世界のフィールドのネコ科動物特集?寅年を記念して?
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2022.02.21追記
今年2022年の2月22日(火)は、800年ぶりの「スーパー猫の日」です。
スーパー猫の日を記念して、今年の年始に寅年を記念しておこなった「世界のフィールドのネコ科動物~寅年を記念して~」特集をあらためましてご紹介します。
2022.01.05掲載
新年、明けましておめでとうございます。
2022年になりました。新しい年が皆様にとって良いことがたくさん詰まった1年でありますように。
新年最初のTUFS Today特集は、今年の寅年を記念して、本学教員が世界で出会ったトラたち???、と行きたいところですが、フィールドでばったりトラに出会うということは少なく、「ネコ科」に範囲を広げて、フィールドで出会ったネコ科動物を紹介します!
アジア地域のネコ科
①中国 内モンゴル自治区
撮影地:中国 内モンゴル自治区フルンボイル市エウェンキ族自治旗
撮影者:山越康裕(AA研)
「あまもり」こわい
昔々あるところに、白黒模様の牛を一頭飼っている貧しい老夫婦がいた。ある雨の夜、その牛を狙って泥棒が忍び寄ってきた。それと同じく、一頭のトラも牛を食べようと家に近づいてきた。
家の中ではおじいさんとおばあさんが「世の中のこわいもの」について話していた。おじいさんは「トラはこわい」と言ったところ、おばあさんは「トラなんて大したことないですよ。私は『あまもり』がこわいです」と言い返した。二人は貧しかったので、雨が降ると雨漏りがひどいのだった。その会話を外で聞いていたトラは「この俺よりこわい『あまもり』というのは一体どんなやつなのだろう?」と不思議に思った。
さて深夜。老夫婦が眠りについたころを見計らって、泥棒は家の中に忍び込んだ。同じころ、トラも牛を狙って忍び込んだ。暗闇の中、白黒模様の大きな生き物を見つけた泥棒は、その背中に飛び乗った。ところが、それは牛ではなくトラだったのだ。
いきなり背中に何かが落ちてきたトラはびっくり。「もしかして、これが『あまもり』か!?」と思い、一目散に逃げだした。泥棒は獲物を逃してはならないと必死で背中にしがみついていた。トラは峠を越え、隣の国までやってきた。するとそこに人々が待ち構えていて、トラは捕まってしまった。その国はハーン(王様)がいない国だった。占い師のいうことには「トラに乗った男がやってくる。その男がハーンになる」のだということで、待ち構えていたのだった。捕えられたトラは尻尾を切られて逃がされた。一方泥棒は、人々から王になってくれと頼まれて困ってしまい、その夜こっそり逃げ出して木の上で眠った。
翌朝、起きてみると下にトラの群れがいる。泥棒を見つけたトラたちは、泥棒を捕まえて食おうとしていた。しかし木の上で届かないため、一頭のトラの背中に別の一頭が乗り、さらにその上に別のトラが乗り、とだんだん近づいてきて、ついに泥棒は捕まりそうになった。そのとき泥棒は、一番下にいるトラの尻尾が短いことに気がついた。牛を捕まえようとしていたあのトラだったのだ。
そこで泥棒は叫んだ。「おおい、おれは『あまもり』だぞ!」
それを聞いて尻尾の短いトラはふたたびびっくり。慌てて逃げだしたので上に乗っていたトラたちも落っこちて、散り散りに逃げてしまった。こうして泥棒は助かった。そして、泥棒を探しに来た人々に見つかって、とうとう泥棒はハーンになってしまったとさ。
ブリヤートの民話『「あまもり」こわい』(中国?内モンゴル自治区にて採録)
山越 康裕 (アジア?アフリカ言語文化研究所)提供
② 中国 雲南省
所蔵:東京外国語大学アジア?アフリカ言語文化研究所
撮影者:荒川 慎太郎
③ 中国 広西チワン族自治区
撮影地:中国広西チワン族自治区桂林市
撮影者:倉田明子
④ インドネシア ジャワ島
撮影地:インドネシア、ジャワ島
撮影者:青山亨
⑤ マレーシア サラワク州
撮影地:マレーシア サラワク州 クチン
撮影者:塩原朝子
⑥ インド
撮影地:コルカタ?インド博物館(2016年2月)
撮影者:水野善文
森を守るインドの虎
絶滅危惧種だという虎ですが、世界で最も個体数が多いとされるインドだからでしょうか、インド?パンジャーブ州出身のタイガー?ジェット?シン(1944年生れ)が日本でも雄叫びをあげた時代がありました。その名を知るかたは、世代のみならず、相当なプロレスファンに限定されましょうか。このプロレスラー、リングネームの一部「ジェット」は、元来は「ジートゥ(勝利)」だそうな(Wikipedia)、ごもっとも。
インド由来の虎といえば、もっとずっと古く、法隆寺に保存されている玉虫厨子の右側面に描かれた「捨身飼虎図」があります。これは、諸仏典に紹介されている、飢えた虎の親子に自分の肉体を餌として提供して命を救った、前世のブッダの徳行の一場面です。自分の命と引き換えにしてまで、野獣である虎の命を救ったのは何故か? 大慈悲のなすところという理解が一般的でしょうが、虎だからこそ守らねばならい理由がありました。理由と思しきことが分かる古代インドの虎にまつわる説話が、これも仏典に収録されていました。民間に流布していた動物寓話などの民話をピックアップして、その登場人物(動物?生物)のひとりが実は前世のブッダだったのだとなぞらえて、ブッダの前生譚として焼き直した物語ジャータカのひとつに、こうあります。
ブッダが、前世、ある森のなかの樹神として生まれたときのこと。虎たちが食い散らかした動物の死骸から放たれる腐敗臭を嫌って、別の樹神が虎たちを駆逐しようとした。来世ブッダとなる樹神は、「虎たちを駆逐すれば、人間たちが森の樹木を残らず伐採して開墾することになるだろうから、我々が住む祠がなくなってしまうよ」と忠告した。にも拘らず虎退治が強行されると、案の定、人間たちは樹木の伐採をはじめた。後悔した樹神は虎を呼び戻そうとするが、あとの祭りだった。[前田專學訳『ジャータカ全集3』(春秋社、1982)、244-246頁「虎前生物語」を要約]
インドの虎は、今で言えば、まさしくSDGsの旗手にほかなりません。
「虎(タイガー)勝りて(ジートゥ)森(シン)を守る」
水野善文
⑦ ウズベキスタン
撮影地:ウズベキスタン、サマルカンド市
撮影者:島田志津夫
かつてティムール朝の首都として栄えた古都サマルカンドのランドマーク、レギスタン広場(世界遺産)に建つシェールダール?マドラサ(17c.)の正面ファサードには獲物を追うライオンの姿がモザイクタイルで描かれています。黒い縞模様がありトラにも見えますが、たてがみがあるのでライオンです。シェールダールとは、ペルシア語で「ライオン(shēr)を持つ(dār)」を意味します。
ライオンの背中から顔を出しているのは太陽です。イスラームでは偶像崇拝が禁じられていますが、宗教関連施設であるマドラサ(イスラームの諸学問を学ぶ高等学院)に動物や人物の意匠が堂々と描かれているのは特異な事例といえます。「獅子と太陽」のモチーフは黄道十二星座の獅子座とも関連があり、イラン、中央アジア、インド等のペルシア語文化圏に古くから広く見られるモチーフの一つです。
中東地域のネコ科
⑨ トルコ
撮影地:トルコ イスタンブル
撮影者:林佳世子
⑧ イラン
イランでは、獅子は遠く古代ペルシアの時代から様々なもののシンボルとして登場します。
撮影地:イラン
撮影者:吉枝聡子
*獅子と太陽
「獅子と太陽」のデザインは,歴代のペルシア系王朝では王権の象徴とされ,1979年のイラン?イスラーム革命前までは国旗のエンブレムとして用いられました。このモチーフはペルシア文化圏では建物等の装飾デザインなど様々な場所で見ることができます。<写真:ウズベキスタンの項を参照>
*シーア派と獅子
獅子は、特にシーア派では初代イマーム?アリーの象徴とされています。シーア派の宗教行事ではライオンがアリーの化身として登場することがあります。
撮影地:イラン?ザッヴァーレ
撮影者:吉枝聡子
*イランとペルシャ猫
毛並みが美しいことで有名なペルシャ猫はイラン原産とされますが、現在のイランでは残念ながらほとんど見かけません。あしからず。
撮影地:イラン?ヤズド
撮影者:吉枝聡子
⑨ シリア
撮影地:シリアの首都ダマスカス旧市街バーブ?シャルキー(シャルキー門)近く
撮影者:青山弘之
⑩ エジプト カイロ
撮影地:エジプト?カイロ
撮影者:八木久美子
アラビア語でスフィンクスは「アブー?アル=ハウル(恐怖の父)」(ということは、雄?)。
古代エジプトでは、雌ライオンの姿をしたセクメト女神(疫病を流行らせたり止めたりできるらしい)、猫の姿のバステト女神なども有名です。
撮影地:エジプト カイロ
撮影者:三代川寛子
福音記者聖マルコは、エジプトにキリスト教を伝え、アレクサンドリア教会の初代司教となったと伝えられています。聖マルコは獅子を伴った姿で描かれることが多いですが、それはエゼキエル書に登場する四つの生き物(人間、獅子、牡牛、鷲)を四福音書と関連付ける伝統(2世紀のリオン司教、エイレナイオスらによる)にならったものです。それによると、マルコによる福音書は「荒れ野で叫ぶ者の声」で始まるため、荒れ野で叫ぶ獣である獅子がマルコの象徴となりました。また、コプト正教会に伝わる『アレクサンドリア総主教の歴史』にはライオンにまつわる聖マルコの奇跡譚が掲載されており、それによると、福音記者聖マルコとまだキリスト教徒ではなかったマルコの父親が旅の途中ライオンのつがいに出くわし、マルコが助けを求めて祈るとその2匹のライオンが裂けて死んでしまったので、マルコの父親は感銘を受けて入信したといわれています。
撮影地:コプト正教会総主教座(エジプト カイロ)
撮影者:三代川寛子
アフリカ地域のネコ科
? カメルーン
はね罠猟で捕らえられたアフリカン?パームシベット(学名:Nandinia binotata)。この地域では、食肉利用のほかに、毛皮が儀礼でもちいられてきた。野生のネコ科動物にはほかにヒョウがいるが、滅多にお目にかかることはない。
撮影地:カメルーン共和国東部州(2007年6月撮影)
撮影者:大石高典
※キノボリジャコウネコ(アフリカン?パームシベット)は、分類学上はネコ科ではなくジャコウネコ科もしくはキノボリジャコウネコ科に属します。これらの仲間は、ネコ科とともにネコ亜目を構成するネコ型の食肉動物です。
熱帯雨林の中にある村に住むネコ。狩猟に使われる犬がたくさんいるのと対照的に、ネコの数は指で数えられるくらいに少ないです。収穫後にあまり貯蔵がされることのないイモやリョウリバナナを中心とした農耕形態のためでしょうか。儀礼の日に椅子に腰かけていたら、そのうちの一匹が私の靴を引っかいたり、バックパックの紐で遊び始めました。珍しかったり、ブラブラしたものにちょっかいを出すのは日本の飼い猫と変わらないようです。
よくなついたネコが現れて、「シジミ」と名前を付けました(日本から持って行ったインスタントのシジミの味噌汁の具の残りを好んだため)。ところが約1年後に再訪したらシジミはいなくなっていました。周りに消息を尋ねたら、「妖術師の男に食べられてしまった」という答えが返ってきて、愕然としたことがあります。一部で、ネコを呪薬に使うことがあるようです。
撮影地:カメルーン共和国東部州ドンゴ村(2019年9月撮影)
撮影者:大石高典
? エチオピア
エチオピアにはかつて広くライオンが棲息し、北部のキリスト教徒社会ではライオンは王権の象徴となりました。王宮ではライオンが飼育され、ライオンに囲まれながら謁見を行う王もいました。黒いたてがみを特徴とするエチオピア?ライオンはエチオピア北部において絶滅したと考えられていましたが、スーダンとの国境地帯に設けられた国立公園で2016年に再発見されて話題となりました。2020年の年末にエチオピア北部で勃発した内戦が早く終息し、野生動物の調査や保護が進むことを願っています。
撮影地:エチオピア アクスム(2010年)
撮影者:石川博樹
中南米地域のネコ科
? キューバ
ハバナでは猫を見かけることがよくあります。どれも可愛いのでつい写真に撮ってしまいます。この写真はハバナの結構な中心地で撮ったもので、周りに人がいるにもかかわらず、堂々と歩いているのに感嘆しました。スペイン語のことわざに、Gato escaldado, del agua fría huye(熱湯をかけられたことのある猫は、水からも逃げる)というのがあります。日本では「あつものに懲りてなますを吹く」ですが、ハバナの猫は何かに懲りたことはなさそうです。
撮影地:キューバ ハバナ(2020年3月)
撮影者:久野量一
ヨーロッパ地域のネコ科
? ドイツ
テュービンゲン旧市街に位置するこの建物は現在、協同組合方式のスーパーですが、その起源は16 世紀のビール醸造所兼宿屋に遡ります。近代になって劇場や映画館として利用されたときに、この獅子像がトレードマークになった模様。
撮影地:ドイツ テュービンゲン
撮影者:藤縄康弘
? チェコ
撮影地:チェコ リベレツ
撮影者:篠原琢
? イタリア
撮影地:バルジェッロ美術館(イタリア フィレンツェ)
撮影者:小田原琳
撮影地:トッレ?アルジェンティーナ広場(イタリア ローマ)
撮影者:小田原琳
撮影地:サンタ?マリア?デッラ?ピエーヴェ聖堂、内陣柱頭(イタリア アレッツォ)
撮影者:久米順子