アジア?アフリカ研究、半世紀 ―AA研 創立50周年
TUFS Featured
東京外国語大学アジア?アフリカ言語文化研究所(以下、AA研)は創立50周年の節目の年を迎えました。今回のTUFS Todayでは、その歴史を振り返ります。
AA研の発足は1964年にさかのぼります。戦後日本の発展に欠かせないにもかかわらず、それまで手薄であったアジア?アフリカ地域の研究を進めるため、日本学術会議が文部省に本研究所の設置を勧告し、1964年(昭和39年)、人文社会科学系ではわが国で最初の全国共同利用研究所として、東京外国語大学に設置されました。以来AA研は、臨地研究(フィールドサイエンス)に基づく共同研究プロジェクトを通じて国内外の研究員との活発な研究を行い、この50年の間に、現地に即したアジア?アフリカ研究に多大な貢献をしてきました。さらに言語研修等を通して次世代研究者を養成してきました。(写真はAA研創立当初の看板)
発足当時
AA研設立当初の所員と建物の写真です。写真は右から:北村甫(言語学)、奈良毅(言語学)、梅田博之(言語学)、柴田武(言語学)、富川盛道(人類学)、岡正雄(民族学)所長、河部利夫(歴史学)、中村平治(歴史学)の各先生方。
この頃のころを、岡田英弘所員(当時)は次のように振り返っています。
「まだ研究所が正門わきの古いぎしぎしいう木造校舎にあって、冬などいくらストーブを焚いても寒かったころから……新しい6階建ての新校舎の4~6階を研究所が占めるようになっても、しばらくは岡先生の主張で、共同研究員室に昼になると集まって弁当やそばなぞを食いながら話し合うことが行われたが、皆の海外出張が多くなり、新しい所員が入って来るに従って、何時とはなしにそれも廃れた。」 (岡田英弘「岡正雄所長の退官」『(AA研)通信』第16号より)
建物の今、昔
AA研の活動
AA研の活動の核は共同研究です。その成果は多くの出版物に結実しました。その一端をご紹介します。
また、AA研の活動のひとつに、言語研修があります。
海外との共同研究も活発です。
AA研は現在、レバノンのベイルートとマレーシアのコタキナバルで2つの海外研究拠点を運営しています。
現在
基幹研究4課題、共同利用?共同研究23課題を軸に、広汎な研究を展開しています。活動の詳細はAA研ホームページより、ご覧いただけます。
創立50周年 記念講演?シンポジウムを開催
2014年10月24日、AA研50周年記念の一環として「東京外国語大学アジア?アフリカ言語文化研究所創立50周年記念講演?シンポジウム」が約200名の来場者を迎え、一橋講堂(東京都千代田区)で開催されました。
元AA研所長石井溥氏による記念講演「アジア?アフリカ研究におけるAA研——回顧と展望——」が行われました。
石井氏は、AA研設立の時代背景とその経緯を振り返るとともに、AA研50年のあゆみを写真やデータ資料を交えて紹介し、AA研の研究が、さまざまな面で日本?世界のアジア?アフリカ研究に寄与してきたことを指摘しました。講演の後半では、1975年からAA研に事務局を置く「海外学術調査総括班」が日本の研究者による海外学術調査の発展のなかで果たした役割?寄与に言及しつつ、人文系の共同利用?共同研究のあり方について考え、合わせてAA研の研究におけるフィールドワークの重要性を確認しました。
つづいて記念シンポジウム『「言語」「文化」「歴史」の幻想を超えて―—現場の渾沌から捉え直す世界のしくみとかたち――』が開催されました。
太田信宏50周年記念事業実行委員会委員長によると、シンポジウムの趣旨は次のとおりです。
AA研は、アジア?アフリカ地域を対象とした言語学、人類学、歴史学の研究を推進するために1964年に設立されました。広大なアジア?アフリカ地域がもつ多様性?多元性を、言語、文化、歴史の側面から解き明かすともに、それらの学問領域―—言語学、人類学、歴史学――の発展にもアジア?アフリカの事例研究を通じて貢献することが期待されていました。しかし、50年という時の流れとともに、諸学問の領域においても、アジア?アフリカの現場においても、状況は大きく変わりつつあります。グローバル化が進展する現在、世界が標準化し均質化しつつあるのではないか、という危機感を抱く人々も少なくありません。多元的世界を探求することが求められていますが、それには、グローバル化の時代においても多様性と多元性にみちた現実のある意味での渾沌性を確認し、そこから多様性と多元性を内包する全体性をいかに構想してゆくのかが重要となります。このシンポジウムでは、現在のAA研の共同研究の中軸を成す四つの基幹研究から選出されたAA研所員が登壇します。それぞれが研究対象とする渾沌とした現場の姿を紹介しながら、全体のあり方を見通す知と認識の可能性を考えます。
シンポジウムではAA研の基幹研究から各1名がパネラーをつとめました。
1)中山俊秀 『文法とコミュニケーションの怪しい体系性——ありのままの言語研究の挑戦——』(基幹研究「言語ダイナミクス科学」代表)
中山は、言語は体系性と多様?雑然性の両面を併せ持っているところにおもしろみがあるが、この一見矛盾する二つの性質が共に言語システムの本質をなしていると説く。そしてそのような言語を正確に理解するには言語体系を動的で開かれたシステムとして捉えることが必要である。こうした認識が、現在AA 研で進められている基幹研究の一つ「言語ダイナミクス科学」の出発点であると話す。
2)深澤秀夫 『マダガスカルの村で<世界>をおちこちに読む――人が集まって暮らす景観が語るもの――』(基幹研究「アフリカ文化研究に基づく多元的世界像の探求」代表)
深澤は、1983年から調査を行ってきたマダガスカルにおける一村落を起点に、ひとが空間的に集まって暮らすことの形と論理について読み解く。
3)黒木英充 『シリア内線の奈落の底から――重層的現実に対する地域研究の挑戦――』(基幹研究「中東?イスラーム圏における人間移動と多元的社会編成」代表)
すでに3年半が経過したシリアの動乱?内戦。黒木の研究対象の都市アレッポも激戦の舞台の一つとなり、世界遺産指定の美しい市街地は見る影もなく破壊されている。研究者は、この目も眩むような渾沌とした現実にいかに立ち向かうべきか。混乱を極める表層の下には多くの重なり合う層があり、それを丹念に分析してゆくべき、と話す。
4)床呂郁哉 『「グローバル/ローカル」を超えて――東南アジア海域世界から見た新しい世界のかたち――』(基幹研究「人類学におけるミクロ-マクロ系の連関」代表)
床呂は、自身のフィールドである東南アジア海域世界をめぐる人類学的研究の知見などを参照しながら、文化人類学者を中心に歴史学や地域研究の研究者によって構成されたAA研共同研究プロジェクト「アジア?アフリカ地域におけるグローバル化の多元性に関する人類学的研究」において研究されたいわゆるグローバリゼーションなどをめぐる諸議論について報告した。そのなかで同氏はとくにナマコや真珠貝などいわゆる特殊海産物の交易の事例を参照しながら、欧米中心的なグローバリゼーションとは異なる、もうひとつのグローバル化(プライマリー?グローバリゼーション)について紹介し、世界を理解する新たな枠組みについて問題提起を行った。
企画展「AA研50年の歩み?所員の見たフィールド」
AA研(府中キャンパス内)1階展示スペースで「AA研50年の歩み?所員の見たフィールド」を開催中です。本展では、AA研の50年の歩みを振り返るとともに、現所員や元所員がアジア?アフリカ各地でフィールドワークを行ったおりおりに撮影した写真をあわせて展示しています。ぜひ、足をお運びください。
【会期】 2014年10月1日(水)~2014年12月26日(金)※土?日?祝日は休場
【時間】 10:30~17:00
【入場料】 無料
【会場】 東京外国語大学アジア?アフリカ言語文化研究所資料展示室(1階)
第1部 「AA研50年のあゆみ」展
AA研は1964年の創立以来、共同研究によるフィールドワーク方法論の構築と実践を大きな課題として掲げ、研究活動を行ってきました。今回の展示では、年表や写真、ポスターなどを通じて、AA研のこれまでの活動を言語研修、海外学術調査フォーラム、企画展示を中心に振り返ります。
第2部 「所員が見たフィールド」写真展
写真展「所員の見たフィールド」は二つの部分からなります。一つは本研究所所員がアジア?アフリカの各地で撮影した「祭」「儀式」をテーマとする写真を集めたものです。土地?民族?目的によりさまざまに異なる祭や儀式のあり方を読み取っていただけると幸いです。また、かつて本研究所にあってアジア?アフリカのフィールド研究を先導し、今も現地を訪れる元所員の方々が、AA研創立50周年を祝う気持ちを込めて写真をお寄せ下さいました。貴重なフィールド写真の数々を味わっていただければと思います。