この春、定年退職される先生方より、みなさんへメッセージ
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2025年3月、東京外国語大学を定年退職される先生方からみなさんへメッセージをいただきましたのでお届けします。あわせておすすめの一冊も伺いましたのでご紹介します。
川上 茂信(かわかみ しげのぶ)先生
大学院総合国際学研究院 教授
1989年に着任して以来、36年間外大で勤務しました。学部?大学院(当時は修士課程しかありませんでした)も外大なので、今までの人生の大半を外大で過ごしたことになります。そして今、こんな文章を書く立場に置かれてちょっと不思議な気分なのですが、ここまでなんとかやって来れたのも、外大のスタッフ、同僚、学生の皆さんの支えがあったからだと思います。本当に有り難うございました。
スペイン語専攻の学生は1学年60人から70人、間をとって65人で計算すると、36年で2340人ぐらいにスペイン語文法を教えたことになります。私の授業を受けた人たちの間では、私は u の発音に拘る教師として記憶されているかもしれません。スペイン語の u は日本語の「ウ」と随分違う音なので、スペイン語らしい発音を身につけるためには避けて通れないポイントですが、それを意識することで日本語の身体感覚を越える練習になるわけです(l と r の区別でも良いのですが、u よりもハードルが高い)。外国語を身につけるというのは、発音にせよ、文法にせよ、冗談が冗談として成立する要件にせよ、母語の身体感覚を越え出る訓練なので、u を出発点にして冗談を言うタイミングに至るまで筋肉を鍛えていって欲しいなと思っています。
ではまたどこかで。
おすすめの一冊
角 悠介著『ロマニ?コード』夜間飛行、2022年
この本は、著者本人の言葉によれば「ロマ民族(ジプシー)の言語を東欧で研究する日本人のアカデミックでコミック、一言で言うと「アカデコミック」な研究生活を描いたエッセー」です。もう、とにかく面白いのでぜひ読んでみてください。
斎藤 弘子(さいとう ひろこ)先生
大学院総合国際学研究院 教授
私は1988年4月に着任しましたので、学部に入学した1978年から数えると、東京外国語大学で過ごした年月は実に長いものとなります。その間、キャンパスが北区西ヶ原から府中市に移転した際には、暑い夏のさなかに一大引っ越し作業を行いましたが、今となっては良い思い出です。また、大学が「法人化」され、学部がひとつ、またひとつと増え、ついに3学部体制に「変身」していく姿も目の当たりにしました。大学の「創立百周年」にも「建学150周年」にも立ち会い、それぞれの記念行事に参加しました。
折々の改革に伴い、学内の教育研究組織の分け方や呼称にもたびたび変更が生じ、間違えないようにするのに苦労しました。
しかし、そのように大学内での組織の分け方や名称が変わっても、外大生たちのおしなべて真面目で勉強熱心な気質はそれほど大きく変わっていないのではと感じています。入学直後の初めての「英語音声学」の授業で学生たちが見せる緊張した面持ちと驚きの反応は、以前とそれほど変わっておらず、「外大生」という共通点が初回の授業から垣間見えます。それが卒論を書き終わるころにはすっかり大人の顔になり、筋金入りの外大生となって飛び立っていくのです。今年は私も久しぶりに卒業します。
おすすめの一冊
Changing Places (David Lodge, Secker & Warburg, 1975)
英国人作家によるキャンパスコメディーで、英米の文化の違いから生まれる可笑しさが描かれた作品。
大学院生のとき、生協で立ち読みをして買って以来、この作者の作品は全部読みました。翻訳では失われてしまう可笑しさを原語で味わう喜びは、外国語を学ぶことの醍醐味のひとつです。
西井 凉子(にしい りょうこ)先生
アジア?アフリカ言語文化研究所 教授
東京外国語大学に附置された研究所であるアジア?アフリカ言語文化研究所(AA研)に助手として着任したのは1994年の4月です。それから2025年3月まで、31年にわたって同研究所に勤務しました。
AA研は、フィールドワークという手法と共同研究を行うことを要としています。私の専門分野は文化人類学なので、まさに人類学の実践を行い、その成果を共同研究として発展させて、成果を論文集などで世に問うということが研究活動の中心でしたので、やりたいことを仕事としてできるというとても恵まれた環境だったと思います。共に研究活動を行ってきた同僚や多くの学外の研究者の方々、そしてこうした活動を支えてくださった外大の有能な事務の方々のおかげで、迂闊ものの私がなんとかここまでくることができたことに感謝申し上げます。
AA研では博士後期課程の教育を中心に関わっており、多くの学部学生にとっては何をしているところがわからないという謎の存在だということをきくこともありました。そんなAA研でも私にとっては学生とともに考える授業は、研究と両輪で相互に高めあう充実した機会でした。今後もみなさまが学んだことを糧に多くのことに挑戦し、活躍されることを祈ってます。
おすすめの一冊
ミッチ?アルボム著、『モリー先生との火曜日』NHK出版、1998年
ALSにかかったモリ―教授が、かつての教え子であった著者であるミッチ?アルボムに毎週火曜日14回にわたって死の直前まで「人生の意味」について最後の講義をした記録です。モリー教授は病気の進行によって排泄のケアを他者に託さなくてはならなくなり、それは尊厳を損なう事態であると捉えられるかもしれませんが、他者への「依存」の究極の形として楽しもうとしています。「生きる」ことの意味を、社会的に有益かどうかではなく、より大きな時空において考えさせられます。
林 佳世子(はやし かよこ)先生
東京外国語大学長、元大学院総合国際学研究院教授
本学に就職したのは1993年4月のことです。トルコ語の学科が、中東学科トルコ語専攻として正式に発足した年に採用いただきました。それから30余年。トルコ語のお姉さん?とかお母さん?とかいわれながら、今日に至りました。同僚の先生たちや客員のトルコ人の先生たちとともに運営する15人の学科は「村の分校」のようでしたが、今も卒業生みんなの顔を思い出されます。その活躍を見守れるのは、本当に幸せなことです。
最後の6年間は、学長を務めました。学長1年目の終わり頃からコロナ禍が始まり、バタバタでしたが、コロナを経て、逆に大学と学生の皆さんとの距離は縮まったようにも感じています。教室でも、ガレリアでも、食堂でも、グラウンドでも、皆さんの元気な声が響くこと、そして卒業しても大学を誇らしく思ってもらえるようにすること、それだけが願いであり、行動指針でもありました。新聞報道などでご存知のように、少子化の時代、国立大学を取り巻く環境には厳しいものがありますが、その一方で、弱肉強食の様相を呈する世界のなかで、世界の人と人を、言葉と心でつなぐ東京外大の卒業生の役割はますます重要になっていきます。東京外大で学んだ皆さんが、世界で活躍し、より良い世界をつくってくれること心から願っています。
おすすめの一冊
ラシード?ハーリディー(著)鈴木啓之?本健介?金城美幸(訳)『パレスチナ戦争ー入植者植民地主義と抵抗の百年史』法政大学出版会、2023年
目を覆うばかりのガザの現状を前に、なにもできないことをつらく思っている人も多いと思います。まずは、知ること、そしてみんなに知ってもらうことから、スタートです。
望月 圭子(もちづき けいこ)先生
大学院総合国際学研究院 教授
1989年日本語学科に対照言語学の教員として赴任後、総合国際学研究院所属となり、学部ゼミ?卒論生?博士前期?後期の皆さんと共に、英語?中国語?日本語の対照研究?学習者の母語類型に基づく教授法開発?作文/対話学習者コーパス研究?Cefr-Jによる外国語能力評価研究を続けてきました。また、本学国際日本研究センターを拠点に、リーズ大学?北京大学?上海外国語大学?台湾師範大学と国際共同研究を行い、英語?中国語?日本語学習者の学習者コーパス?誤用?添削検情報の検索ができるシステム
(https://corpus.icjs.jp/)を公開しました。
また、Springer出版社より、 Learner Corpora: Construction and Explorations in Chinese and Related Languages. (2023) として、研究成果を国際共同出版することができました。これも、研究を一緒に積み上げてきた学部ゼミ生?大学院生?教務補佐の皆さん、先生方のお陰です。現在は、メタバースを用いた<英語?中国語?日本語>の対話国際共同教育をサンフランシスコ州立大学?中国文化大学他の海外の大学と行い、その効果を研究する予定でいます。
私は、キャンパスの中央広場?円形回廊が好きです。2000年に現在のキャンパスに移転した際、当時の中嶋嶺雄学長が、「この円形回廊は、<対話の輪?世界の輪?平和の和>の象徴です」とおっしゃったことを思いだします。羽田から広島行きの飛行機に搭乗していた時、右下に私達の円形広場が見え、感動したことがあります。円形回廊支柱には、「交流協定大学の国花を七宝焼で飾る」という設計でした。
事務局の皆様にも、いつも丁寧に教えていただき、大変お世話になりました。
おすすめの一冊
南雅彦著『言語と文化 - 言語学から読み解くことばのバリエーション』くろしお出版、2009年
東京外国語大学の協定大学で、国際共同教育を行ってきたサンフランシスコ州立大学の南雅彦先生の本です。言語とは何か、社会と言語、社会言語学?心理言語学?言語人類学について、具体例とともに、平易に解説されていています。くろしお出版のHPでこの本についての動画講義も公開されています。
甕 隆博(もたい たかひろ)先生
大学院国際日本学研究院 准教授
私が東京外国語大学に赴任したのは1987年7月で、約38年前になります。最初は外国語学部附属日本語学校の数学教員として採用され、様々な組織改編を経て大学院国際日本学研究院の教員として定年となりました。
私は主に留学生日本語教育センターで、日本政府国費学部留学生の予備教育として数学を教えていましたが、ここ数年は学部の世界教養科目や大学院で統計学や教養的な数学も教えて来ました。本学は文科系の大学ということもあり、本格的な数学を教える機会はありませんでしたが、時々数学好きの学生がいたことが印象に残っています。
私が大学や大学院で数学を学んでいたときに「数学者には、①数学の理論の枠組みや概念を創出する人、②その枠組み中で数学的な問題を導出する人、③その問題を解く人、がいる。ほとんどの数学者は第3番目である。」という話しを聞いた記憶があります。実際は、それぞれは相互に絡み合っていますし、第3番目であってもすごいことなのですが。とはいえ、数学の本質的な部分は、人間の物の見方や考え方の構造や構成の抽象化の結果が第1番目のような形で結実したものではないかと思います。
授業ではそのようなことを伝えたいと思いましたが、なかなか難しかったです。そこで、次の1冊をお勧め書とします。
おすすめの一冊
アルフレッド?S?ポザマンティエ/イングマール?レーマン著『数学まちがい大全集』化学同人、2015年
数学は正解か不正解という世界という印象が強いと思いますが、不正解が数学を発展させた実例を通して、まちがいの本質について考えさせてくれます。
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他にも以下の方々が2025年3月31日付で本学を退職されます。
- 中山 裕美 大学院総合国際学研究院 准教授
- 舛方 周一郎 大学院総合国際学研究院 准教授
- 蛭田 圭 世界言語社会教育センター 講師
- VOYAU Elise 世界言語社会教育センター 特任講師
- 梅谷 博之 世界言語社会教育センター 特任講師
- 須永 恵美子 アジア?アフリカ言語文化研究所 特任助教
- SAI KYAW TUN 世界言語社会教育センター 特任教授(ビルマ語、特定外国語主任教員)
- NIKEN PRAMANIK 世界言語社会教育センター 特任准教授(インドネシア語、特定外国語主任教員)
- PHOKHASILI Khammet 世界言語社会教育センター 特任准教授(ラオス語、特定外国語主任教員)
- MANDAL Sujit Kumar 世界言語社会教育センター 特任准教授(ベンガル語、特定外国語主任教員)
- GUILLEMOT Céleste 世界言語社会教育センター 特任講師(フランス語、特定外国語教員)
- BUI THI Duyen Hai 世界言語社会教育センター 特任講師(ベトナム語、特定外国語主任教員)