世界のメディアを日本語で―東京外大「日本語で読む世界のメディア」プロジェクト
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東京外国語大学では、中東、南アジア、東南アジアの現地新聞を日本語に翻訳して公開し、世界の人々の声を日本に伝えるプロジェクトを続けています。2005年に「日本語で読む中東メディア」が始まって以来、対象地域や翻訳する新聞の数も拡大し、世界に目を向ける多くの方々にとって、重要な情報源として知られています。本プロジェクトに参加し翻訳を行っているアラビア語、ペルシア語、トルコ語、ベンガル語、ウルドゥー語、ビルマ語、ベトナム語、インドネシア語を学ぶ学生たちにとっても、重要な成長の糧です。今回のTUFS Todayでは、このプロジェクトをご紹介します。
全体の運営を担当されている青山弘之教授にお話しを伺いました
——このプロジェクトの目的は?
このプロジェクトには、2つの目的があります。
第1に、中東?北アフリカ地域、東南アジア地域、南アジア地域の新聞の記事を学生が翻訳し、語学力を高めることです。現在、このプロジェクトでは、翻訳の許可をいただいている、これらの地域の17紙、具体的にはアラビア語紙6紙、ペルシヤ語紙4紙、トルコ語紙6紙、ベトナム語紙1紙、インドネシア語紙1紙、ビルマ語紙1紙、ウルドゥー語紙1紙、ベンガル語紙1紙の記事を、語学の学習の一環として日本語に翻訳しています。
第2に、翻訳した記事をHP、SNSを通じて配信し、日本語や英語のメディアではあまり伝えられない現地の最新ニュースを普及し、これらの地域への理解を深めてもらう一助にすることです。このプロジェクトでは、
で随時記事を公開しています。またメーリングリストで最新記事をお知らせしています(登録はこちらから)。さらに、公開されている記事の一部はSynodosに協力頂き、転載配信しています。
つまり、教育と社会貢献がこのプロジェクトの二枚看板です。
——どういうプロセスで、記事はできあがるのでしょう?
このプロジェクトは各言語を担当するチームに分かれています。それぞれのチームで若干の違いはありますが、おおむね次のようにして、記事は翻訳?配信されます。
まず、学生本人ないしは担当教員が翻訳する記事を選びます。次に学生自身が記事を翻訳し、担当教員が授業で記事の内容を解説したり、記事の校閲を担当するスタッフが修正やブラッシュアップをして訳語を整えます。そのうえで、先ほど紹介しましたHP、SNSなどで記事を公開、配信します。
——反響や効果はいかがでしょう?
このプロジェクトで翻訳、配信している記事をご覧頂いている方々は、みな海外で起きていることに強い関心を持っておられているようです。日本のメディアでは、現地で伝えられていることを、そのまま直接伝えることはあまり多くなくて、焦点を絞ったり、内容をかいつまんだりすることで日本の読者?視聴者のニーズに対応しています。こうした既存のメディアで各地域に関心を持つようになった人たちは、さらなる追加情報、そして現地の生の声に触れたいと感じ、このプロジェクトにアクセスしてくれているのだと思います。
また、これまで何度か、テレビ、新聞でとりあげてもらったことがありますし、先にも述べました通り、Synodosさんには、記事の転載で協力頂いています。このプロジェクトのこうした役割が、メディア、そして記事を閲覧頂いている利用者のみなさんからも非常に高く評価して頂いていると感じています。
——翻訳に参加している学生の皆さんへの効果は?
外国語を習得する場合、いろいろな到達目標を設定するかと思いますが、新聞が読めるようになるという目標は、学生たちが、在学中の留学先、留学目的、そして卒業後の進路を考えるうえでよい効果を与えていると思います。
というのも、新聞を読めるようになるという過程で、記事を閲覧頂いている利用者と同様、学生自身も現地の何を知りたいのかを考えることができるからです。
もちろん、学生によって関心や参加の仕方は異なりますが、アラビア語紙の翻訳を例にとると、早い学生は1年生の夏休みから翻訳にチャレンジしています。また、特定のアラブの国の記事を翻訳し続けて、その国についての情報を集めて、卒業論文を書く学生もいます。
さらに、社会人になったのちに必要とされるであろう外国語の語彙や言い回しも、このプロジェクトを通じて身につけることができます。高校までの外国語教育や市民講座とはひと味違ったより実践的な言語能力を身につけられるというわけです。
——今後、どういう展開を計画されていますか
あくまでも計画ですが、例えばアラビア語紙の翻訳チームでは、新聞ではなくて、衛星テレビ放送やインターネットでのストリーミング放送で配信されているヘッドライン?ニュースを日本語に翻訳するようなことを検討しています。
——どうもありがとうございました!今後が、楽しみですね。
翻訳に参加している学生さんの声をお届けします
満生紗希子さん:言語文化学部トルコ語専攻 ?3年(写真右から二人目)
現在、トルコのイスタンブルにあるボアジチ大学に留学中ですが、メディア翻訳は、こちらでもずっと続けています。メディア翻訳では、トルコ独特の言い回しやことわざなどで苦労します。出来るだけ簡潔にお伝えしたいので、日本の新聞もよく読む癖がついてきました。またトルコと関係のある国々の政情などに関心を持つようになりました。多くの方々に読んで頂き、日本の新聞だけでは捉えられない現地の様子をお伝えできればと思っております。
今城尚彦さん:言語文化学部トルコ語専攻 ?4年
トルコ語の記事を翻訳していて苦労することは、「読みやすさ」と「正確さ」の両立です。トルコ語を知らない人が読むことを想定し、できるだけ日本語に近い訳出を心がけているつもりですが、それは常に誤訳と隣り合わせであることも事実です。毎回のように校閲の方に迷惑をおかけしながらも、「読まれること」を意識しながら翻訳に取り組めるメディア翻訳という場は、ことばを学ぶ環境として非常に有難いものだと思います。
増田まいさん:言語文化学部 アラビア語専攻 2年
メディア翻訳に参加してから語彙や知識が増え、翻訳の楽しさもあってやる気が増しました。翻訳する時は、アラビア語よりも日本語面で苦労します。新聞らしい適切な日本語を当てはめることが非常に難しいです。そのため以前より新聞を読むようになりました。また知識不足だと訳せないので、日本語や英語で情報収集を行い、訳す分野の基礎知識を持っておくようにしています。ネイティブ並みのアラビア語力を習得すべく、今後も頑張ります!
高見彩華さん:言語文化学部ベトナム語専攻 4年
翻訳し始めたばかりの頃は、普段の授業では使わない政治や経済の用語が多く出てきたので非常に苦労しました。わからないことが 出てくるたびに調べていたので最初は時間がかかりましたが、様々な知識を得ることができました。就職活動の際に、ベトナムのニュースに関してよく質問されました。メディア翻訳のおかげでより詳しく、ベトナムからの視点を交えて答えることができ、面接官から褒めてもらえました。卒業しますが、今後もベトナム語の勉強も兼ねてベトナムのニュースを追いかけていきたいと思っています。
一丸夕花さん:外国語学部インドネシア語専攻 4年
インドネシア語科ではグループで翻訳にあたっているため一人に割り当てられる分量は少な目ですが、その分煮詰めて訳していく必要がありました。原文でなんとなく文意が理解できても、いざ日本語に訳す際に適当な表現が思い当たらず、国語力も同時に問われる作業でした。最近の情勢について日本のメディアから発信される情報よりも詳しく知りたいと感じた時、現地のメディアにあたるようになったことは、メディア翻訳での経験があったからこそです。
「日本語で読む中東メディア」はこちら
- アラビア語新聞:Al-Nahar、Al-Quds al-Arabi、Al-Hayat、Al-Sabah al-Jadid、Watan
- ペルシア語新聞:Jam-e Jam、Iran、Mardomsalari、Hamshahri
- トルコ語新聞:Cumhuriyet、Hurriyet、Milliyet、Radikal、Yeni Safak、Zaman
「日本語で読む南アジアのメディア」はこちら
- ウルドゥー語新聞:Jang
- ベンガル語新聞:PROTHOM ALO
「日本語で読む東南アジアのメディア」はこちら
- ベトナム語新聞:VietnamPlus
- インドネシア語新聞:Kompas
- ビルマ語新聞:The Voice Weekly