JETROと東京外大が目指す日本経済の発展と人材育成
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東京外国語大学は、2016年7月8日(金)に、独立行政法人日本貿易振興機構(JETRO)と包括連携協定を締結しました。連携協定の目的は、文化?産業?教育?学術などの分野で相互に連携し、学術研究面?人材教育面?産学連携面などでの国際的な展開を推進し、日本経済の発展と人材の育成に寄与すること。
文部科学省「スーパーグローバル大学構想」で、複数言語を駆使して世界の多様性への対応力を備えた多言語グローバル人材育成を行う東京外大と、55カ国74箇所の海外事務所と43箇所の国内事務所を有し、日本企業の海外への輸出および展開、外国企業の日本への投資誘致等を行っているJETROが連携して、具体的に以下の内容に取り組む予定です。
(1)日本企業の海外展開に対する言語面でのサポート強化
双方の海外拠点で連携し、日本企業の海外ビジネスをサポートします。例えば、これまでもJETROは海外でビジネスを行う日本企業のサポートを行ってきましたが、その中で日本企業が日本語対応可能な人材を必要としている場合があります。このニーズに対し、JETRO海外事務所と東京外大Global Japan Officeが、協力して対応することを予定します。具体的には海外の日本企業のニーズをJETRO海外事務所が汲み取り、東京外大Global Japan Officeにその情報を共有します。その結果、Global Japan Officeは東京外大で留学経験ある学生やGlobal Japan Officeにて日本語を習得した卒業生を、海外の日本企業に紹介することが可能となります。
(2)アフリカ地域に関する調査?研究の強化、企業への情報提供
日本企業の関心が高まっているアフリカ地域に対し、双方の研究者で連携し、日本企業のビジネスをサポートします。東京外大はアジア?アフリカ言語文化研究所を持ち、アフリカ地域に関する研究を行ってきましたが、2017年4月には「現代アフリカ地域研究センター」の新設を予定しており、アフリカ地域研究を更に強化していきます。一方JETROはアジア経済研究所および海外調査部により、アフリカ地域のビジネス情報を日本企業に提供しています。今後双方が連携することで、アフリカ地域の調査研究を更に広範で重層的なものにしていき、日本企業への情報発信を強化していきます。具体的には、JETROもしくは東京外大に対して日本企業から寄せられる個別の相談に対し、双方で連携して、現地ビジネス関連情報および歴史?宗教?文化等も含めた、幅広い情報提供を行います。また、双方の情報交換や共同研究、セミナー等事業の共催も検討していきます。
(3)グローバル人材の育成
JETROは東京外大の学生(留学生含む)に対し、国際ビジネスに関する情報や、日本に所在する日本企業や外資系企業の情報を提供します。JETROと東京外国語大学は、言語?文化?国際関係に加え、ビジネスにも関心を広げてもらうことで、グローバルな企業人を育成し、日本企業の国際的な競争力強化を目指します。
JETRO冠講座の開設
東京外大は2016年秋学期より、2講座を新設します(「日本の国際ビジネスとJETROの役割」「世界各国?地域の経済事情」)。世界に目を向けている学生に対し、JETRO職員が海外ビジネスの現場の情報を伝えるとともに、世界で活躍する日本の企業、とりわけ中堅?中小企業等の動向を伝えます。
世界諸地域の言語を活かしたJETRO事業でのインターン受け入れ
世界諸地域の言語を習得中の学生を、JETROがインターンとして受け入れます。インターンを通して、当該言語?地域に対する日本企業、特に中堅?中小企業のニーズやビジネスの現状を体験的に習得してもらいます。
対談 石毛博行 JETRO理事長 × 立石博高 東京外国語大学長
包括連携協定を記念して、JETRO の石毛理事長に、この連携により今後本学とどのような協力関係が可能か、本学に何を期待するのかということなどを伺いました。
立石博高学長(以下、立石学長) 本日は、日本貿易振興機構(JETRO)の石毛博行理事長にお越しいただきました。よろしくお願いいたします。
石毛博行理事長(以下「石毛理事長」) よろしくお願いします。
JETROのミッション
立石学長 本学は、1873年に建学されて以来、一貫してグローバル人材の育成をおこなってきました。本学は英語名称に「Foreign Studies」(外国学)とありますが、これは本学が言語教育だけでなく世界諸地域の文化?社会?歴史などの教育をともに行っていることを表しています。JETROでは、英語名称の一部を、当初「Export」という単語を使用してらっしゃったそうですが、1954年の組織改編の際に「External」という単語に名称変更されていますね。これはどのようなお考えからですか。
石毛理事長 JETROの前身は、海外の市場調査を行う機関として、1951年に大阪市に設立された財団法人海外市場調査会です。その後、1958年に特殊法人日本貿易振興会に改組して東京に本社を移しました。当初は「輸出」を増やすことに全力で取り組んでいました。1970年くらいにはその効果もあり、黒字に転じてきました。そして、1980年台半ばから「輸入」も促進すべきだという声が上がり始め、輸出入両方も含めたプロモーションをしていくことに改めました。2003年に独立行政法人となり日本貿易振興機構となりましたが、現在、主に3つのミッションを掲げています。1つ目は、海外からの投資の呼び込みをして我が国の経済の活性化に貢献すること、2つ目は、日本産の農林水産物や食品の輸出を支援すること、3つ目は、中堅?中小企業等の海外展開を支援することです。これから社会を担っていく大学生にJETROの取り組みを知っていただければと思っています。
海外拠点を活用した連携
立石学長 本学では世界諸地域の言語?文化?社会を学ぶだけでなく、日本を世界に発信していくことにも重点を置いて教育をしています。JETROでは企業の海外展開を支援しているとのことですが、人文社会系の本学と連携を結ぶことにより、JETROが本学に期待して下さっているのはどういうことでしょうか。
石毛理事長 本機構には東京外国語大学の卒業生が数多く働いていますが、特定地域のエキスパートとしてとても活躍されています。海外とのビジネスは大抵が英語で行われますが、やはりそれぞれの母国語で対応することにより、ビジネスがより快適になりますよね。東京外大は、海外に多くの拠点事務所を設けていると伺いました。
立石学長 はい、2014年に文部科学省のスーパーグローバル大学創成事業に採択されまして、日本研究?日本語教育や日本文化の発信などを目的に、主要な海外連携大学に「Global Japan Office」設置を進めています。10年間で38拠点の設置を目指しています。
石毛理事長 この拠点事務所を通じて日本語や日本文化を学んだ現地の学生を活用したいと思っている日本企業は多いはずです。海外進出にあたって、現地の言葉ができて日本語もできる人材を求めているのではないかと思います。また、この拠点事務所を活用して、東京外大に留学して学んだ留学生が自国へ帰った後のサポートも行っていくと伺いました。この連携協定を結ぶことにより、より効率的?効果的に、JETROのミッション、東京外大のミッションを遂行できるのではないかと思っています。
立石学長 そうですね。この協定締結を機にさらに連携を強化していければと思います。
キャリア教育での連携
石毛理事長 この秋から、東京外大において、JETROによるグローバルキャリアについて考える連携講座を設ける予定ですが、その講座を通じて、学生が自身のキャリアについて考えるきっかけとなれば良いと思っております。また、JETROは海外に55カ国?74事務所、国内にも43拠点を設けていますので、東京外大の学生さんをJETRO本部あるいは拠点事務所にインターンシップ等で受け入れることにより、JETROの事業を体験してほしいと思っています。
立石学長 ありがとうございます。学生たちには、いろんな形で学ぶ機会を与えると大きく成長していきます。本学では、「グローバル?キャリア?センター」という就職支援などを行うセンターを設けていまして、そのセンターを通じてこれまでにも1年生からキャリア教育を行ってきましたが、JETROのような国際的な機関の方がこれまでの経験に基づいた講義をしていただくと、より目的意識を持って学ぶことができます。また、JETROの事務所のような安心安全な環境の中でインターンシップを行い、実際の現場を見ることができる機会をいただけるのは、大変ありがたいことです。
石毛理事長 「内向き志向」とよく言われますが、これは大人にも問題があって、若者が魅力に感じないように映っているのだろうと思っています。今、日本は世界の国々とすごいスピードで行き来しています。世界を見て国際的に動き回れる若者を作っていかなければならない。JETROでは入構して3年目くらいから職員を海外の現地事務所へ1年間の研修に派遣するようにしています。彼らは戻ってくると、本部で3?5年働いている人より問題意識を高くして自分をもっと高めなければという自覚を持って帰ってきます。やはり自分の頭で考えて苦労して自分で乗り越えていく、そういった機会を与えなければならないと思っています。できるだけ多くの方にそのような機会を与えるべきですし、できれば学生時代からそういった機会を持つことにより、より早く社会人として独り立ちするきっかけになるのではないか。そのような点でも、東京外大と協力していきたいと思っています。ところで、東京外大にアフリカ研究のセンターを設置すると伺いました。
現代のアフリカにおける課題に対する連携
立石学長 はい、本学のアフリカ研究者のリソースをまとめた形で、今年度中に「現代アフリカ地域研究センター」を設立します。開かれたセンターとして、政府機関も含めた関連機関との連携?協力のもとに、現代のアフリカにおける課題に役立つ研究を進めていきたい。そのためには、JETROとも共に研究を進めていければと思っておりますので、よろしくお願いいたします。
石毛理事長 はい、JETRO本部あるいはアジア経済研究所との共同研究により、シナジーの効果を高めていければと思っています。
立石学長 ありがとうございます。これからの連携、期待しています。どうぞよろしくお願いいたします。