多言語版?漢字学習アプリ「たふマルリン」 ?開発担当の小島祥美准教授インタビュー~
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公立小?中?高等学校等における日本語指導が必要な児童生徒の数は、年々増加の一途をたどっており、2022年10月18日に文部科学省が公表した「日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査(令和3年度)」によれば、58,307人(2021年5月1日現在、前年比14%増)とされています。子どもたちは、日本語の理解や習得に苦労しながら日々の勉強に取り組んでいますが、近年の新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより、子どもたちの学びの場が大幅に制限されてきたことも懸念されています。
本学はこのたび、電気通信大学との連携により、日本語指導が必要な児童生徒等のための多言語対応の漢字学習アプリ「たふマルリン」を開発しました(2023年3月11日にAndroid版でリリース、iOS版も近日中リリース予定)。
※ダウンロードの不具合が解消しました。また、iOS版がリリースされました。お待たせいたしました。(2023.3.29)
今回のTUFS Todayでは、「たふマルリン」の開発に関わった小島祥美准教授インタビューしました。
パンデミックをきっかけとしてアプリ化に着手
---本学ではこれまで、日本語指導が必要な子どもたちの学習の助けになるように多言語教育の特色を生かした教材を作成し、ウェブサイトにおいて無償公開してきました。
これら教材は、2006年~2008年に実施した三井物産との共同事業「在日ブラジル人児童のための教材開発」によりポルトガル語版を作成し、それをもとにその後、特に、国内において母語割合の多いタガログ語(フィリピン語)、スペイン語、ベトナム語、タイ語での説明とやさしい日本語を用いた教材を作成しました。月平均1万回のダウンロードを数える人気コンテンツです。私自身もこのPDF教材をプリントして子どもたちへ提供する支援の現場にかかわっていましたから、その使いやすさ?学びやすさはよく分かっていました。
---今回、漢字学習アプリを開発したとのことですが、どのような経緯で教材のアプリ化を進めようと思ったのでしょうか。
教材のアプリ化は、今回のパンデミックで、子どもたちの学びの場が失われたことがきっかけです。文部科学省のGIGAスクール構想などのDX化も進められる状況に、以前から検討していたペーパーレス化をはじめ、タブレットやスマートフォンなどへの最適化に取り組むことにしました。
---もともとのPDF教材では、「算数」などの教材もありますが、今回、「漢字学習」のアプリとしたのはなぜですか。
算数教材よりも、やはり漢字学習教材の方がニーズは高いです。なぜならば、算数の概念への理解に、言語の壁はないからです。
漢字の学習は、日本語の習得においてはどうしても避けられないことです。そのため、学年別に提供されていた漢字と算数の教材のうち、まずは最も苦労の多い漢字学習について、基本的な漢字を習得したい人を対象にした漢字アプリの開発に取り組みました。
楽しく学び続けられるアプリとしての工夫
---アプリ化にあたって、注力した点にはどのようなことがありますか。
学習内容は従来の教材をベースにしながらも、アプリ化にあたって、学び方や使い勝手には工夫を凝らしています。教材としての魅力を高めて、一人でも多くの人に学び続けてほしいと思ったからです。
まず、もともと小学校低学年向けであったイラストを、中学生や高校生だけでなく、大人にとっても違和感のないタッチとして、誰でも学べる教材にしました。また、母語で話すことはできても読み書きは苦手の子どもも多くいます。そのような子どもが、日本語を学びながら、母語をともに学ぶことができるように、複数の言語を併せて表示するようにしました。そうすれば、家庭で保護者と子どもが、ともに同じ教材で学んでいってもらえるのではないか、という思惑でもあります。
外国につながる子どもだけでなく、日本語を母語にする子どもも使用できることにも工夫しました。隣の席に座る友達が話す他言語にも触れることで、身近な友達から世界にある豊かな言語を知るきっかけになったら、という願いも込めました。
---たとえばどのような点を工夫していますか。
書き順を習得したり、その漢字の読みや意味を調べたりといった、描画と連動する機能などは、アプリならではですね。ドリル型の設問も、効果音を加えることで、クイズ感覚で進められるようにしています。漢字は読みが複雑ですから、日本語の音声を聴けるようにしていますし、録音機能も付いていますから、自分の声や講師の声などを何回でも聴き直すことができます。
現場で使う人と、大学間の連携による開発
---機能や使い勝手について力を入れてきた点はありますか。
実際にアプリを使う学校やNPOなどの現場の方々に、モニターとして多数ご協力いただきました。試用版ができたところで、現場で試してもらい、意見を聞いて、開発チームへフィードバック、というサイクルを繰り返しながら、完成度を高めていきました。
---専用アプリの開発はどのようにされたのですか。
アプリの開発は、やはり理工系の技術が必要になりますから、教育?研究面で連携している電気通信大学に協力していただきました。専用アプリの開発は、電気通信大学発のベンチャー企業である株式会社CodeNextが担当しました。同社のKhan Md Mahfuzus Salam社長は、電気通信大学で博士の学位を取得したバングラデシュ出身の元留学生で、自身も日本語学習に苦労した経験から、利用者にとってより使いやすいインターフェース?機能を意識して主体的に開発に参画してくださいました。Khan社長の提案により英語版、ベンガル語版が追加されました。
---8言語での教材作成、制作には苦労したのでは。
教材全体としては膨大な項目が収められていて、しかもそれを8言語対応で作っているわけですから、どれだけ気をつけていても、細かい不具合は至るところへ出てきます。しかも、OSや画面サイズなどによって、動作や表示が異なることもよく起こります。そういった間違いを見つけて改修していく、いわゆるデバッグ作業が、またたいへんな手間なのですが、そういった作業については、広報?社会連携課の職員や多言語多文化共生センターのスタッフに大きく助けられました。つまり、教える現場や提携する大学、社会連携を受け持つ大学職員などの協力によって、はじめて形にできたのが、この漢字アプリなのです。
たくさん現場で活動してきた経験を生かす
---多くの人の尽力を得ながらこの教材アプリを作りたいと願うのはなぜでしょう。
これまで私自身が外国につながる子どもたちが置かれた状況と、たくさんの現場で格闘してきた経験が根底にあります。
30年近く前、小学校教員としてインドシナ難民の姉弟と出会ったことで、彼(女)らのような外国につながる子どもたちが、日本の社会とつながれていないことを知り、その衝撃が、その後の私の生き方を変えました。あらためて大学で学び直すとともに、阪神淡路大震災後の神戸でボランティア活動に携わることで、私は日本社会が抱える課題を知りました。特に、学校に通うことのできない外国籍の不就学児との出会いというショックは、使命感に駆られることになりました。義務教育の対象外ということで、社会から「見えない」子どもと扱われてきた子どもたち。その可視化が不可欠と考え、その気づきが私を次へ突き動かし、「研究」というかたちで社会課題の解決に取り組むようになったからです。
今も、本学での教育?研究活動を行いながら、ボランティアとしての活動も続けています。この漢字アプリも、そういった現場で使われる中で、より良いものに、ユーザの皆さんと一緒に育てていきたいですね。
本アプリの機能の紹介
- 8言語対応:ポルトガル語、フィリピン語、スペイン語、ベトナム語、英語、ベンガル語、タイ語およびやさしい日本語。
- ドリル型の設問に効果音を加え、クイズ感覚で進められる工夫
- 書き順の習得、その字の読みや意味を学べるなど、描画と連動する機能
- 漢字の読み方を音声で聴くことが可能
- 自分の声や講師の声などを何度でも聴き直すことができるよう録音機能を搭載
ダウンロード
※ダウンロードの不具合が解消しました。また、iOS版がリリースされました。お待たせいたしました。(2023.3.29)
関連リンク
- TUFS Today特集:「外国につながる子どもたちの不就学ゼロをめざして」小島祥美准教授インタビュー
- 小島祥美准教授 研究者情報
- 外国につながる子どもたちのための教材
- 多言語多文化共生センターWebサイト
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