をできるということが重要であるというご指摘をトークイベントの際にゲストの方から頂いたことが印象に残っています。「平等」とはよく言われることですが、その中でも演劇や情報など何でも、障がいのあるなしに関係なく「平等」に「経験」できるようにすることが重要であるということを覚えておきたいと思いました。

Lin Than Sin: I have never thought about accessibility for people with disabilities when SDGs is mentioned. My image of SDGs was more about the environment, so it did give me a new perspective of SDGs as a project related to social issues. The documentary that we translated was very moving and it opened my eyes on the various types of actions that could be taken under SDGs. (和訳:SDGsと聞いて、障がい者のアクセシビリティについて考えたことはありませんでした。私のSDGsのイメージは、どちらかというと環境に関するものだったので、社会問題に関わるプロジェクトとしてのSDGsという新しい視点を与えてくれました。私たちが翻訳したドキュメンタリーはとても感動的で、SDGsのもとで取りうるさまざまなアクションについて目を開かされました。)

──インターンシップに興味のある学生に伝えたいことがあれば、教えてください。

平戸: 様々なことに何のしがらみもなく取り組めるのは学生である今のうちだと思います。自分が少しでも気になることがあるなら、気軽に参加してみることをおすすめします!「数年後には就活が~」などと考えなくても、自分の興味が赴くままに行動してみれば、いずれ何物にも代えがたい経験を得られるはずです。

Lin Than Sin: I would recommend this internship for anyone who is interested in translation or subtitling. It will surely give you an opportunity to improve your skills and collaborate with students who will help you through the internship. The internship does not give you a lot of workload and burden so I think it’s perfect for students who are busy with school. (和訳:翻訳や字幕に興味がある人には、このインターンシップをお勧めします。自分のスキルを向上させ、インターンシップを通して助けてくれる学生と協力する機会を必ず与えてくれます。仕事量や負担が少ないので、学校で忙しい学生にはぴったりだと思います。)


TP-Bridgeプログラムでは、2025年度以降も、同様のインターンシップを実施予定です。その他にも、アメリカ、フィリピンの学生と本学学生が一緒に英語で授業を受けるオンキャンパスプログラム(春学期)、連携校と接続する「COIL型授業」などのオンラインプログラム、アメリカ、フィリピンの学生とともに行く「ソウルスタディツアー」等、連携校とのさまざまな交流プログラムを実施していきます。

秋学期から始まる「COIL型授業」については、まだまだこれから参加いただけます。詳しくは、近日中にご紹介する予定です。シラバスも是非チェックしてみてください。

詳細はウェブサイトや説明会等でご案内しますので、興味を持った方は是非ご参加ください!

TP-Bridgeプログラムウェブサイト:https://www.tufs.ac.jp/tp-bridge/
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